●Menzie Chinn, “Russian Exchange Rate Pass Through into Consumer Prices”(Econbrowser, February 28, 2022)
ロシアに関しては、為替レートの変化率が100%の時に、CPI(消費者物価指数)は1四半期(3カ月)後に10%~17%程度、4四半期(1年)後に50~70%程度変化する傾向にあるようだ。
図1:名目実効為替レートの前年比での変化率(茶色の実線)、CPIの前年比の変化率(青色の実線)。どちらも対数値をとった上で変化率を求めている;赤色の点線は、ロシアによるクリミア併合が決まった日時を表している;データの出所は、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)、私自身による計算。
過去1週間の間にルーブルは(対数値で測って)36%近く減価したわけだが、そのことがCPI(消費者物価指数)にどう響くだろうか?
まずはじめに、Ponomarev&Trunin&Ulyukaevの三人の共著論文――“Exchange Rate Pass-Through in Russia”(Problems of Economic Transition, vol. 58:1, May 2016, pp. 54-72)――によると、名目為替レートの変化率が100%の時に、ロシアのCPIは1四半期(3カ月)後に10%、4四半期(1年)後に48%変化する傾向にあるとのこと。
Ponomarev&Trunin&Ulyukaevの三人の論文では、2000年~2012年が対象となっている。それゆえ、2014年にルーブルが急落した時のデータは含まれていないことになる。
次に、Comunale&Simolaの二人の共著論文――“The pass-through to consumer prices in CIS economies: The role of exchange rates, commodities and other common factors”(Research in International Business and Finance, vol. 44, April 2018, pp. 186-217)――によると、CIS(独立国家共同体)に加盟していた国のうちの7か国――アルメニア、アゼルバイジャン、ジョージア、カザフスタン、キルギス、ロシア、ウクライナ――全体としてみると、1999年から2014年までの期間に関しては、名目実効為替レートの変化率が100%の時に、CPIは1四半期(3カ月)後に13~17%、4四半期(1年)後に51~68%変化する傾向が見出されたという。以下の表の一番下の欄(Table A13 Column(4))をご覧いただきたいが、ロシアを除くと、名目実効為替レートの変化が4四半期(1年)後のCPIに及ぼす効果(パススルー率)は高まっている。ということは、ロシア一国に限定すると、100%の名目実効為替レートの変化率に対して、4四半期(1年)後のCPIの変化は51~68%よりも小さい可能性が示唆されることになる。
Comunale&Simolaの二人の論文では、2014年にルーブルが急落しはじめて間もない期間までしかカバーされていないことを注記しておこう。
さて、過去1週間の間にルーブルは(対数値で測って)36%近く減価したわけだが、そのことがCPIにどう響くだろうか? 為替レートの変化率が100%の時に、4四半期(1年)後のCPIは50%くらい変化する(パススルー率が0.5くらいだ)と想定すると、ルーブルの減価率が36%で今後さらに減価することがないようであれば、ロシアの物価はこれから1年の間に18%上昇すると予想されることになる。ロシアの先月(2022年1月)のインフレ率は前月比で1%(年率換算されていない数値)だったが、そこにさらに18%という数字が上積みされるわけだ。