コーエン: 共和党やドナルド・トランプをあなたが批判した文章をたくさん読んでみますと,しょっちゅうこう言ってますよね,まずいところはかなり明瞭だと.そうしますと,恥のもつ力があまりに弱くなってしまったと考えてるんでしょうか? それとも,情報の非対称が問題なんでしょうか?
単に,悪しき勢力があちこちのプロセスをずっと止めてしまえてるんでしょうか? 明瞭な問題点がずっと存続できてしまうのには,なんらかのミクロ的な基礎があるんですか?
クルーグマン: なるほどね.「なぜなのか」って問わなきゃいけない.ここでの問いは,いろんな人たちにとって,どうして特定の問題点がずっと存続するのかってことだ.〔所得分布での〕上位層の限界税率を下げれば経済成長にものすごい効果があるぞって主張し続ける人たちがいるのはどうしてなのか.そんな主張の証拠はゼロなのに.
で,答えはっていうと,さて,「上位層の減税は経済成長によろしい」と人々が認識して得をするのは誰でしょう?(笑) この問いって,それ自体が答えになってるようなもんだよね.サプライサイド経済学を断固支持する人たちに報酬を与える団体組織を創設するのにかかる費用なんて,この社会にある富の量に比べれば,そう大したものじゃない.
コーエン: でも,有権者の水準に目を向けると,彼らはそういう論争を知らないじゃないですか.共和党の議員が悪いことをしてる様を彼らは見てる.それでいて,共和党の議員たちが再選される.ニューイングランド〔の6つの州の〕州知事たちが揃って共和党だったりします.ぼくには,これってずいぶん奇妙に思えるんですけど.
クルーグマン: 有権者の水準を見ると,2つあるね.ニューイングランドの共和党州知事たちはちょっとばかりおかしい.だって,共和党議員らしからぬふるまいを見せることがよくあるから.
ぼくはニュージャージーにいたこともあるし,マサチューセッツにいたこともある.どちらも民主党色が濃い土地で,おきまりの集票マシーン政治だの,民主党議員たちの汚職だのがあって,それで人々はとにかく集票マシーンの政治から脱するために共和党議員を選んだりする.この人たちは,別に,国民政党として共和党が追及してる政策を追求してるわけじゃない.
現実の仕事をしながら現実の生活を送ってるふつうの人たち,お金をもらってあれやこれやの政策問題を考えてるわけじゃない人たちを考えてみると,当然ながら,ぼくらみたいに言葉や記号をこねくり回してる連中がかんたんに理解できることでも,ふつうの人たちはずっと情報にとぼしい.
いったいどんな政策が主張されてるのかほんとに知ってるかたずねてみたり,共和党の医療保険政策が実際にどんなものなのか知ってるかたずねてみたらいいよ.1年前,2年前に比べて今ならなおさら,大抵の人たちはよく知らない.人々はそういう情報に乏しい.
もちろん,時に,フォックスニュースあたりを自ら進んで見て誤情報を仕入れてる場合もある.〔主語不明〕あれこれと情報を伝えてくるし,公開されてるし,新聞に記事を書く場合もあるし,『ニューヨークタイムズ』に書くことすらあるし,届いたメールを目を通したりする.
どうかしてるような人たちや憎悪に駆られてる人たちは傍に置くとして,ごくふつうの人たちを考えてみると,「アメリカドルをなんかグローバル通貨に置き換える計画があるんですよ」とか,そんな話を誰かに聞かされるわけ.
キミにしろぼくにしろ,そんなのバカな話だなってわかるけど,でも,この人たちは別に愚かな人たちとは限らないわけだよね.ふつうの人たちは,公共の問題にたくさん時間を投じたりなんかしないんだ.またしても党派的なメディアは傍に置くとして,もちろん,〔ふつうの人たちが見聞きする〕ニュース環境は,おうおうにしてひどく情報に乏しい.
ずっと昔,2004年の選挙戦の頃に,医療問題に関するネットワークニュース3ヶ月分の書き起こしを調べてみたんだ.テレビニュースを視聴してニュースを仕入れてる人が医療保険問題についてブッシュとケリーが言ってることをどれくらい知ることになるか,調べようと思って.
