アレックス・タバロック 「ボトックス注射は、みんなを幸せにする?」(2008年10月28日)

ボトックス注射を顔に打っている人は、ボトックス注射を顔に打っていない周りの人たちを幸せにするかもしれない。顔の表情を経由して負の感情を周りに感染させることができないからである。
画像の出典:https://www.ac-illust.com/main/detail.php?id=23728663

顔の表情を変えるだけで気分も変わる――笑顔を作ると(自分も周りも)幸せな気分になるし、怒った顔をすると(自分も周りも)怒りが湧いてくる――というのは古くから語り継がれている話だが、その絡みで美容外科医の間で次のような説が取り沙汰されているらしい。

ボトックス注射を顔に打っている人には、他人の怒りの感情が感染しにくくなるかもしれない。ボトックス注射を顔に打つと、怒った表情や不幸せな表情を作りにくくなるからである。ボトックス注射を顔に打っている人は、ボトックス注射を顔に打っていない周りの人たちも幸せにするかもしれない。顔の表情を経由して負の感情を周りに感染させることができないからである。

驚いたことに、この説を裏付ける実験結果があるらしい。Cerebral Cortex誌に掲載されている論文でその詳細が報じられている。以下に論文のアブストラクト(要旨)の一部を引用するが、正直言ってまどろっこしいので、こちらでの要約を読むという手もある。

・・・(略)・・・ボツリヌストキシン注射を顔に打ったおかげで、他人の怒った顔を真似ようにもなかなか真似できないでいると、左扁桃体の活動がそこまで活性化しないだけでなく、感情の起伏と関わりのある脳幹の部位と左扁桃体との機能的なつながりが弱まることも見出された。我々の実験を通じて得られた一連の結果によると、他人の顔の表情を意識的に真似ている最中の脳内では、情動の中枢たる扁桃体においてニューロン(神経細胞)の活動に変化が起きると言えそうである。多くの人は、他人の顔の表情を自然と真似る傾向にあることが知られているが、顔の表情を真似ているうちに感情も感染するのには生理学的な根拠があるかもしれないのだ。


〔原文:“Botox makes us happy”(Marginal Revolution, October 28, 2008)〕

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