●Tyler Cowen, “Does the S&P 500 mind the idea of a Trump presidency?”(Marginal Revolution, September 30, 2016)
聴衆の皆様、アメリカの国政の檜舞台の上に今まさに登壇しておりますのは、類例のない悪漢であります。其奴(そやつ)にはさっさと舞台から姿を消していただきたいというのが私の偽らざる思いでありますが、知的に誠実たらんとするつもりでありますならば、「真実」の探求者たらんと志すのでありますならば、聴衆の皆様にどうしてもお知らせしておかねばならないことがございます。
スウィート(Ryan Sweet)&オジメク(Adam Ozimek)&アッシャー(Kathryn Asher)の三人が次のような検証結果を報告している(pdf)。
計量経済学の手法(回帰分析)を使ったもう少し精緻な検証結果によると、S&P500指数(株価指数)とトランプの当選確率との間にはこれといって何の関係も見出せないことが確認されている。トランプの当選確率の日々の変化とS&P500指数の(対数値の)変化との間には統計的に有意な関係が見出されないのだ。
詳細は、pp. 21~22を参照されたい。このような(トランプの躍進が株価にこれといって何の影響も及ぼしていないらしいことを伝える)検証結果を知ったからといって、今回の大統領選挙について考えを変えるつもりはないが、この結果を包み隠さず伝えようとする論者というのはどれくらいいるだろうか? 自分にとって不快な証拠に出くわした時に、それをどうにかして受け入れようとする論者というのはどれくらいいるだろうか? ブログを書く目的は、お仕着せの答えを読み手に押し付けることにあるのではない。不快な証拠に向き合うように書き手に強いることにあるのだ。応援している候補に有利な証拠――あるいは、嫌っている候補に不利な証拠――をできるだけかき集めるのを己の義務と感じている人もたくさんいるだろうが、私としてはブログをそのような目的のために使おうと考えたことはこれまでに一度としてない。誰を応援していようともだ。
「株式市場は、○○(過去のエピソードをどれでも好きに挿入するといい)を予測できなかったではないか」という言い分も大して有効な反論だとは思えない。もう一度繰り返しておこう。株式を空売りして、コールオプションを買っているっていう人 [1] 訳注;トランプが大統領になったら株価が下落するに違いないと予想していて、株価が下落するのに賭けている人、という意味。はどれくらいいるだろうか?
私の考えは、こんなところだ。
——————————————————-
●Tyler Cowen, “Justin Wolfers argues that Wall Street fears Trump”(Marginal Revolution, September 30, 2016)
ウォール街は、「トランプ大統領」を恐れている。トランプが11月の選挙で勝利するようなら、株価が10%~12%近く下落して、景気が減速するかもしれない。
月曜日(9月26日)に行われたテレビ討論会の最中の金融市場の動きを細かく分析すると、そのような結論が浮かび上がってくる。
・・・(中略)・・・
月曜日に行われたテレビ討論会は、大雑把な実験の機会を提供している。午後9時(テレビ討論会が始まる前)の時点では、トランプの当選確率は35%というのが予測市場の声だった。それから2時間後の午後11時(テレビ討論会が終わった後)の時点――経済面で2時間前と瓜二つの「パラレルワールド」――では、トランプの当選確率は30%を若干下回るところまで落ち込んだ。
テレビ討論会が行われている最中に、オーバーナイトの先物が反発。S&P500指数をはじめとした一連の株価指数が上昇した。例えば、S&P500指数は、テレビ討論会が行われている最中に、3分の2%~4分の3%近く上昇した。その原因は、テレビ討論会にあるとしか考えられない。トランプが大統領になる可能性(当選確率)が低下した結果として引き起こされたのだ。すなわち、トランプが選挙で敗れるようなら、株式は買いだというのがマーケットの判断なのだ。
ジャスティン・ウォルファーズ(Justin Wolfers)が執筆しているニューヨーク・タイムズ紙の記事からの引用だ。私もテレビ討論会の最中の値動きには気付いていたが、ウォルファーズにはもう少し考えてもらいたいことがある。(テレビ討論会の最中に限定せずに)もっと長いスパンで眺めると、トランプの当選確率と株価との間に負の相関が確認されない [2] … Continue readingのはなぜなのかを考えてもらいたいのだ。「お笑い枠」として登場したトランプだったが、一時は予測市場で当選確率が36%と見積もられるまでになった。しかしながら、その間に株価が急落したかというと、そういうわけでもない。株価が堅調なのも、トランプが躍進しているのも、どちらも景気が上向いているおかげだったりするのだろうか?
この件については、スコット・サムナーが優れたコメントを加えている。あわせて参照されたい。