タイラー・コーエン 「2016年度のノーベル経済学賞は誰の手に?」(2016年10月4日)

●Tyler Cowen, “Who will win the Nobel Prize in Economics this coming Monday?”(Marginal Revolution, October 4, 2016)


「今年は○○が受賞する」と予想して的中した試しは一度も無いのだが(別の年に○○が受賞した例はある)、今年も一応予想しておこう〔受賞者の発表は来週の月曜日、10月10日〕。二通りの候補を挙げさせてもらおう。

まず一つ目の候補として挙げたいのは、ウィリアム・ボーモル(William Baumol)だ(現在94歳のはず)。彼が提唱した「コスト病」仮説〔日本語版のウィキペディアはこちら〕は、生産性が伸び悩んでいる――そのことを示す最近の実証的なデータとしてはこちらを参照されたい――理由を理解する上で極めて重要な概念だ。「コスト病」仮説については、奇妙なねじれもある。「コスト病」仮説がどこよりもしっくり当てはまる部門として、ボーモル自身は音楽とアートの分野を挙げたが、音楽とアートは「コスト病」仮説との相性が一番悪い部門らしい(pdf)のだ。

ボーモルの貢献は多岐にわたっているが、「コスト病」仮説に次いで重要な貢献としては、おそらくはコンテスタブル市場の理論、それに加えて起業家論ということになろう。

次に二つ目の候補としては、環境経済学の分野に賞が授与される可能性を挙げたいと思う。おそらくは、ウィリアム・ノードハウス(William Nordhaus)、パーサ・ダスグプタ(Partha Dasgupta)、マーティン・ワイツマン(Martin Weitzman)の三人の共同受賞の線が濃厚だ。環境経済学については、「今年こそはこの分野から受賞者が出るのではないか」とずっと取り沙汰されてきている分野でもある。

「ウェブ・オブ・サイエンス」(“Web of Science”)の予想では、論文の引用数のデータに照らして、エドワード・ラジアー(人事経済学)、オリヴィエ・ブランシャール(マクロ経済学)、マーク・メリッツ(新々貿易理論)の三名の名前が挙がっている。他にも、ロバート・バロー(Robert Barro)、ポール・ローマー(Paul Romer)、バナジー(Abhijit Banerjee)&デュフロ(Esther Duflo)&クレマー(Michael Kremer)(の三人の共同受賞?)、デビッド・ヘンドリー(David Hendry)、ダイアモンド(Douglas Diamond)& ディビッグ(Philip Dybvig)(の二人の共同受賞)、バーナンキ(Ben Bernanke)&ウッドフォード(Michael Woodford)&スヴェンソン(Lars Svensson)(の三人の共同受賞?)というのも十分あり得る話だ。個人的には、マーティン・フェルドシュタイン(Martin Feldstein)が受賞する可能性も捨て切れないでいる。彼が財政学の分野で先導した実証研究は忘れてはならないし、医療経済学のパイオニア(先駆者) の一人でもある。NBER(全米経済研究所)を盛り立てた立役者でもある。ダークホース(伏兵)を挙げるとするなら、ジョゼフ・ニューハウス(Joseph Newhouse)――医療経済学の分野へのランダム化比較試験(RCT)の導入、ランド医療保険実験――なんてどうだろうか?

候補は他にも挙げられるだろう。あなたの予想はどうだろうか?

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