Paul Krugman, “Serious Voices Drown Out Sensible Ones in Europe,” Krugman & Co., June 13, 2014.
[“Very Serious Europeans,” June 4, 2014; “Europe’s Age of Diminished Expectations,” June 9, 2014.]
いまさっき,ティム・ガイトナーの新著『ストレス・テスト』の書評を書き終えた.そこで言及してないけど,あの本には意外で新鮮なことが1つある:ガイトナーが,〔アメリカの財政赤字削減案をまとめた債務削減委員会の〕「シンプソン=ボウルズ症候群」をからかってる!
「シンプソン=ボウルズ案には政策としてすぐれたところも多かった」――とガイトナーは書いてる――「たとえば,無駄な農業補助金を削減したり,経済成長促進のためインフラ支出を増やすといった部分がそうだ.だが,失業手当削減や税制改革は非常に逆進的で,〔メディケアの〕医療貯蓄勘定はごく穏当なものだった.それにも関わらず,シンプソン=ボウルズ案はワシントンのエリート界隈で高貴な超党派の真剣な取り組みの象徴という神話めいた地位を得ているようだ.」
おっしゃるとおり.で,ここからさらにこう考えられる:高貴な超党派のおマジメぶりが支配してる場所,卓越した善良なる者が集まってなすべきことについて合意をつくり,それが支持する事柄はあとから市民に知らされる場所なら,他にも知ってる.ヨーロッパってところだ――で,これはあまりうまく機能してない.
たしかに,アメリカにもアメリカなりの問題があれこれある――主に,イカレた連中が政策に対して事実上の妨害権限を手にいれているって問題だ.
でも,ヨーロッパの方では,批判的な声がまるっきり聞こえてこないっていう目を見張る事態になってる.経済学者のラース・スヴェンソンは,スウェーデン国立銀行で何年にもわたって,同銀行が害を及ぼしてると指摘を繰り返したけど,部外者が介入するまで誰もこれに耳を傾けなかった.いくらかでももののわかった経済学者はみんな,ユーロ圏がデフレにずり落ちつつあるのに冷や汗をかいていたけど,正統派の連中はそれが問題だって聞くと驚く始末だ.
たしかに,人々が合意して正しいことをする必要もときにはある.
でも,近年では,お偉い人たちがなにかで合意に至ったときには,その合意はまるっきり見当違いなものと相場が決まってるんだ.
© The New York Times News Service
しぼんでいく期待
スペイン国債利回りは,いまアメリカ国債とだいたい同じくらいになってる.ここから,2つのことがわかる.1つはいいこと,もう1つはわるいことだ.いいことってのは,投資家たちはユーロの瓦解がすぐにも起こるんじゃないかともはやそんなに恐れていないってこと.で,わるいことってのは,投資家たちはヨーロッパが長らく低迷したままになるだろうと予想してるってことだ.
このわるいことの方については,こんな風に言ってる人たちをきっとみんなも知ってるだろう:「ユーロ圏はプラス成長に戻ったから,もう危機は終わったんだよ」.ここで,日本の長期停滞の大半は,経済が成長してた期間だったってことを指摘してあげると有用だ.というか,日本は長期停滞の大半で,いまのヨーロッパがどうにかなしとげてる成長率を上回ってたんだよ.〔参考グラフ〕
というわけで,「ヨーロッパが日本みたいな失われた10年を経験するのはありうることかしら」と聞かれたら,ぼくはこう答える――「ほんとの問題は,そうならないのがありうることかしらってことだよ.景気低迷よりも景気回復の方が予測しにくいんだよ」.
© The New York Times News Service
ストリート・テスト⇒ストレス・テストでは?
修正しました.ご指摘ありがとうございます.