●Tyler Cowen, “Classical economics reading list”(Marginal Revolution, October 21, 2010)
本ブログの熱心な読者の一人であるJoelから、次のような質問を頂戴した。
経済学を学んでいる最中の大学生なのですが、コーエン殿に是非ともお尋ねしたいことがあってメールさせていただきました。古典派の経済学者の中で誰が一番優れているとお考えでしょうか? 彼らの著作の中でどれが一番重要だとお考えでしょうか? リカード学派という意味での古典派に限定せずに、経済学全般に影響を及ぼした重要な著作(その中でも、数式だとか統計だとかに拠らずに、言葉による説明で突っ切っている著作)という意味でも結構です。最も影響力があって、最も重要だと考える本を20冊程度選んでブックリストを作成するとしたら、どの本をピックアップなさるでしょうか? スミスの『国富論』やケインズの『一般理論』はおそらく外せないでしょうが、その他となるとどれを選んだらよいのか判断に迷います。リカードやハイエクでしょうか? それとも、シュンペーターでしょうか? ジャン=バティスト・セイでしょうか?
狭い意味での古典派経済学(1871年以前の [1] 訳注;ジェボンズ、ワルラス、メンガーらによる限界革命以前の 主流派経済学)に話を限定することにして、私なりにブックリストを作成すると以下のようになるだろう。
1. アダム・スミス――『Wealth of Nations』(邦訳『国富論』):当然の選択だ。
2. デイヴィッド・ヒューム――『Essays, Moral, Political, and Literary』(邦訳『ヒューム 道徳・政治・文学論集[完訳版]』):経済学者としての深みという点ではスミスに劣るが、分析の正確さではスミスに優っていると言えるだろう。それに加えて、美文家でもある。
3. デヴィッド・リカード――『The Principles of Political Economy and Taxation』(邦訳『経済学および課税の原理』)の最初の6章:現実との関連性を犠牲にした上で、分析の厳密さが追求されている。依然として見るべきものはあるだろう。リカードの議論を数理的なモデルのかたちで理解したければ、マーク・ブローグ(Mark Blaug)の『Economic Theory in Retrospect』(邦訳『新版 経済理論の歴史』)を手掛かりにすればいいだろう。
4. 限界革命の先駆者たち:とりわけ、サミュエル・ベイリーの価値論(邦訳『リカアド価値論の批判』)と、マウンティフォート・ロングフィールドの価格理論がお薦め。ところで、限界主義的なアプローチは(ジェボンズらによって限界革命が成し遂げられるまで)しばらくの間行き詰まることになったわけだが、どうしてそういうことになったのか疑問を抱きながら読むといいだろう。限界主義的なアプローチが突如として大きなインパクトを持つようになるまでには、分析上のテクニックがどこまで精緻化される必要があったのだろうか?
5. トマス・ロバート・マルサス――『An Essay on the Principle of Population』(邦訳『人口論』)および『Principles of Political Economy』(邦訳『経済学原理』):マルサスと言えば、人口問題に関する予測の誤りで批判されてばかりいるが、需要と供給、弾力性といった概念を早くから理解していた一人でもある。それだけではない。彼の著作の中には、ケインズ経済学や環境経済学の萌芽も見て取れるのだ。マルサスは、歴代の経済学者の中でも、最も強力で、最も深遠で、最も過小評価されている一人だと言えるだろう。ケインズの『Essays in Biography』(邦訳『人物評伝』)の中に収録されているマルサス論にも目を通すべきだろう。
6. エディンバラ評論:当時の経済学ブログみたいなものだと言っていいだろう。マルサスらが寄稿している経済関係の論説――とりわけ、貨幣論に関する論説――に目を通してみるといい。ところで、中身を手っ取り早く検索する方法を知っている人がいたら、コメント欄で教えてもらえたら幸いだ。
7. ジョン・スチュアート・ミル――『Autobiography』(邦訳『ミル自伝』;「経済学のブックリストなんですけど?」と疑問の声が上がるかもしれないが、これで間違いない)および『Essays on Some Unsettled Questions of Political Economy』(邦訳『経済学試論集』):経済思想家としてのミルの深さは過小評価されている。ミルは、当時の興味深い思想動向を余すところなく自らの中に取り込んでいるが、この点はミルの最大の強みであると同時に、最大の弱みでもある。
8. マルクス――『The 1844 manuscripts』(邦訳『経済学・哲学草稿』):古典派経済学に対する批判の書。そういうことでいうと、当時のロマン主義者の著作も試してみるといい。サミュエル・コールリッジやトマス・カーライルあたりから入るといいだろう。
フランスの経済学者だと、誰の著作を読むべきだろうか? 個人的な意見だと、セイは退屈だが、バスティアは面白いと思う。クールノーは桁外れの業績を残しているが、わざわざ原典にあたる必要はないだろう。当時のフランスにおける経済論争の様子を知りたければ、オーギュスト・コントやフレデリック・ル・プレといった変わり者の著作を試しに読んでみたらいいだろう。
References
↑1 | 訳注;ジェボンズ、ワルラス、メンガーらによる限界革命以前の |
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