Paul Krugman “The Right Course for a Troubled Japan,” Krugman & Co., November 26, 2014.
[“Structural Deformity,” The Conscience of a Liberal, November 20, 2014.]
苦しむ日本がとるべき道筋
by ポール・クルーグマン
日本の安倍晋三首相が消費税増税の延期を模索してるのは,正しい.延期はいい経済政策だし,ぼくにとってはかなり新鮮な経験でもある――国のリーダーと会って,正しい政策の主張をして,その相手がまさにそのとおりにやってるんだもの.(もちろん,同じ主張をしてた人はぼく以外にたくさんいる.)
ただ,懐疑の声もたくさんある.全面的に正当な疑いだ:「安倍氏は,すごく難しいことを達成しようと試みてる.そのために彼が採用してる手段で十分足りるのかどうか,まったくもって不透明だ」
一方,ぼくがすっごくすっごく嫌ってるタイプの批判もある.これは日本に関する議論にかぎらない――で,とくにこのタイプの批判のなにがイヤって,《クソ真剣ぶったみなさま》が全面的に受け入れつつ,それでいて,じぶんが《真実》を語ってるんじゃなくて疑わしい仮説をまくしたててるってことに気づいていないところだ.ぼくが言ってる批判は,「日本は需要を後押しする必要なんてない,必要なのは構造改革だ」っていう主張のこと.
それってなんの話をしてるんだろう? 伝統的に,構造改革はスタグフレーションへの答えとして提示されていた(スタグフレーションとは,髙インフレと高失業率が組みあわさった状況のこと).もし,インフレを加速させて経済が過熱しはじめたのに,失業率がかなり高いままになってるなら,「労働市場が硬直的なためだ」という議論になる――労働市場が硬直的ってのは回りくどい言い方で,ようするにクビを切ったり賃金を切り下げたりするのがむずかしいってことね.で,それなら経済の実績をもっとよくするためには労働市場をもっと柔軟にする必要があるってことになる(つまりは,もっと冷酷にしろってことだ).
そうだね,この主張にも理に適ってる部分は少しある.だけど,問題がスタグフレーションだとしても,これは定説としてみんなが信じさせられてることほど,厳格じゃない.「構造的」失業だとされてるものは,実は履歴現象の結果だと信じるべき理由はいつだってある――つまり,不況が長引いたせいで受けたダメージが続いてるんだと考えるべき理由がある.ともあれ,労働市場の構造改革論も,首尾一貫した論ではあった.
だけど,いま日本はスタグフレーションに苦しんでなんかいない.ヨーロッパだってそうだ.そうじゃなく,日本もヨーロッパも,低インフレまたはデフレと,ゼロ金利にも関わらず長引く需要不足に苦しんでいる.
正味のところ,なんでこの問題の解決法に構造改革が提案されるの?
というか,人々がかつて語ってたタイプの構造改革は――労働市場をもっと柔軟にして賃金カットをやりやすくしましょうとかって改革は――むしろ不況を悪化させる.なんで? 柔軟性のパラドックスのせいだ:賃金と物価が下落すれば,実質の債務負担がいっそう重くなる.そうすると,需要はさらに押し下げられてしまう.
それどころか,ちょっと考えてもらうと,万能薬として喧伝されてる構造改革論にはガマの油くささがはっきりと感じ取れる:インフレの解決策にもなるしデフレの解決策にもなるっていうんだもの.あと,腰痛と口臭にも効きますわよ.
さて,日本にとって多少いいことになりそうな構造改革もありうる.たとえば,土地利用や建築の高さ制限を変更すれば,都市の既存土地をもっと使えるようになって,投資が活発になりうるし,需要も増えるだろう.ただ,大事なのは,なんでもかんでも一括りに「構造改革を」と訴えるのは知的怠慢だし有害だってことだ.構造改革と呼ばれてるものは,助けにならず害を及ぼす.そればかりか,問題は構造的なところにあるって宣告すれば,政策担当者たちの目を肝心のボールからそらしてしまう.だって,日本がいままさに必要としてるのは,他のどんなことよりも,まずはどうにかしてデフレから脱却することなんだから.
© The New York Times News Service
【バックストーリー】ここではクルーグマンのコラムが書かれた背景をショーン・トレイナー記者が説明する
早期解散
by ショーン・トレイナー
11月18日,日本の安倍晋三首相は衆議院の解散を宣言した.12月に解散総選挙を実施して,消費増税の民意を問うのだという.
安倍氏が長引くデフレを終わらせると誓約して首相に選ばれたのは2年足らず前のことだった.デフレは,20年にもわたって,日本経済を苛んできた.就任するやいなや,安倍氏は大規模な財政・金融刺激策キャンペーンを実施した.
当初,こうした対策は首尾よく運んでいた.雇用は増加し,経済成長は速まり,株式市場は急激な上昇を見せた.インフレ率の上昇とともに,企業景況感の指標も上昇した.決定的に重要だったのは,予想インフレ率が上がったことだ――経済学者たちは,日本のデフレ循環脱却にとってこの予想インフレ率上昇が不可欠だと考えている.
ところが,財政赤字タカ派〔増税派〕からの圧力に直面して,この4月に安倍氏は消費税を5パーセントから8パーセントに上げることを許容した.この増税により,第2四半期に消費は大幅な下落をみせ,日本の国内総生産も減少した.この下落を見ても,当局のなかには,日本経済はすぐに成長に復帰すると予想する人々もいた.だが,今月公表された第3四半期の統計では,1.6パーセントの縮小となり,専門的な定義でも日本が景気後退に入ったことが確定した.前政権により可決された法案の一環として,次の消費税増税が来年に予定されている.だが,きびしい経済情勢のニュースが続いたことで,安倍氏に増税実施18ヶ月延期のドアが開かれた.
日本は12月14日に選挙を予定している.多くの観測筋には,この解散選挙の公表は驚きをもって迎えられた.とくに,安倍氏の支持率がこのところ下がってきていたところでの選挙ということが意外に思われた.
有権者の大多数が消費税増税に反対している一方で,安倍氏を批判する人々はこう言っている――「安倍氏はこの選挙を消費税の委任として位置づけることによって,今後4年間にわたってみずからの権力掌握を強化することにこの問題を利用しているのだ.」
© The New York Times News Service
面白いネ、このコメントが出てから約3年、正しい意見かどうかが立証される。しかしコメントは既に忘却の彼方・・・改めて過去のコメントを読み返す事の重要性が解る。誰が何時、何をコメントしたか、そしてその検証を試みる事は次のコメントの評価に繫がる。