サミール・ソンティ&JW・メイソン「左派のためのインフレ入門:中央銀行の金融政策、労働への影響、インフレの定義、インフレコストの負担割合などについて」(2022年10月12日)

昨年来のインフレは、アメリカをはじめとする世界の政治経済の状況を一変させた。IMFと世界銀行は、世界同時利上げによる景気後退リスクについて、国連と同調して懸念を表明しているが、インフレの原因や定義についての議論は未だに錯綜している。また、インフレを巡る政治や、利益を得る人と被害を被る人の配分的影響も問題となっている。 こうした問題の基礎を明らかにするため、ニューヨーク市立大学労働都市研究学校の准教授のサミール・ソンティと、ジョン・ジェイ大学准教授のJW・メイソンによる対談をお届けする。

Who Pays for Inflation?
A conversation on monetary policy, labor, and the definition of inflation
Posted by Phenomenal World :Samir Sonti , JW Mason
October 12, 2022
This article was originally posted on Phenomenal World, a publication of political economy and social analysis.
本記事は、政治経済と社会分析の専門誌『Phenomenal World』誌に掲載されたものである。

昨年来のインフレは、アメリカをはじめとする世界の政治経済の状況を一変させた。IMFと世界銀行は、世界同時利上げによる景気後退リスクについて、国連と同調して懸念を表明しているが、インフレの原因や定義についての議論は未だに錯綜している。また、インフレを巡る政治や、利益を得る人と被害を被る人の配分的影響も問題となっている。

こうした問題の基礎を明らかにするため、ニューヨーク市立大学労働都市研究学校の准教授のサミール・ソンティと、ジョン・ジェイ大学准教授のJW・メイソンによる対談をお届けする。この対談は、「新しい労働フォーラム(New Labor Forum)」のポッドキャスト「団結を再発明する(Reinventing Solidarity)」のために行われたもので、音声はここで聴くことができる。

インタビューを文章するにあたって、読みやすさを考慮した編集を行った。

サミール・ソンティ:私は長年にわたって、インフレ政策の労働者への影響について関心をもってきました。このテーマについて、JW・メイソンほど詳しい人はいないでしょう。まず、最初に、基礎的な定義を説明してもらえると有益かと思います。報道の見出しでは、インフレが40年ぶりの高水準にあるとありますが、労働者からすれば毎年生活費が上昇している事実は特に目新しいものではありません。例えば、住宅価格は何年も前から上昇を続けています。「インフレ」という言葉の正確な意味を教えてもらえますか? 私たちが最近になって経験しているインフレは、他のトレンドとはどう違っているのでしょう?

JW・メイソン:普通の人にとってインフレとは、様々な価格が上昇していく時期となるのでしょう。しかし、あなたの指摘にあるように、それは即座に「個別価格の上昇に過ぎないのでは?」との疑問となります。経済は多くの個別価格から成り立っており、それらは全て足並みを揃えて動くわけではないからです。インフレ率というのは、代表的な家計が購入する平均的な価格を測定したものです。しかし、この定義でも、「どの家計か?」という問題が生じます。人によっては購入するものが異なりますし、平均的な価格の算出が難しい財もあります。つまり、世の中には「物価水準」というものは存在せず、様々な計算方法があるだけなのです。

一般的に、インフレ率を測定するには、人々が利用するモノやサービスを調べます。株、暗号通貨、利息収入といった金融資産は含まれません。一方で、モノやサービス以外の価格も含まれています。例えば、消費者物価指数で最も大きな比重を占めているのは、「帰属家賃」と呼ばれているものです。これは、人が実際に支払っている価格ではなく、住宅所有者が、その自宅を借家として借りた場合の費用を、労働統計局が推定したものです。その計算はかなり複雑なプロセスとなっています。

住宅費がアメリカにおいて長年の問題となっているのは、まったくその通りです。しかし、アメリカにおいてほとんどの人は住宅を所有しており、これをインフレ率の統計に盛り込むのは難しいため、アメリカ人が本当に経験している物価の指標を考えるのは簡単ではありません。医療も興味深い事例です。現在のインフレ率の統計では、人は購入したモノは自分のために消費する前提になっていますが、私たちは通常認識している以上に、消費を社会化しています。医療は個人消費の一形態となっていますが、実際の医療支出のほとんどは、医療を受ける本人ではなく、雇用主や政府によって支出されています。すると、「医療の価格」というのは、家計によって支払われている価格なのか、医療提供者の受け取る価格なのか、どちらになるのでしょう? パンや飛行機のチケットの話であれば大した問題とならないものが、こうした事例では大きな違いを産む可能性があります。なので、答えは一筋縄ではいきません。

インフレの指標として最も注目されている消費者物価指数(CPI)は、この1年で8%以上も上昇しました。しかし、インフレの指標としては、FRBが伝統的に好んでいる、個人消費支出デフレーター(PCE:personal consumption expenditure)というものもあります。PCEは常にCPIと連動するとは限りません。今現在だと、PCEで測定したインフレ率はかなり低くなっています(6%程度ですね)。この指標のどちらか一方を、正確で適切であるとは断言できないのです。

