●Tyler Cowen, “Charles Tilly dies at 78”(Marginal Revolution, May 2, 2008)
チャールズ・ティリー(Charles Tilly)が(2008年4月29日に)78歳で亡くなった。訃報記事はこちら。ティリーの専門は歴史社会学ということになるが、彼の影響は経済史の分野(および新制度学派経済学)にも及んでいる。
ティリー博士は、多様な文脈に当てはめることのできる理論の彫琢に役立てるために、原データや同時代人の証言――行政機関に保管されている公文書、未刊の手紙や日記など――が盛り込まれている膨大な量の独自資料の発掘に乗り出した。ティリー博士がとりわけ興味を惹かれたのは、ヨーロッパにおける国民国家の形成過程だった。国民国家は戦争によって作られた面があるというのが、ティリー博士が示唆しているところであり、1990年に上梓された『Coercion, Capital, and European States, AD 990-1990』(ブラックウェル社)では、嵩(かさ)む一方の武器の費用(軍事費)と軍隊の巨大化に伴って、確固たる徴税力を有する大規模で強力な国民国家が必要とされるに至ったと述べられている。
かような見解(「戦争が国家を作った」)は、1985年に書かれた論文(pdf)で既に仄めかされている。暴力(物理的強制力)の行使を独占する団体としての国家はヤクザの用心棒みたいなもの、とは件の論文でのティリー博士の言だ。外敵の存在を強調し、あるいは外敵を作り出し、あるいは外敵を刺激する。しかる後に、国民に対して外敵から身を守るための費用の支払いを求める。それが政府のやり口というのだ。
ティリーが残した成果の中でも、中期の業績――例えば、『The Formation of National States in Western Europe』――が一番重要というのが私の考えだ。それはともかく、アメリカはこの国の社会科学界を牽引する学者の一人を失ってしまったことになる。ティリーのウィキペディアのページには、選りすぐりのリンクが揃っている。こちらのページでは、ティリー流の研究手法(社会科学の分野での研究の進め方)が開陳されている。お薦めだ。