ベン・バーナンキの新著『危機と決断』(The Courage to Act) の書評を,外交問題評議会に書いた (pdf).一節を抜粋しよう:
基本的に,バーナンキは自分がやったことを世界に理解してもらおうとしてる.そして,理解するために読者はあらゆることを知らないといけない.
本書はそれに成功している.600ページにもわたる歴史の海を泳ぎ切るつもりがあって,しかも,登場する経済理論と政治の役者たちについていくらか知っている読者なら,ベン・バーナンキはきびしい状況でいい仕事をしたいいヤツだと思いつつ本を閉じるだろう.
だが,本書を読み進めていくと,いたるところでそれに終わらない話が明らかになる.『危機と決断』から得られるなによりも興味深い教訓は,バーナンキその人に関することではなくて,彼が切り盛りしていたシステムに関する教訓だ.その鍵となる事実は,アメリカがマクロ経済の課題と金融政策を取り扱う方法が,根本から欠陥を抱えているということだ.学界でも政界でも,旧い考えや偏見が堅固に定着していて,危機や不況の災厄ですら,これを駆逐するのに足りなかった.
書評で述べた要点は次のとおり:
1. バーナンキは,しかるべきときにしかるべき場所にいたしかるべき人物だった.天の配剤かと思うほど,金融危機とその後の大不況の両方でアメリカの舵取りをするという任務に適任の人物だった.その適性の多くは,(ロバート・ルーカスその他の人々のように) 大不況の甚大さを軽視しようとしない意志と,(他のニューケインジアンたちのように)金融部門を無視しない意志に関わっていた.
2. だが,70年代のインフレへの反応として80年代につくりだされた,緩和的な金融政策への制度的・文化的・知的な障壁は盤石で,これによってバーナンキと連銀は雇用を促進するもっと劇的な手段の採用をさまたげられ,マクロ経済学の通説を徹底的に再考することもさまたげられた.
3. だが,マネタリストや新古典派やオーストリア学派その他が数世代にわたってつぶそうと試みてきたにもかかわらず,財政ケインジアニズムも生き延びている.アメリカ人は,根っこのところで,財政刺激策は効くと信じている.
4. 共和党の政治的な急進主義は,経済の息を吹きかえそうとするバーナンキの対処策にとって大きな障害だった.右派(ロン・ポール)から左派(バーニー・サンダース)にまでまたがる反連銀ポピュリズムも,アメリカ人がふたたび働けるようにするという目標を妨害した.
書評全文はここで読めるよ! (pdf)