Paul Krugman, “A Delusional Search for Reasonable Republicans,” Krugman & Co., July 4, 2014.
[“On the social responsibility of wonks,” June 25, 2014.; “The lonliness of the non-crazy Republican,” June 22, 2014.]
道理のわかる共和党なんて妄想にしか存在しないのよ
by ポール・クルーグマン
先日,元財務長官ハンク・ポールソンが『ニューヨークタイムズ』で気候変動についてとてももの悲しい論説を書いている.彼いはく,我々はまさに金融危機の終熄に向けて対策を打ったのと同じように対策をとらねばならない,ですって.
あやしげな類推だ:2008年危機は急速に展開したから,ポールソン氏みたいな人たちが「合衆国が行動をとらなければ,ものの数日で世界経済がまるごと壊れてしまうぞ」と警告しても信用された.他方で,気候変動は緩慢だけどとどめようもなく進展していく.その勢いは圧倒的だ.危機があるのが否定しようもなく明白になっちゃった頃にはもう手遅れて,破局は避けようがなくなってしまう.
ただ,ポールソンの一文で「もの悲しい」ってぼくが言ってるのはそれと別の部分だ.そう,なにがもの悲しいって,いまだに彼がじぶんの党と主張してるあの政党に,ポールソン氏に耳を貸す人が誰かいるって想像してるところだよ.こちら地球,ポールソン氏に緊急通信:「キミの想像上の共和党は,科学に敬意を払い,炭素税みたいな市場に親和的な政府介入を考慮する意欲を持ち合わせてるんだよね.そんなものは存在しないよ.いまや覆しようがないほどゆるぎない実権を握ってる連中は,『気候変動なんて,大きな政府を正当化するためにリベラル系科学者どもがでっちあげたデタラメだ』と信じ込み,市場の失敗をただす政府介入が正当化されうるってことからして断固として認めようとしないんだよ.」
今日のアメリカ政治の状況をふまえると,気候変動対策はひとえに民主党の手にかかっている.ホワイトハウスの主が民主党議員だからこそ,対策の実行がとにもかくにも進んでいるんだ.もし,民主党が下院も掌握すれば,さらに対策は進みうる.
もしもポールソン氏が,共和党を支持しつつ気候変動対策も推進できると思ってるなら,彼は妄想にとらわれちゃってるんだよ.
© The New York Times News Service
政策オタクの社会的責任
先日,経済学者ジャレド・バーンスタインが,「事実と賢明な政策が迫害されてる」政治環境で,いったい政策オタクくさい分析にどんな役割があるのかって話をブログに書いて苦衷を明かしている.これは,ぼくも気になってる話だ.
一方では,もしぼくらがほんとになすべきことを政策オタクが指摘しなかったら,いったい誰が指摘する? 目下の差し迫った例を取り上げると,いまイギリス政界の主流で緊縮策に反対の陣を張るヤツなんていないけど,それでも,経済学者たちは「緊縮策はホントはダメ政策だよ」と指摘し続けている.
他方で,もし政策オタクどもの提案することが実現しないんだとしたら,いったい何の役に立つ?
ぼくが思いつく最良の答案は,2段構えをとることだ――最善の政策について語る一方で,求められているのが次善の策ならそっちを提案する用意も調えておくのがいい.オバマケアは継ぎ接ぎと辻褄合わせでできた政治のピタゴラスイッチだけど,それでもなんにもないよりずっとマシだ――そして,こいつはちゃんと機能してる.理想に近い世界だったら炭素税こそがとるべき道筋だけど,ぼくらのいる世界では,実際にとれる最善手はいろんな行政行為かもしれない.
こいつは,曲芸みたいなバランス取りだ.いいアイディアをあきらめて,欠陥まみれの政治的妥協案の方がそっちより優れてるかのように見せかけたいと思わないなら――そして,もしそういう妥協案が十分にダメなものなら,反対しなくちゃいけない.(さてさて,十分にダメかどうか,どうやって見分けたらいいんだろう? ううむ…) でも,政策オタクとして,ただ自分の優美な理論を「はい,これね」とお出しするだけで,現実に並んでる選択肢を無視してすませたなら,なすべき仕事をやったことにならないのは間違いない.
人生がらくちんだなんて,誰も言わなかったでしょ.
© The New York Times News Service
【バックストーリー】ここではクルーグマンのコラムが書かれた背景をショーン・トレイナー記者が説明する
気候変動が企業にもたらす危険
by ショーン・トレイナー
昨年の10月,ジョージ・W・ブッシュ大統領のもとで財務長官をつとめたヘンリー・M・ポールソン,元ニューヨーク州知事のマイケル・ブルームバーグ,億万長者ヘッジファンド・マネジャーにして環境保護活動家のトム・ステイヤーらを中心とする金融界のリーダーたちがつくるグループが,「リスキー・ビジネス・プロジェクト」を立ち上げた.これは,気候変動でアメリカの企業が直面しうるさまざまなリスクを評価することを目的とする取り組みだ.
6月24日に同グループが公表した分析の結論には,こう述べられていた――全地球的な気温上昇によって破滅的な損失を被る危険に経済が瀕している,実業界はこの脅威を和らげるためにさまざまな対策をとることを推奨する.この報告書によると,気候変動で無数の業界に損害が生じうるという.海面上昇は,沿岸地域の資産とインフラに大規模な損失をもたらすことになるうる.その損失額は,今世紀末には5000億ドルにのぼるかもしれないそうだ.また,超酷暑の期間が長く続くようになれば,労働生産性は下がり,エネルギー費用は高くなるかもしれない.さらに,気象パターンが変化すれば,国内の大農耕地帯で収穫量が減少するかもしれない.
『ニューヨークタイムズ』の論説欄でポールソン氏は,気候変動のリスクを,みずからが財務省を取り仕切っていた当時の2008年金融危機がもたらした脅威になぞらえた.
また,ポールソン氏は,気候変動がもたらすリスクに対応しようと意図した政策のなかには保守イデオロギーと軌を一にしたものもあると論じた.「嵐がいっそう激しいものとなり,干ばつはいっそう厳しく,〔自然に起こる森林火災など〕火事の季節は長くなり,沿岸都市をおびやかす海面上昇が起こってしまった未来では」――とポールソン氏は述べる――「それに適応するための費用や災害救援費用のために国が払う資金がさらに財政赤字を大きくすれば,我々の長期的な経済の安定はあやうくなるだろう.この点を考えれば,小さく制限された政府をのぞみ企業救済措置に猛反対するような人たちが,気候変動に手をこまねいてむざむざと経済をリスクにさらすというのは,奇妙な話ではないか.」
続けてポールソン氏はこう述べる:「共和党は,この問題に尻込みしてはならない.リスク管理は保守の原則だ.将来世代のために自然環境を保全するのが保守の原則であるのと同じように.」
© The New York Times News Service