タイラー・コーエン 「国民意識の高まりは異民族間に横たわる信頼問題を和らげるか?」(2017年8月5日)

●Tyler Cowen, “National identity eases cross-cultural trust problems”(Marginal Revolution, August 5, 2017)


今回紹介するのはアマンダ・レア・ロビンソン(Amanda Lea Robinson)の論文だ。題して「ナショナリズムと異民族間における信頼:アフリカの境界地帯におけるフィールド実験から得られた証拠」(pdf) [1] 訳注;学術誌に掲載されたバージョンはこちら。主要な結論は以下。

多民族国家に生きる個人は同じ民族に属する同国人を異民族の同国人よりも信頼しがちである。しかしながら、国境線によって区切られた国家――異なる民族が共有する領土――に対する帰属意識の高まりは同国内の異民族間に横たわる(同じ民族に属する同国人を異民族の同国人よりも信頼しがちという)信頼問題を和らげる可能性があるというのが本論文の主張である。本論文ではマラウイ共和国内の異国民と異民族が隣接する境界地帯で「フィールド実験」を行い、各人の国民意識(マラウイという国への帰属意識)の強さを計測するとともに、(国旗に関する質問を事前に行うなどして)国家という存在(マラウイという国)に対する注意を人為的に喚起した後で被験者にゲーム(「信頼ゲーム」)を行ってもらって他者への信頼度(他者にどの程度の信頼を寄せるか)を計測した。その結果、他者への信頼度を予測する上で国籍が同じかどうかは同じ民族に属しているかどうかと同等の高い力(予測力)を備えていることが判明した。さらには、国への帰属意識は(同国内の)異民族間に横たわる(同じ民族に属する同国人を異民族の同国人よりも信頼しがちという)信頼問題を和らげることも見出された。国への帰属意識が弱い(薄い)人物は異民族の同国人よりも同じ民族に属する同国人に信頼を寄せがちである一方で、国への帰属意識が強い人物は誰に信頼を寄せるかにあたって民族の違いにこだわらない傾向にあったのである。また、(国旗に関する質問を事前に行うなどして)国家という存在に対する注意を人為的に喚起すると(国民=マラウイ人というアイデンティティに意識を向けさせると)国への帰属意識が弱い面々の間で同じ民族に属する同国人をとりわけ信頼する傾向が和らげられることも見出された。本研究を通じて得られた一連の結果は、強固で顕著な国民意識には多民族国家での異民族間に横たわる信頼問題を和らげる可能性が備わっていることを示すミクロレベルの証拠を提供していると言えるだろう。

本論文はBen Southwoodのツイート経由で知ったものだ。

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1 訳注;学術誌に掲載されたバージョンはこちら
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