ラリー・サマーズは,次の3とおりの結末がだいたい同じ確率でありうると考えている:高インフレ,軟着陸,連銀がブレーキをガンと踏み込んで経済が景気後退に陥る.いい予測だね,どう転んでも間違ったことにならない.(皮肉ってるんだよ.ぼくにしてもこれよりいい予測ができるわけじゃないけれど,彼とちがって市場の予測を静観してる.)
ラリーは,いまや時代遅れのおいぼれ扱いされているらしい.「インフレなんて70年代のディスコ音楽なみに時代遅れだ」とばかりにインフレ懸念のことを考えてる若手評論家たちの引き立て役みたいに思われているようだ.
「は? 俺がなにを心配するって?」派を MMT論者たちと結びつける人たちが一部にいるけれど,これは奇妙なことに見える.ぼくが知るかぎり,MMT論者たちこそ,誰よりも「インフレは大赤字財政で引き起こされる」と信じそうな人たちだ.インフレ率が上がってきたら,MMT論者たちはこう言う――「金融を引き締めたってうまくいかないんだってば.だって,公開市場売買はたんに一方の政府債券をべつの政府債券と交換するだけで,所得を変えないんだから.」 それはつまり,インフレは増税でしか止められないってことだ.すると,インフレが止まっていない場合,財政赤字が大きすぎるってことをそれは示していることになる.というわけで,MMTモデルでは,インフレは基本的に行き過ぎた大規模財政赤字によって引き起こされる.物価水準のごく粗い財政理論だ.
だけど,そうするとぼくはすっかり間違っているのかもしれない.MMT論者の言い分をピンで止めようとするのは,まるでモグラ叩きみたいなものだからだ(かつてポール・クルーグマンが言ったように).ぼくが確かにわかってることといえば,インフレがとても高くなったら MMT論者たちがこう言うってことだ――「ほらね,増税しなくちゃって言ったじゃん.」 そして,インフレ率が上がってこなかったらこう言う――「ほらね,ぼくらはインフレを予想してなかったでしょ.」
一方,どうやら若いツイッタラーたちはかつて大インフレ時代があったことを忘れているらしい.あるいは,なんらかの石油ショックで引き起こされたってことになってるらしい.石油ショックで2桁の名目 GDP 成長がどう引き起こされるのかは,これまで一度も説明されていない.信頼しにくいフィリップス曲線やインフレ予想の変動についてこれまでぼくらが学んできたことは,なにもかも忘れ去られているらしい.とにかく,財政刺激策にやりすぎはありえないってわけだ.
彼らの無知ぶりは,無理もないものなんだろう.室温22度を目標に親たちがサーモスタットを熟練の技で調整して21度~23度の範囲に維持するなかで育った子供たちが「サーモスタットは室温に大して影響しない」と思うようになったとしても,責められないよね?(パウエルはわかってると願っておこう.)
ぼくの考えは,このケインジアン内部での論争と斜交いになってる.ぼくは,財政刺激がいい考えだとは思ってないけれど,それは大したインフレにならないと予想してるからじゃない.インフレ率は,連銀によって決定される.むしろ,それは冷酷な政策だ.なぜなら,将来の税率を上げることになるし,Q3 以降に大した成長を生み出さないだろうからだ.(財政赤字は金利を上昇させるけれど,合衆国みたいな国ではほんのわずかな上昇にとどまる.)
アメリカ史250年にわたって,政治家たちは平時の財政赤字を抑えてきた.なぜなら,インフレか高金利がもたらされるのを恐れていたからだ(あるいは,金本位制への信認が失われることを恐れていた場合もあっただろう).実際のリスクは来年のインフレや金利上昇ではなく,20年後に自分たちが引退した頃に税率が上がることだと政治家たちが勘づいたら,どうなるだろう? 彼らはこの情報にどう反応するだろう?
そろそろその答え合わせの時がくるんじゃないかと思う.