株式市場の動きを説明するのは、いつでもまあ無駄骨になる試みだ。ある特定の日や週に株価がなぜ急騰または急落するのか、本当に理解してる人なんて誰もいない。長期的に見ると、株式市場はたくさんの過剰な変動性(ボラティリティ)を示す――株価は、収益やその他のファンダメンタルズの価値指標の変化による裏付けよりも大きく上下に動くんだ。こうした変動がなぜ起こるのかについてはたくさんの理論があるけど、そのうちのどれが――もしあるとしても――ある特定の時点で働いているのかを知るのはものすごく難しい。なので、株式市場が大きく動いたあとには必ず、「理由が分かった」と主張する記事が大量に湧いてくる。そうした記事はすべて――この記事も含めて――眉唾ものとして受け取るべきだ。
とまあ、前置きはこれくらいにして…。
韓国の株式市場は、ここ数週間暴落し続けている。3月ごろ、韓国株は驚異的な急騰を見せ、KOSPI(韓国総合株価指数)は5,000前後から9,000超まで上昇した。ところが、1か月ちょっと前になってすべてが逆転し、5,500前後まで下落した。

なぜこんなことが起きたのかについては、たぶん二つのストーリーがある。一つはファンダメンタルズ(実体経済的要因)・ストーリーだ。もう一つは金融ストーリーだ。実際、これは株式に限らず、〔株式、債券、不動産みたいな〕資産に分類されるあらゆるものでのバブルと暴落に共通するパターンだ。〔巨大な変動があると〕ほとんど常に、ファンダメンタルズについてのストーリーが何か語られる――「私たちは新しい経済にいるのです」みたいなストーリーがあって、そのストーリーが本当に正しいのかという疑念がそれに続く、といった具合だ。でも、市場での大きな変動は、純粋に金融的な要因――余剰資金を武器にした「ノイズトレーダー」や、市場心理の波に乗ろうとする便乗的な投機家など――によって加速されることがほとんどだ [1]原注:金融市場がどのようにして混乱状態に陥るのかについての、最良かつ簡潔な説明としては、有名な論文DeLong et al. … Continue reading 。
韓国の場合、ファンダメンタルズ・ストーリーはメモリ関連銘柄についてのものだった。SKハイニックスやサムスンのような韓国企業は、世界のコンピュータ用メモリの多くを生産している。通常の状況下では、コンピュータ用メモリは決してうまみのある事業とは言えない――技術はかなりコモディティ化しており、業界は熾烈な競争にさらされており、工場建設には莫大な資本が必要で、メモリ技術の進化に長期的な賭けをするのは非常にリスクが高いからだ。
でも、コンピュータ用メモリはAIデータセンターにとってものすごく重要だ。だから、AIブームが史上空前のメモリ需要ブームを引き起こしたわけ。この需要爆発の大部分に応えられるだけの規模を持つ企業はごく少数しかなく、そのうち最大の2社が韓国にあった。SKハイニックスの営業利益は、2025年第1四半期の100億ドル未満から、2026年第1四半期には350億ドル超へと急騰した。

出典:ロイター
メモリに特化しているハイニックスは、メモリブームがあまりに巨大だったことで、一時的にサムスンよりも高い時価総額を記録した。韓国の輸出は、わずか1年で70%超増加している。それどころか、このメモリという一つの製品だけを原因に、韓国の国全体のGDP成長率が過去2四半期にわたって顕著に増加したほどだ。

これは、韓国株はものすごく高い価値を持ってるはずだという理由についての、なかなか説得力のあるファンダメンタルズ・ストーリーだ。だから、2026年初頭にAI技術が途方もなく価値あるものになるだろうと人々が気づいたとたん、韓国の株式市場が沸き立ったのも不思議じゃない。以下は、これらの企業の株価の急騰がいかに凄まじいものであったかについて語られているXでのスレッドだ。
何が起きたのか?
半導体メーカーのSKハイニックスとサムスンは歴史的な急騰を見せ、1年間でそれぞれ+1,900%、+600%上昇した。
この2銘柄だけで、先月には韓国株式市場全体の最大50%を占めていた。
これほどの規模の成長がこれほど急速に起きたことは、歴史上一度もない。
ところが、ここで金融ストーリーが頭をもたげてくる。大勢のトレーダーたちがこの巨大な株価上昇を目にして、便乗することを決めた。その多くは外国人投資家だったと思うかもしれないけど、海外投資家の大半はこのブームを避けていた(韓国のメモリ株に大きく賭けた少数の例外を除いて)。最も熱狂的な買い手は、ごく普通の韓国の人々――お決まりのタクシー運転手やティーンエイジャー――だったんだ。
こうした投資家たちは、AIやデータセンターなどについてのファンダメンタルズ・ストーリーをよくわかっていなかっただろうね。その代わりに、おそらくだけど外挿的な期待を抱いていたんだ――外挿的な期待というのは、株価がどんどん上がっていくのを見て、株というのは単に「上がり続けるもの」だとする考え方だ。買い手がどんどん増えていって、株価がますます上がるにつれて、上昇トレンドは構造的なんだとする認識はますます強まって、さらに多くの人を買いに向かわせることになるわけ。これだけで、歩調を揃えた「ノイズトレーダー」による買い狂騒を説明できるわけじゃないけど、たぶん最もありえる説明なんじゃないかな。
普通の人は、余剰現金をたくさん手元に遊ばせているわけじゃない。でも今年の初め、レバレッジ型個別株ETFの導入を通じて、一般の韓国人は、事実上多額のお金を借り入れて株式に投資する機会を得ることになった。SKハイニックスのレバレッジ型個別株ETFの口を買うということは、お金を借りてSKハイニックス株を買うのとほとんど同じだ。
すごくたくさんの韓国人が、レバレッジ型ETFやその他の借入手段を使って巨額の資金を借り入れて、韓国株――とりわけ、株価上昇を牽引していたメモリ企業株――を大量に買っている。

