Paul Krugman, “Is Scotland Prepared for Independence? Not Yet.,” Krugman & Co., Feb 28, 2014. [“Scots Wha Hae,” Feb 24, 2014]
スコットランドは独立の用意が出来ているかな? いや,まだだね
by ポール・クルーグマン
スコットランド独立の是非について,ぼくはなんの立場もとっていない.アメリカ人として,ぼくはあちこちの民主政府が数多く多様であってくれるといいなって思ってるけど,スコットランド人のいらだちも理解する.デイヴィッド・キャメロンの英国につながれている彼らの心情はわかるつもりだ.
ただ,全体としていい考えであろうとなかろうと,独立するには堅固な金融の基盤をもたなくちゃいけない.で,スコットランドの独立運動を見ていてぼくは心配になってる.独立支持者たちがこの決定的に大事な問題について語ったことは,ひどくトンマなように思えるからだ.
独立運動の言い分によれば,問題なんてなにもないよ,だそうだ――スコットランドはとにかく現状のままポンドでやっていくことに変わりない.でもね,それって,彼らが認識しているよりもずっと問題をはらんでいるんだよ.
たしかに英国は――「連合王国の残党」または「継続するイギリス」または,まあ何でもいいや――スコットランドがポンドを使うのを邪魔できない.ちょうど,エクアドルがドルを使うのを合衆国が止められないのと同じことだ.でも,もちろん,ユーロ危機から得られる教訓からすると,共通の連邦政府がない共通通貨はすごく危険なんだよね.
それどころか,ポンド採用のスコットランドは,ユーロを使ってる国々よりいっそうひどいことになる.なぜって,イングランド銀行はスコットランドのいろんな銀行に対して「最後の貸し手」となる義務をいっさい負っていないんだもの――つまり,マリオ・ドラギ以前の欧州中央銀行よりもさらに地域の金融安定に対してとる責任は小さなものになるってことだ.それに,ドラギ以後の欧州中銀〔に相当するもの〕を〔欧州よりも〕はるかに欠落させることになるだろう.ドラギ以後の欧州中銀は,ユーロ圏の各国政府に対しても最後の貸し手という役割を事実上果たしてきた.
そしてここに,財政統合の欠落が加わる.問題は,スコットランドが独立したときに平均して払う税金が多くなるか少なくなるか,じゃあない(たぶん,ちょっとばかり減るだろう.これは石油からの歳入がどう扱われるかでちがってくる).そうじゃなくって,問題はこっちだ:「なにかまずいことになったときになにが起こるか?――スコットランド経済に不況が到来したときにどうなるか?」 イギリスの一部であるかぎり,スコットランドは事実上の援助をたくさん受けとれる.ちょうど,アメリカの州(やウェールズ)と同じだ.スコットランドが独立したら,それは自国だけの問題になる.ちょうどポルトガルみたいにね.
さて,おそらくスコットランドは労働流動性が高くなるだろう.どうにかして欧州連合に参加できたとして(それはそれで驚くほど面倒なことになるけど),そのときには「単一欧州議定書」のもとで参加することになる.この議定書は移動の自由を提供する.そして,スコットランドはおおよそイギリスと共通の言語をもっている(ときには字幕がついててくれたらいいのになぁって思うこともあるけど).
でも,それは必ずしもいいことじゃあない:いまポルトガルみたいなところで目の当たりにされているのは,若年労働者たちの大規模な移民だ.彼らが出て行って残された人口が,高齢者を世話する財政的な重荷を背負う.
繰り返すと,ぼくはスコットランド人の嘆きは理解できる.でも,ほんとに独立したいなら,お金についてもっと本気で考えなくちゃ.
© The New York Times News Service