Paul Krugman, “The Downside of Rapid Growth,” Krugman & Co., April 4, 2014. [“Growth Versus Distribution: Hunger Games,” March 28, 2014 / “Things Go Better With Kochs,” March 25, 2014]
急速な成長の裏側
by ポール・クルーグマン
保守派経済学者ってのは,所得分配の議論となると,「所得分配は経済成長がもたらす巨大な利得に比べれば些末な問題だろうよ」といって言い負かそうとすることがあまりに多い.
たとえば,経済学者ロバート・ルーカスは2004年のエッセイでこんな風に書いてる:「健全な経済学にとって有害な傾向は種々あるが,もっとも人を誘惑するものは――そして私見ではもっとも有害なのは――分布の諸問題に関心を集中することだ.」
これにはおきまりの答えがある.こう指摘すればいい――「急速な経済成長をうみだす方法については,実のところ大してわかってないよね」――保守派はもしかすると知ってると思ってるかもしれない(「減税で万事よし」)けれど,彼らの確信を裏づける証拠はなにもない.他方で,所得分配を大きく様変わりさせる方法ならわかってる.とくに,極端な貧困を減らす方法はよくわかってる.
じゃあ,改善する方法がわかってる問題なら改善すればいいじゃないの.少なくとも,ぼくらの経済戦略の一部として採用すればいいじゃない.
でも,この論証ですら,実は譲歩しすぎてたりする.
ハーバード公衆衛生大学院教授 S・V・サブラマニアンによる新研究によると,貧困国および中の下くらいの所得の国では,厚生の最重要部分の1つである児童栄養失調は急速な経済成長ではまったく助けにならない.
「1人当たりの(国内総生産の)上昇は,成長阻害を有意に減少させる結果とならなかった」と,リンダ・プーンはこのまえナショナル・パブリック・ラジオの健康ブログ「ショッツ」でレポートしてる.
「消耗性の児童・体重不足の児童の人数の変化と GDP の変化を比較した研究者たちは,両者になんの相関もないことを発見している.『たんに(つながりが)弱いまたは小さいという話ではないんです』とサブラマニアンは『ショッツ』に語った.彼によると,これはとくに成長阻害に当てはまるという.いちばん目を見張るのは,〔経済成長がもたらす〕効果全体が『事実上,ゼロにひとしい』という点だ.サブラマニアンによると,不平等な所得分配や公共サービスの効果的な実施の欠如が原因の候補としてありうるという.」
そうだね,急速な成長はいいことだ.だけど,それで問題がなにもかも解決されるわけじゃない.経済成長を起こす方法を知っていたとしてもそうなんだ.まして,ほんとはわかってないわけでね.
© The New York Times News Service
コークで気分爽快
いやー,だって誰かが言っちゃう前にぼくのネタにしちゃわないとね.
『スレート』のデイヴィッド・ウィーゲルが伝えてる話によれば,民主党はコーク兄弟(デイヴィッドとチャールズ)を利用して効果的な資金調達ツールにできるのを発見したそうだ――コーク兄弟を叩くメールの方がそうでないメールの3倍も資金を集められたんだって.
理由はお察しのとおり:コーク兄弟は悪役として完璧だもの.
たんにそれだけじゃない――自分の富を使って強硬な右派・反環境保護政策を押し立て,しかもそれが自分たちに大きな利益の見返りをもたらしているっていうんだから,深刻なまでに悪人だけど,それで話はおしまいじゃない.
「彼らが何者でないか」も大事だ:コーク兄弟は財産の相続人であって自力で身を立てた人間じゃない.彼らはなにかイノベーションをもたらした人物じゃない(ビル・ゲイツだったらそういう主張もできるけど).コーク兄弟は,ウォレン・バフェットみたいにお金を儲けて他人のために使ってきたわけでもない.
というわけで,コーク兄弟に注目を向けるのは,「保守派の政策は自らつかみ取ったわけでもない特権をもつ人々の擁護」だという見解を具体的な人物に体現させる方法になる.
で,ここが大事:この見解は,基本的に正しい.超お金持ちに,映画スターはほとんどいない.〔右派評論家のような〕札付きの連中は,好んでその逆を言ってるけどね.それに,技術の革新者もそんなに多くない.
超お金持ちには,自ら身を立てたやり手も大勢いる.でも,おそらくますます多くなってきてるのは,生まれながらの大金持ちだったんだよ.
© The New York Times News Service