出典:ブルームバーグ
売った人も一部にはいた――特に、「利益確定」をして手を引く外国人投資家たちだった。でも、ノイズトレーダーがあらゆる売り圧力を圧倒し、株価を急騰させたんだ。
そして先月、何かが起きた――ファンダメンタルズ的な何かかもしれないし、金融的な何かかもしれない。このどちらかだ。ハイニックスとサムスンは収益成長の面では好調だけど、AIブームがこれらの企業の利益を天井知らずに押し上げるという全体的なストーリーを疑う理由を、何かが突如としてトレーダーに抱かせたかもしれない。もう一つの可能性は、韓国で、株式に投機するために、借金を増やすことをいとわない向こう見ずなデイトレーダーが単に枯渇してしまって、資金の流入が自然とストップした、というものだ。
このどちらであったにせよ、その時点で株価はぐらつき、下落し始めた。それまでの借入金のすべてが、下落局面での下げ幅を加速させた。株価が下落すると、レバレッジ型ETFは保有資産の一部を売却しなければならない [2]原注:通常は、原資産となる株式の価値に連動した先物やオプション、その他のデリバティブだ。 。多数のレバレッジ型ETFがこれを同時に行うと、それが株価をさらに押し下げ、他の投資家にも売却を強いることになる。その間、株を買うために借金をしていた人々はマージンコール(あるいは破産)に直面し、現金を調達するために株を売らざるを得なくなった。こうしたことすべてが追加の売り圧力を生み出し、6月下旬以降の韓国株価の下落ペースを速めたんだ。
とにかく、以上が金融ストーリーだ。これは非常に古典的なストーリーだ――金融レバレッジに、未熟な新規の買い手、そして強力なファンダメンタルズ・ストーリーが加わると、バブルと暴落を生み出したり、すでに進行中のバブルや暴落を悪化させることがよくある。韓国が今――少々出遅れ気味だけど――レバレッジ型ETFを規制しようと動いているのも不思議ではない。
金融的な要因が、株価の急騰・崩壊のタイミングとその規模になんらかの影響をもたらした。でもそれより、ファンダメンタルズのストーリーの方がもっと興味深い。AIバブルへの懸念が、静かに忍び寄ってきてるんだ。
2025年、消費者向けAIチャットボットが、行われている投資を正当化できるだけ十分に大きな市場を見出すのに苦戦しているとき、「AIはバブルじゃないのか」との議論が盛んに交わされていた。バブルかもしれない理由の一つが、「AIからの収益がデータセンターへの投資額を正当化できるほど急速には成長しない」というものだった。もう一つは、「AI企業は、安定的に利益を上げ続けるための十分な『競争優位性(モート)』を持たないだろう」というものだった。
2026年、Claude Codeが爆誕し、AIがついに「プロダクト・マーケット・フィット [3]訳注:製品が市場ニーズに適合している状態にあることを意味するスタートアップ業界の用語 」を達成したと誰もが認識するようになった。僕たちは今や、AIが驚くほど役に立つ分野の一つ――コンピュータ・コードを書けること――を知っている。突如として、AIバブルの可能性はすごく低くなったように見えたわけ。AIへの支出は急騰し、新しい市場リーダーになったAnthropicは、利益の多くをうまく獲得していた。サイバーセキュリティや、その他ゼロサム的アプリケーション――絶対的に最高のモデルを持つことが大きな意味を持つ分野――が、AIにこれまで欠けていた「競争優位性(モート)」であるかのように見え始めたんだ。突如、巨大なデータセンター建設ブームは、はるかに理にかなったもののように思われるようになった。
でも徐々にだけど、〔AIへのファンダメンタルズ的〕疑念が再び忍び寄り始めている。AIはソフトウェアを書くことにかけては驚異的な能力を発揮するが、書くことと売ることは別物だ。これまでのところ、コーディング生産性の飛躍的な向上は、出荷されるソフトウェアの量をわずかにしか増加させていない。

