ポール・クルーグマン「『それで経済学者のつもりかよ?』」

Paul Krugman, “‘You Call Yourself an Economist?’” Krugman & Co., September 5, 2014.
[“Real Americans and Real Economics,” The Conscience of a Liberal, August 25, 2014.]


『それで経済学者のつもりかよ?』

by ポール・クルーグマン

Eric Thayer/The New York Times Syndicate
Eric Thayer/The New York Times Syndicate

もしかしたらぼくの妄想かもしれないけど,どうも,「本物のアメリカ人」がどうのって話を耳にすることが昔より減ってるように思える――「アメリカという国の本質は,小さな街に暮らす白人にある」って概念は,最近だとサラ・ペイリンと結びついてるけど,それと別の誰かさんにも結びつきがある.誰でしたっけね,クリントン大統領とオバマ大統領の間にホワイトハウスに住み着いてた人で,国民の判断を誤らせて戦争に導いた人なんですけどね.ともあれ,右派ではいまでも多くの人が「本物のアメリカ人」をそんな風に理解してる.

「本物のアメリカ人」って概念に考えをめぐらせたきっかけは,ぼくの文章に寄せられる反応について気づいたことと似てる.いちばんどぎつい憤怒満載のメールやボイスメールがやってくるのは,いかにも経済学者っぽいことを書いた後のことが多いんだ.で,典型的に,そうしたおたよりの罵倒・暴言には,こんな感じの一節がある:「それで経済学者のつもりかよ?」(“You call yourself an economist?”)

わかるかな,この罵倒をよこしてる人は,経済学ってのはこういうものだって考えをもってる:彼は(いつも決まって男性なのよ),「本物の経済学」は自由市場礼賛を歌い上げるものだって信じてる――基本的には,「資本主義ばんじゃーい」な学問だと信じてるんだ.べつにマルクス主義者にならなくたって,もっと限定をつけた見解をとることだってできるんだけど,この手の人にとって,それは都合がわるい.この手の人は,ぼくが恐れ多くも経済学者を名乗っていて,しかも世間がぼくをまじめに取り合ってることに腹が立って仕方ないんだ.茶会党の連中なら誰を見てもそんな感じだけど,他にもそういう人たちはいる――テレビのビジネス番組の司会者だとか,一部の有名エコノミストだとかも同様だ.

ほんとに奇妙なのは,いまほどに自由市場を礼賛する見解が証拠に支持されない時代も想像しがたいってところだ.いまぼくらがようやく脱しつつあるあの劇的な経済崩壊は,供給サイドの要因にはなんの関係もなかった.明らかに,市場の機能不全につながりがあるように思えた.

その崩壊のあと,本物の経済学者とされた人たちは,「インフレがとめどもなく昂進する」「金利が急騰する」などと何度も予測してみせた.で,そのすべてが見事に大外れになった.一方,ニセモノとされたぼくみたいな連中は,それなりにうまく予測してみせた.

というか,平時においても,「本物の経済学」が正しいって証拠はほとんどありゃしない.競争的市場の効率性はすてきなお話だけど,ふつう科学理論を確証しようってときに探し求める,劇的な成功を収めた予測はどこにある?

それどころか,経済学の業界では,「ミクロ経済学は頑健で妥当なのがわかっているがマクロ経済学はスカスカで疑わしい」ということになってるけど,この一般的な推定がよって立つ土台は偏見であって証拠じゃないように,ぼくには思える.

そうだね,ミクロ経済学の多くは,個々人の利潤最大化プラス均衡から厳密に導き出せる.でも,正確なところ,どうして「だからこれは正しい」ってことになるの?

そんなわけで,ぼくが思い描く本物のアメリカはぼくらが実際に暮らしてる多種多様なアメリカだし,ぼくが思い描く本物の経済学は有用そうに思えるいろんなアイディアと技法の折衷的な混交で,厳密なミクロ的基礎があるかどうかは関係ない.

で,ぼくは本物のアメリカ人にして本物の経済学者としてものを言ってるのよ.

© The New York Times News Service

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  1. ほんとに奇妙なのは,自由市場礼賛じゃないこまやかな見解がいま以上に支持される時代も想像しがたいってところだ.

    →この見解についてほんとに奇妙なのは、いま以上に根拠が(この見解を)支持しない時代は想像しがたいってところだ

    日本語を読むだけで誤訳であることが分かるはずですが。訳している方も意味が分かっていないなあと思いながら訳してませんか? そういう部分については少なくとも誰かに尋ねるべきだと思いますが……

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