スコット・サムナー「安倍首相のいうとおりに賃金を上げるのは日本にとっていいこと?」

[Scott Sumner, “Abe reasons from a price change,” TheMoneyIllusion, October 26, 2017]

フィナンシャルタイムズ』から:

安倍首相は,来年から賃金を3パーセント増やすよう日本企業に要請した.先週行われた衆院選での大勝を利用して日本経済をいっそう加速しようとの思惑だ.

今回,首相がこうして具体的な数字を示すことに決めたことで,民間の賃金調整に対する政府の介入はさらに深まることとなる.昨年,安倍首相はたんに少なくとも前年度と同程度の賃金引き上げを要請しただけだった.

賃金が高くなるのは日本経済にとっていいことだろうか? 場合による.もし,総需要が増加することで賃金が上昇したなら,それはいっそうの雇用増加に結びつくかもしれない.(安倍が提案するように)総供給を減らすかたちで実現した場合には,雇用は減少するだろう.

次の2つの選択肢を考えてみよう:

もし日銀が拡張的な金融政策を採用して名目 GDP を押し上げたなら,労働需要が高まる.すると,これによって経済成長が推し進められ,賃金は上昇し,雇用はポイント B まで上昇する.

もし日銀が名目 GDP を押し上げることなく,それでも安倍がとにかく企業に賃金を引き上げるよう圧力をかけたなら,雇用はポイント C まで下降する.

日本やアメリカやヨーロッパで公職のトップたちがあいかわらず物価変動から推論する経済学101のあやまりをおかしつづけているのには,なんともがっくりくる.

なんでわざわざ大学で経済学101を教えてるんだろうね? 教える目的ってなに?

PS. 税制のニュースがでてきた.ここで Jeff Flake に賛同しておこう.彼は減税ではなく税制改革を提唱している.税制改革は,共和党がいまできる最善最良の策だろう.減税〔この場合とくに富裕層の減税〕は,共和党ができる最低最悪の策だ.

「共和党が存在する目的はただひとつ,減税の実現だ」とよく言われる.この真理から導かれる含意を世間の人たちが十分に咀嚼しているようには,ぼくは思わない.共和党が減税および/または税制改革を実施したとして,そのとき,共和党には存在する理由がもはやなくなる.税制改革が大きな達成となる結末を迎えるかもしれないし,そうならないかもしれない.ただ,どちらにしても,大きな税制案の実現は現代の共和党の終焉の節目になる.もはや存在する理由がなくなるわけだ.

かわりにどんなものがでてくるのか,思い浮かぶ候補はない.白人ナショナリストのスティーブ・バノン系政党かな.国家社会主義政党かもしれない.ともあれ,どんなものであれ,それは現代の共和党とは別物だろう――共和党は死を迎える.

PPS. グラフのポイント B と C に 「3% の賃金増加」と書き添えておくのを忘れていた.

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