出典: Demirer et al. (2026)
コーディング・エージェントの利用が爆発的に急増したかなりの部分は、単なる「トークン最大化」――ツールの使い方を習得するためか、あるいは単に何かをやっているように見せるためだけに、企業がAIを可能な限り活用しようとしているだけ――かもしれない。もしそうなら、AI関連支出の引き締めと、その伸びの一時的な鈍化が予測される。
あと、これまでに見られてきた収益の成長をもってしても、データセンター・ブームの莫大なコストを相殺するには不十分である可能性もある。以下は『エコノミスト』誌の最近のレポートだ。
大まかな試算によれば、AIへの設備投資を、特定可能なAIからの収入で賄うには、年間およそ2.5兆ドル規模の収益が必要となる。これは、現在テクノロジー業界全体の収益総額を上回る額だ……アンソロピックは年換算で推定750億ドルを稼いでおり、OpenAIは数百億ドル、Googleは自社のAIモデル「Gemini」から、そしてマイクロソフトはおそらく若干少ない収益を得ている。スペースXは今年、エンタープライズAIから数十億ドル規模の収益を得ている可能性がある。メタもAIから若干の収益を得ている。これらを合計すると、〔AIからの総収益は〕年間およそ1,500億ドルに落ち着く。(強調は僕ノア・スミスだよ)
AIからの収益は非常に急速に成長しているけど、もしこのエコノミスト誌の試算が正しければ、投資額に見合うには、現在の水準から17倍に成長しなければならない。言い換えれば、Claude Codeだけでは不十分であり、AIからの収益はさらに加速しなければならない――それが実現する可能性は十分にあり得るけど、大きな疑問符がついている。
あと、Anthropicのような企業の「競争優位性(モート)」が、ほんの数か月前に見えていたほど難攻不落ではない、という可能性もある。Moonshot AIという中国企業が、Kimi K3と呼ばれる、入手可能な最高水準のアメリカ製モデルにほぼ匹敵するモデルをリリースした。アメリカ企業は、日常業務で安価な中国製AIモデルをますます多く利用するようになっている。もしAnthropicとOpenAIが、法人向け(B2B)市場全体を安価な中国の競合AI企業に奪われるとしたら――もちろんそれは間違いなく、いつもの中国のように大量の補助金と政府支援によって支えられているのは間違いないが――彼らがデータセンター・ブームの費用を賄える見込みはほとんどないだろう。
そしてそうなれば、大崩壊が起こる可能性がある――1873年の〔アメリカでの〕鉄道会社破綻の時のように。投資家たちは、おそらくすでにこのことを懸念し始めている。最近打撃を受けているのは、韓国のAI関連銘柄だけではない。データセンターを稼働させるチップを設計・供給しているNvidiaの株価は以下になっている。

そして以下は、アメリカ最大のメモリチップ・メーカーであるマイクロンだ。

そして以下は、事業の大きな部分をAIデータセンターの設置が占めているマイクロソフトだ。

グーグルやアマゾンでも、(それほど劇的ではないにせよ)似たようになっている。この2社もまた、大量のデータセンターを運営している。
以下は、いわゆる「マグニフィセント7」ハイテク銘柄の下落についてのブルームバーグの記事だ。
〔訳注:マグニフィセント7:アップル、マイクロソフト、グーグル、アマゾン、エヌビディア、メタ、テスラのアメリカのハイテク大手7社〕
ウォール街では、ビッグテック各社がAIに投じている数千億ドルもの資金について、懸念が高まっている…「本当の問題は、現在行われている支出の規模だ」と、Mahoney Asset Managementの最高経営責任者(CEO)であるケン・マホニーは語る。「投資収益率(ROI)がどれほどなのか、誰にも分からない」……この売り圧力は、ビッグテック各社がAIインフラ構築に巨額の資金を投じていることに対して、投資家の警戒感が高まっている中で生じている。マグニフィセント7指数は、5月末に付けた最高値から11%下落しており、時価総額にして2兆ドル蒸発した。
なので、韓国の劇的な株価暴落はおそらく韓国特有の金融的要因によるものだったかもしれないけど、それはまた「AIバブル」というストーリーの復活を告げる前兆かもしれない。AIは今、アメリカ経済で起きていることの中で断然最も重要なものだ。だからこそ、バブルの兆候が少しでもあれば懸念材料になるんだ。
[Noah Smith, “Why did South Korean stocks just crash?” Noahpinion, Jul 30, 2026]
References
| ↑1 | 原注:金融市場がどのようにして混乱状態に陥るのかについての、最良かつ簡潔な説明としては、有名な論文DeLong et al. (1990)がお勧めだ。数理モデルを読み通す気になれない場合は、AIに平易な言葉で説明してもらうといいよ。 |
|---|---|
| ↑2 | 原注:通常は、原資産となる株式の価値に連動した先物やオプション、その他のデリバティブだ。 |
| ↑3 | 訳注:製品が市場ニーズに適合している状態にあることを意味するスタートアップ業界の用語 |