で,答えはというと,「ひとっつも.」 医療保険問題でのそれぞれの戦略が政治的にどう展開するかについて伝えたニュースは2つほどあったけど,それぞれの医療保険プログラムの具体的な中身について伝えてるものはゼロだった.そんなんで,有権者がダメなアイディアをダメなものと認識すると期待する理由なんかあると思う?
コーエン: あなたの書いたものを読んでると,かつての進歩的歴史家たちのことを思い出すことが多いんですよね: つまり,特殊利益と自己利益があちこちにあるとか,「これはダメだ」と誰かが暴きたてる必要があるとか,アメリカである種の道義的な闘争が進行中だとか,そういう考えのことなんですけど.その多くは,経済的な自己利益の問題です.
これって,自分から意識して〔進歩的歴史家に〕自分を重ねたり同じ意見をもったりしてるんですかね,それとも,歴史的に一定普遍の要素があるから,おのずとそういう考えになってきたんでしょうか?
クルーグマン: いや,おのずとそうなったんだと思う.なにより,そういう考えって,いつでもいくらか真実なんだよ.国民にさとられないように進行中の自己利益ネタを暴きたてる必要は,いつだってあるでしょ.
でも,大きな所得格差が開き政治の多くを企業が支配してる時代に進歩的な運動がおこったのも事実だ.そして,いまぼくらがいるのも,大きな経済格差と企業の政治支配の時代だ.
だから,世間の通念の多くを批判するときにどこかで聞いた話をすることになるのも当然なんだよ.
エン: これまで何度か,経済学をやる前に歴史を志していたって話を書いてますよね.でも,アイザック・アシモフの『ファウンデーション』3部作の話以外には,あまりそのあたりの事情を説明してませんね.あの3部作は奇妙な歴史というか,歴史指向の小説シリーズですが.
あれ以外に,初期のあなたの歴史背景にはどんなものがあったんでしょう? それでどんな風に指向が形成されました?
クルーグマン: いろんな講義をたくさん履修したんだ.ノンフィクションの読書だと歴史が主体なんだ.現代にそっくり対応させて解釈できるものでもそうでないものでも,過去の物語は世界を把握するすぐれた方法だと思ってる.
コーエン: 90年代中盤に,〔アンソニー・〕ヴェナブルズと共著で,The Quarterly Journal of Economics に論文を書いてますね.タイトルは「グローバル化と諸国間の格差」です.この論文って,実は歴史についての論考ですよね.どういうわけか,そこんところが等閑視され気味ですけど.
〔その論文で言ってるのが〕どういう考えかというと,輸送コストが下がってすごく低くなると,周辺の国々が盛り返して中心の国々が痛手を受けることになるというものでした――それって今日の世界で起きてることだと思いますか?
クルーグマン: 本当のところはわかってないと思う.
ちょうどすぐそこのオフィスにブランコ・ミラノヴィッチがいるんだけどね.ブランコは,世界中での〔実質〕所得の伸びを示す例の有名な象さんカーブを出したよね.
(出典)
1980年代のあと,グローバル化がいよいよ本格的になって,はっきりした移行が生じた.双子のピークが見えはじめた:つまり,世界の上位1パーセントが突出する一方で,世界の中流が――実体としては中国の中流が――急速な成長を経験する.この2つの間はガクンと谷になっている.その谷は,先進国の労働者階級だ.
これって,本当にグローバル化が理由なんだろうか? それとも,共通の要因がはたらいて,グローバル化〔と双子のピーク〕の両方を突き動かしているんだろうか? 本当のところはわかってないと思う.よくできた話なのは間違いない.
トニー・ヴェナブルズとぼくはそこそこ楽しんでた.2人で経済地理を研究して,モデルを当てはめられる1つの方法では,輸送コストが高くグローバル化がほとんどない世界から出発して,この U字型のふるまいが出てくるのに気づいた.
輸送コストをいくらか下げてやると,その世界が先進地域と周辺地域に分化する.で,さらに輸送コストを減らしてやると,諸々のコストがより低いその周辺地域が盛り返してくる.よくできた話だよね.現実に起きたことをとらえるには,おそらく,単純すぎる.
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