道に迷うのは,いつでも気が重い.文明が発達するまえは,死の宣告となることも多かった.いまでも,ときにそうなる場合がある.だが,近年の研究からこんなことがわかっている――ふだん GPS を使っている人たちに紙と鉛筆を渡して,移動した地域の地図を書いてもらうと〔GPSを使わない人たちより〕不正確で,近くを通ったランドマークについて覚えている詳細も少ないというのだ.逆説のようだが,そうなる理由は,GPS を使う人たちは行きたいところにいくときあまり間違わないためらしい.道に迷うと――もちろん,あとで戻ってこられたと仮定するが――自明ないいことがある:外界についてもっと広く学んで自分の視点を切り替える機会がえられるのだ.この見地からみると,GPS が提起する最大の脅威は,自分のいるところを正確にわからなくなる点にあるのかもしれない.
この一節は,『ニューヨーク・タイムズ』のキム・ティングレーによる興味深い長文記事から引用した.記事の題材は,マーシャル諸島住民がかつて利用していた航海の秘密だ.その仕組みの一端を少し引用しよう:
マーシャル諸島は,航海する者にとって厳しい難所だ:70平方マイルの地域に,5つの島と29の環礁がひしめき,数百年前に地下火山の周辺にできたいくつもの珊瑚礁の輪がいまでは浅瀬を囲んでいる.これらの点とドーナツがつらなって2つの列島をなし,南北に平行線を描いている.こうした諸島からいちばん近い隣人までは平均で100マイル離れている.アラスカや南極やカリフォルニアやインドネシアでうまれた大波は,数千マイルを旅して,ここマーシャルの低い砂嘴にやってくる.陸地にあたった大波の一部は弧を描いて反射する.ちょうど,スピーカーから広がる音波のようなものだ.他の波は環礁や島のまわりに渦をなしたり,風下にまぎらわしい三角波をつくりだしたりする.水先案内は,こうしたさまざまな波のパターンを感覚と視覚で読んでみせる技法だ.しろうとの目には洗濯機の渦のように無意味にみえるところにあれこれの微妙な差異を見いだすことで,「リメト」(マーシャル諸島の言葉で「海の人」)はいちばん近い陸地がどこにあってどれくらい離れているのかを視界に入るずっと前に判断できる.
おすすめ.
“この見地からみると,PGS が提起する最大の脅威は,” ここはPGSになっていますがGPSでしょうか?
ご指摘のとおり,タイプミスです.修正しました.助かります.
いえいえ、こちらこそ丁寧に対応して下さり恐縮です