タイラー・コーエン 「経済リテラシーのお粗末な実態」(2004年4月6日)

●Tyler Cowen, “The sorry state of economic literacy”(Marginal Revolution, April 6, 2004)


・・・(略)・・・政策関連の基本的な事実をめぐって深刻なまでの混乱が見られると言わねばならない。例えば、聞き取り調査に回答した人のうちのおよそ半数――55歳以上の回答者に限ると、4分の1――が、外来患者の薬代(処方せん薬代)が(公的な医療保険制度である)メディケアの対象になっている(外来患者の薬代も保険の適用対象)と答えている。医療制度改革法がまだ施行されていない(それゆえ、外来患者の薬代は保険の適用対象外である)にもかかわらずである。さらには、半数以上の回答者は、連邦政府が抱える財政赤字の大まかな額を言い当てることができなかった。「医療保険に加入していない国民の割合は、どのくらいだと思いますか?」という質問に対する回答の平均値はというと、37%。正解は15% [1] 訳注;国民の15%が医療保険に加入していないなので、倍以上の数値だ。

ところで、一般のアメリカ人は、経済に関する情報をどこから仕入れているのだろうか? 我々の調査によると、テレビが飛びぬけて第一位の情報源だった。しかしながら、テレビを(経済に関する情報を得るための)情報源として重視している回答者は、経済リテラシーがかなり低い(経済問題に関する事実誤認が多い)傾向にあった。

第二位の情報源は新聞。意外なことに、全国紙や大都市圏で発行されている新聞よりも、地方紙の方がよく利用されているようだ。

第三位の情報源は、友人や親戚(との会話)。それに次いで、政治家、ラジオ、経済学者という順番になっている。その後にくるのがインターネット。ちなみに、「経済に関する情報を得る上で、あなたが最も頻繁に利用している情報源はどれですか?」という質問では、インターネットは第七位という結果だが、「経済に関する情報を得る上で、あなたが最も重視している情報源はどれですか?」という質問では、インターネットは第三位という結果になっている。

情報源の数や情報をチェックする回数が多い人ほど、経済リテラシーが高い傾向にある。とは言え、若干高い程度だ。メディアにとっては考えさせられる結果だろう。

また、前回の大統領選挙で投票したと答えた回答者は、投票に行かなかったと答えた回答者よりも、経済リテラシーが高い傾向にあった。

経済リテラシーの面でいうと、リベラル派、穏健派(中道派)、保守派の間で差はなかった。しかしながら、ノンポリ層(自らの政治的な立ち位置について真剣に考えたことがないと答えた人)――回答者全体の3分の1――は、自らの政治的な立ち位置に自覚的な人に比べると、経済リテラシーの面で明らかに劣っていた。

アラン・クルーガー(Alan Krueger)がニューヨーク・タイムズ紙に寄稿している記事からの引用だ [2]訳注;記事で報告されている調査結果の詳細は、次の論文を参照されたい。 ●Alan S. Blinder and Alan B. Krueger(2004), “What Does the Public Know about Economic … Continue reading。クルーガーによると、世間一般の人々が経済問題に対してどういう意見を持ち合わせているかは、その人の自己利益ではなく、その人のイデオロギー(その人が保守かリベラルか)によって予測がつくとのことだ。

ブライアン・カプラン(Bryan Caplan)も同じ話題をカバーしているが、中でもこちらの論文(pdf)は個人的にお気に入りの一つだ。少しだけ引用しておこう。

経済問題に関する信念と所得水準との間にはこれといった関係は見出せないが、それとは極めて対照的に、学歴(教育水準)は経済問題に関する幅広い信念に強力な影響を及ぼす。例えば、経済についての見方でいうと、哲学の博士号を持っているタクシードライバーは、博士号を持っていない同業のタクシードライバーよりも、職業を異にする博士号取得者と似たような見方をする傾向にあるのだ。

クレイグ・ニューマーク(Craig Newmark)も関連する話題を取り上げているので、あわせて参照されたい。

References

References
1 訳注;国民の15%が医療保険に加入していない
2 訳注;記事で報告されている調査結果の詳細は、次の論文を参照されたい。 ●Alan S. Blinder and Alan B. Krueger(2004), “What Does the Public Know about Economic Policy, and How Does It Know It?”(Brookings Papers on Economic Activity, vol.35(1), pp. 327-397)
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