タイラー・コーエン 「マーケティングの標的にされる幼児たち?」(2003年10月29日)/「テレビは子供に好ましい影響を及ぼす?」(2008年9月6日)

●Tyler Cowen, “Tuned-in tots”(Marginal Revolution, October 29, 2003)


全米の1065世帯を対象とした調査(“Zero to Six: Electronic Media in the Lives of Infants, Toddlers and Preschoolers”)によると、2歳以下の幼児の4分の1は自分が眠る寝室にテレビがあり、(2歳以下の幼児の)3分の2は映像メディア(コンピュータ、DVD、テレビ)に1日およそ2時間は触れ合っているという。6歳以下の子供に関して言うと、映像メディアに触れ合う時間が1日2時間というのは親に本を読んでもらう時間の3倍以上の長さに相当する計算になる。

全文はこちらを参照されたいが、「テレタビーズ」に厳しい眼差しが向けられているようだ。

「テレビを見ている幼児たちはマーケティングの標的にされています」と彼は語る。「テレタビーズは1歳の幼児をターゲットにしています。テレタビーズを見ている幼児たちは番組に出てくるキャラクターのおもちゃを買うように購買意欲をそそられており、そのマーケティングは効果を上げています。幼児たちにおもちゃを大量に売りつけるのに成功しているのです。・・・ 1歳の幼児たちが『消費者』に仕立て上げられているのです。テレタビーズに一体どれだけの教育効果があるというのでしょうか? “オーオー、アッグアッグ”(‘ooh-ooh, ugh-ugh’)とつぶやきながらあちこち練り歩いているだけです。赤ん坊のように喋っているだけじゃありませんか。」

私は少しばかり上の世代に属するわけだが(齢41歳! [1] 訳注;2003年10月時点の話)、個人的には電子メディアよりは紙の本のほうがずっとお気に入りだ。そういうこともあって、今回の記事を読んで正直なところちょっぴり物悲しくなったものだ。主観を排した話をすると、新たな世代はコンピュータを巧みに操るスキルを身に付ける必要があるだろうし、新たな世代がコンピュータを容易く操れるようになれば世界全体も多大な恩恵を被ることだろう。というわけで、私としては今回取り上げた記事で語られているような世の流れを有害なものとして憂うつもりはない。ただし、子供たちが電子メディアと触れ合う時間が増えるのと引き換えに(親をはじめとした)大人と過ごす時間が減ることにならずに、電子メディアが親子の触れ合いを側面から支援する役割を果たすようになるのであれば、という条件が付くが。
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●Tyler Cowen, “Do economists think TV is good for you?”(Marginal Revolution, September 6, 2008)


テレビが子供に好ましい影響を及ぼすことはあり得るのだろうか? 「イエス」と答える経済学者がいる。

第二次世界大戦後のアメリカでは都市ごとにテレビの放映が始まったタイミングにズレがあるのだが、ジェンツコウ氏(Mr. Gentzkow)とシャピロ氏(Mr. Shapiro)の両人はこの事実に目を付けた。第二次世界大戦中は新たにテレビ局を開設することは禁じられていたが、終戦直後の1946年以降からしばらくの間は新たな放送免許の交付が再開されることになる。しかしながら、連邦通信委員会(FCC)は周波数の割り当て方法を見直すために1948年9月から1952年4月までにわたって新たに放送免許を交付しない旨を決定した。その結果、都市ごとにテレビの放映が始まった(家でテレビを視聴できるようになった)タイミングにズレが生まれることになったのである。

ジェンツコウ氏とシャピロ氏の両人は1965年に実施されたアメリカ国内の800校を対象とする教育実態調査の結果を細かく検証した。この調査では総勢34万6662人の学生(6年生、9年生 [2] 訳注;日本だと中学3年生にあたる、12年生 [3] 訳注;日本だと高校3年生にあたる)のテスト結果が集計されている。親の収入や学歴の違い、その他の要因をコントロールした上でデータを検証したところ、テレビ放映が始まった時期が早い都市に住んでおり、それゆえ幼少期(就学前)にテレビを視聴する機会に多く恵まれた子供ほどテストの成績が高い傾向にあることが見出されたという。

さらには、テレビの効果(テストの成績を高める効果)がとりわけ強く表れているのは、家の中で日常的に使用されている言語が英語ではなく、両親の学歴が低い家庭で育った子供だという。「どうしてそういう結果になるのかについては正確にはわかりませんが、テレビが子供の認知的な能力(スキル)の形成にどういう効果を及ぼすかはテレビを見ることと引き換えにどんな活動が犠牲にされるかにかかっているのではないかと思います。そういう解釈は成り立つと思います」。シャピロ氏(28歳)はそう語る。

全文はこちらを参照されたい。引用文の中に出てくる「シャピロ氏」というのは本ブログの読者にはお馴染みのあの「神童」 のジェシー・シャピロ(Jesse Shapiro)のことだ [4]訳注;ちなみに「ジェンツコウ氏」というのはマシュー・ジェンツコウ(Matthew … Continue reading。上の引用文で話題になっている論文はこちら(pdf)である。

(追記)テレビと子供の認知的な能力(スキル)との関係についてはタバロックが過去に優れたエントリーを書いている。あわせて参照されたい。

References

References
1 訳注;2003年10月時点の話
2 訳注;日本だと中学3年生にあたる
3 訳注;日本だと高校3年生にあたる
4 訳注;ちなみに「ジェンツコウ氏」というのはマシュー・ジェンツコウ(Matthew Gentzkow)のことであり、2014年度のジョン・ベイツ・クラーク賞受賞者である。ジェンツコウの業績を概観したものとしてはシュライファーの次の論文を参照されたい。 ●Andrei Shleifer, “Matthew Gentzkow, Winner of the 2014 Clark Medal”(Journal of Economic Perspectives, vol. 29(1), pp. 181-92)
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