今度でてきた日本の労働市場データは見どころ満載だ.最新データを見ると,失業率は 2.8% にまで下がっている.この数十年で最低の率だ:
アメリカのデータに関して主張されているのとちがって,これはたんに人々が就労をあきらめているためだけではない.まずアメリカと対比される点として,人口に占める就労者の割合がかつてないほど高い水準に急上昇している.下記は,マット・オブライエンの『ワシントンポスト』記事からの引用だ:
個別事例の証拠も,労働市場の需要がきわめて強くなっているのを示唆している:
東京ではどこの店舗もレストランも,「求人」のポスターをかかげているし,24時間営業をやめて労働力の節約をはじめたところも多い.日本最大の運送会社ヤマト運輸はこの27年ではじめて価格を引き上げる予定だ.自社ネットワークで扱える水準にまで物流量を減らそうというのがヤマトのねらいだ.コストを削減するかわりに,経営トップたちは人員を雇って維持するのに苦慮している.
20年以上にわたって労働力が安く有り余った状況が続いたあとに,日本企業は価格を上げるかわりに贅沢なサービス水準を切り下げて縮小する方法を模索している.だが,それもまもなく限界となる.日本は,いよいよインフレに向かっている.
景気刺激策の苦闘は,世界経済の背景にてらして重みをはからねばならない.2014年の一次産品価格の急落,そして 2015年には新興国市場の成長減速がつづいて,円は急激に高くなった.こうした状況は,インフレをうみだすにはきびしい環境だった.アメリカ大統領にドナルド・トランプが選ばれ,それにつづいて1ドル110円以上にまでもどしたことで,ふたたび世界経済は日本にとって好ましくなっている.
そのとおり.この成功は,かなりの逆風のなかで起きた.日本はどうやってなしとげたんだろう? 2013年はじめに政権についたあと〔第2次安倍政権は16年12月26日から〕,安倍は名目 GDP を492兆円から600兆円にまで上昇させる目標を設定した.インフレ目標は 2% に引き上げられ,黒田が日銀総裁に指名された.名目 GDP はほぼ即座に上昇しはじめ,20年もの景気低迷に終止符が打たれた.
いまの日本は名目 GDP 目標達成のほぼ真ん中まできている.もちろん,なにかと弱点もある.インフレは平均で 2% 目標を下回っているし,しばらくこのままだろうと予想される.600兆円の名目 GDP 目標には期限も与えられていない.それでも,全体としてアベノミクスは大成功を収めている.
この成功は実質 GDP も押し上げている.『フィナンシャル・タイムズ』から引用しよう:
刺激策と以前より堅調になった世界経済によって頑健な進歩が続いたことで, 日本はこの10年以上に見られなかった持続的成長の最長記録に達している.
内閣府によれば,2017年第一四半期の経済成長は年率で 2.2 パーセントで,国内総生産の持続的な拡大はこれで5四半期続いたことになる.
この数字は,大方のアナリストによる 1.7% という予測を上回り,およそ 0.7 パーセントという日本の長期的な潜在成長率をはるかに超えている.ここから,おそらく日本経済は生産力の余力を使い果たしつつあり,失業率はこのまま下がり続けるだろうと見込まれる.
ここで学ぶべき教訓は次のとおり:不十分な総需要に労働市場が直面しているとき,解決策は単純だ――さらなる名目 GDP が解決する.」 だが,お金をすっても奇跡は起こせない.比較的すぐに,日本は生産力の限界に達し,実質 GDP 成長は止まる.そのとき,日銀は名目 GDP 成長を年率 2% に維持して公債負担を軽減しなくてはいけなくなる.
しかも,これはすべてゼロ金利と財政緊縮のなかで起こったことだ――ケインジアンたちが不可能だと主張していることが起きたわけだ.ケインジアン経済学にはマイナス点が加わったということ,世界で起きていることを理解する役に立たないということは,いくら強調してもしたりない.