本稿では,移住しながら狩猟・採集で暮らしていた社会が大勢で協力して共同財を生み出していた証拠を提示する.狩猟民たちは大規模な共同体での狩猟に従事し,共有の資本設備をつくりあげていた.彼らは地域環境の改善に共同で投資していた.さらに,戦争・同盟関係・交易にも参加していた.大規模な集団行動は,生存するうえできわめて重要な役割を果たすことも多かった.公共財をもたらす際には,多人数の共同行動がなされ,個々人の貢献は小さなものにとどまった.この証拠からは,ヒト進化史の大半にわたって続いた更新世社会で大規模協力が発生し,したがって,小集団でのやりとりでのみ進化し形成された心の仕組みから完新世の食物生産社会がうまれ,そこで大規模な協力がなされるようになった見込みは薄いことが,うかがいしれる.ヒトの大規模な協力は適応として説明される必要がある.その根っこは,ヒトに独特な生物学的仕組み・文法をもつ言語・向上した認知能力・累積的な文化適応にある見込みが大きい.
これが本当なら,社会科学の相当部分が修正されることになる.それには,原初的な欲求についてハイエクが語ったことも含まれるし,初期のヒト進化の各種条件に関するさまざまな想定や進化生物学を「即席で」引き合いにだすさまざまな議論も含まれる.
Via Kevin Vallier.先日,Vallier は『二極化時代における信頼』を出版した.この本は,この話題を考えている人なら誰でも面白く思うはずだ.
論文の第二筆者は「リチャードソン」ではなく「リチャーソン」(Richerson)です。
なおしました.ありがとうございます.