デイヴィッド・ベックワース「FOMC はインフレ目標をいくらか超過させてもいいと見てる」

[David Beckworth, “Why Yes, the FOMC Would Like Some Inflation Overshoot Now,” Macro Musings Blog, April 12, 2018]

連銀は,対称的な2パーセントインフレ目標をもっている.2017年と2018年の「長期目標と金融政策についての声明」で,FOMC はこう述べている:

2パーセントのインフレは(…)連銀の法定義務と長期的にもっとも整合するものというこれまでの判断を本委員会はあらためて確認する.インフレ率がこの目標を継続的に下回ったり上回ったりした場合,委員会はこれを懸念する.この対称的なインフレ目標を国民に明確に伝えることで,長期のインフレ予想が堅固に定着する一助となる(…)


連銀の多くの当局者も,この点を繰り返し述べてきた.また,彼らもインフレ目標が対称的なものと考えている.このように考えた場合,ときおりインフレが〔目標を〕超過することが許容される.しかしながら,こうした主張がある一方で,連銀はこれまで長らくインフレ目標を下回り続けている.2012年に明示的に〔2パーセントの〕目標が採用される以前から長らく暗黙に2パーセント目標が目指されていたことを認めるならば,この目標未達はほぼ10年近くにわたって続いてきたことになる.これはのぞましい状況ではない.

ぼく自身も含めて多くの観測筋は,連銀の2パーセント目標は対称的というより上限なんだという証拠だと受け取ってきた.この理解は,FOMC みずからの「経済予想概要」(SEP) でのコア個人消費支出予想でも裏付けられていた:

各参加者の予想は,適切な金融政策についての各人の評価に基づいている

このため,「経済予想概要」からは,連銀が金融政策を正しく行っているかどうかに左右される経済変数を FOMC 委員たちがどう予想しているかが明らかになる.ごく長期については,経済政策を正しく行うこととは,その翌年に2パーセントインフレ率を超過しないことだ.これは下記のグラフに見られるとおり.長い期間を視野に入れている場合には,連銀はインフレに対して有意味な影響をもつはずだという点に留意しよう.

こうして「経済予想概要」から明らかになる選好は,対称的なインフレ目標とうまく合致しない.これが,ナラヤナ・コチャラコタがいままで何度も述べてきた論点であり,多くの連邦準備制度ウォッチャーのいらだちのもとになってきた部分でもある.たとえば英『エコノミスト』のライアン・アヴェントはもう何年も「目標超過を試してみては」と連邦準備に問いかけている.

でも,もう問いかけなくていい.FOMC の委員たちはこの3月の FOMC 会合でようやくインフレ目標超過を試してみることを決定した.はっきり明言したわけではないけれど,「経済予想概要」をとおして,暗黙にそうしている.2009年いらいはじめて,「経済予想概要」の翌年コア個人消費支出予想の中心傾向が2パーセントから上に突き出ることになった.具体的には,2019年の中心傾向が 2.0パーセントから 2.2パーセントの範囲になっている.2パーセントを大きく上回っているわけではないけれど,進歩ではあるし,インフレ目標超過ではある.

FOMC 3月会合の議事録でも,この新たなインフレ超過許容がほのめかされている:

数名の参加者から,穏やかなインフレ超過はより長期のインフレ予想を引き上げ,委員会の2パーセントインフレ目標と整合する水準にこれを定着させる一助になるかもしれないとの提案があった.

もしかすると,インフレ目標超過の欠如についてさんざん不平を言ってきたのが,ようやく実を結んだのかもしれない.そうだとすると,トランプの拡張的財政政策と同じく,この目標超過もおそらくは数年ばかり遅すぎたのが皮肉なところだ.インフレ超過は,2009年~2011年頃ならもっとよかっただろう.だが,上記のグラフに見てとれるように,知恵の泉枯れることなき FOMC は,まさにその時期に,インフレ率は 1パーセントに近い方がよいと考えていた.その結果として,FOMC 当局者は「経済予想概要」にあわせて景気循環どおりのインフレ率を標榜しているように見える〔ここで「景気循環どおり」(procyclical) と言っているのは,景気後退で物価が下落しつつあるときに低めのインフレ目標を望ましいと考え,景気が回復して物価が上がってくると今度はインフレ目標超過を許容してもよいと考える,ということ〕.これは,金融政策のあるべき姿とはちがう.

P.S. インフレをもっと景気循環に対抗させることによってこうしたタイミングの問題を避ける金融政策の枠組みがあればいいんだけど.景気後退中にインフレ率を上昇させる一方で景気が過熱してきたらインフレ率を下降させる金融政策アプローチを誰か考え出してくれたらきっとステキだよねぇ.つまり,イスラエルが GDP デフレータでやったようなことをね:


【イスラエル銀行は 1%-3% 範囲のインフレ目標をとり,景気循環に対抗するインフレ率を許容した】

景気循環に対抗するインフレ率が,さらには安定した総需要の伸びにつながっている.ここでも,このアプローチを一貫して実装する金融政策アプローチがあればいいのにねぇ.


【…これが安定した名目需要の伸びにつながった】

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