●David Beckworth, “Global Nominal Spending History”(Macro Musings Blog, November 3, 2009)
マクロ経済の安定化を実現する上では、インフレーション(物価)の安定を図るよりも、名目支出(総需要)の安定を図る方が重要だ、というのがかねてからの持論なのだが、その観点からアメリカのマクロ経済の歴史を眺め直してみたらどうなるだろうかと考えて、かつてこのブログでもそのことを話題にしたことがある。繰り返しになるが、名目支出の動向に着目すると、(1)1960年代中頃から1980年代初頭にかけての、いわゆる「グレート・インフレーション」(”Great Inflation”)(pdf)は「名目支出のばか騒ぎ」(”Great Nominal Spending Spree”)、(2)この度の危機に先立つ25年間の、いわゆる「大いなる平穏期」(”Great Moderation”)は「名目支出の大いなる平穏期(”Great Moderation in Nominal Spending”)、そして、(3)2008年後半から2009年初頭にかけての時期は「名目支出の大クラッシュ」(”Great Nominal Spending Crash”)と、それぞれ名付けることができるだろう。この点を図にまとめると次のようになる。
つい最近のことだが、OECD加盟国のうち25カ国を対象に、1960年第1四半期以降の名目GDP(PPPベース)のデータが4半期ごとに集計されていることを知った。その25カ国というのは以下の国々。オーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイスランド、アイルランド、イタリア、日本、ルクセンブルグ、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、イギリス、アメリカ。この25カ国を合わせると、経済規模で見て、世界経済全体のおよそ半分ほどを占めており、それゆえ、世界全体の名目支出の動向を知る上で何らかのヒントを与えてくれるであろう。そこで、先ほどと同じように、名目支出の動向に着目して、世界全体のマクロ経済の歴史を眺め直してみた結果をまとめたのが次の図である。
二つの図を比べると、大変似通った動きを辿っていることがわかるが、この事実は、アメリカ経済の規模の大きさと影響力の強さを物語る証拠であるように私には思える。それに加えて、FRBの金融政策には、世界経済全体の流動性、ひいては、世界経済全体の名目支出を左右するだけの大きな力が備わっていることを物語っているようにも思える。