これらのことから、インフレを単なる事実として見なすことはできないのです。インフレは、多くの仮定と選択に基づいた、統計的な構成要素であると言えるでしょう。どのように操作するかによって、最終的に得られる数値は大きく異なります。つまり、過剰な需要や支出は、どんな場合でも必然的にインフレに至る、という考え方は、実際の統計数値とは大きく乖離するのです。経済学者達は、実際に計測された数値と、理論的に導出した概念をイコールであると想定したがりますが、多くの場合で、それぞれ別の宇宙に存在しているのですね。

といっても、多くの価格が上昇しているのは事実です。それらは、それぞれ異なる方法、異なる原因から上昇しています。家賃価格は、2015年以降、一般物価水準より急速に上昇しています。人々が住みたい場所に十分な住宅がなく、家主による現存する住宅家賃の釣り上げを制限するような規制はありません。さらに、エネルギー価格や食料価格もこの1年でかなり上昇しています。ガソリン価格は常態的にインフレの象徴となっており、インフレについての記事では必ずガソリン給油口の写真が載っています。しかし、ガソリン価格は大きく乱高下します。現在のガソリン価格は2014年とほぼ同じで、実は2008年には今よりも高くなっています。

ここ1、2年での目新しい出来事は、車のような非常に目に付きやすい工業製品価格の上昇です。これらの価格は、全般的に長期にわたって下落し続けてきました。資本主義経済のグローバル化は、工業製品の生産能力を恒常的に向上させており、企業は製品を生産するための安価な労働力を嗅ぎつけることを得意としています。なので、今の工業製品の価格が上昇しているという事実は、間違いなく最近はまったく見られなかった要素なのです。

重要なのは、インフレという大きな傘で一括にせずに、個別の事情に注意を払わないといけないのです。

サミール・ソンティ:その「新しい要素」に焦点を当てましょうか。バイデン政権は、一連の価格上昇の多くの原因を、サプライチェーンの混乱だとしています。識者らは、政権による景気刺激策によるものだと主張しています。この論争は、何が争点となっており、実際には何が起こっているのでしょう?

JW・メイソン:供給に関する読み解き、需要に関する読み解きと、対立している読み解きがここにはあるわけです。これらは、ある意味で異なる視点から同じ物語を語っているだけです。ある商品の価格が上昇していれば、人々が企業が生産できる量よりも多くを購入したがっていると言うこともできますし、企業は人々の購入したいだけの量を生産できなかったと言うこともできますからね。

しかし、こうした考え方を詳細に検討してみると、相違点が見えてきます。私たちは、経済の生産力は時間とともに徐々に上昇すると考えがちです。そのため、歴史的に、インフレ率が急激に上昇し始めると、原因は供給ではなく、需要にあるのだろう、と決め打ちをしがちなのです。これは、通常、モノを生産する能力に大きな変化は生じませんが、人々が使いたがるお金の消費意欲は急激に変化する可能性があるからだ、とされている考えです。

たしかに、これは一般的には正しいのですが、常にそうとは限りません。というのも、言うまでもないですが、今のこの瞬間にも、私たちは、モノを生産し輸送する能力にハッキリとした混乱が起こっているのを経験しています。

ラリー・サマーズやジェイソン・ファーマンといった、〔需要に問題があるとしている〕論者の議論を聞くと、ちょっと困惑しますね。彼らは、この3年間に起きたことを、連邦政府による突如した、巨額の財政支出だけに原因があるとしているのですから。〔巨額の財政出動が行われた〕ことは事実でしょう。しかし、別の現象も生じているのです。世界的な新型コロナウイルスのパンデミックです。これも別の意味で重要な事件でした。自動車価格が劇的に上昇したのは、人々が数年前より車を買うようになったからではありません。新型コロナウイルスのパンデミックが発生した際に、自動車メーカーは、車が売れないと想定して、半導体の発注をストップしたのです。こうした特殊な電子機器の需要は、一度ストップするとなかなか元に戻りません。だから、自動車生産は急落し、海外からの輸入でもその穴を埋めることができなかった。そして、自動車を買いたい人が出てきて、価格が劇的に上がったのです。他のモノでも同じことが言えるため、これはそれほど不思議な現象ではありません。

ウクライナでの戦争も、エネルギーや食料品の価格を押し上げました。広義のインフレにおけるエネルギー価格の重要性を示している興味深い最近の研究があります。それによると、エネルギーとは、ほとんどすべての産業プロセスにおける投入財ですから、エネルギー価格の上昇は、エネルギー価格だけの影響に留まらず、広義の物価に与える影響がはるかに大きくなるとされています。

さらに、ここ数年のGDPトレンドを見ると、需要がパンデミック前のトレンドをはるかに下回っていた時から、すでに物価が上昇していたことがわかります。ですから、需要と供給の議論をしたいなら、供給側になんらかの事情があるというのが、揺るがない事実なのでしょう。むろん、パンデミックがなければ、過去の2年間での歳出規模であっても、今回のようなインフレを引き起こしはしなかったでしょう。

とはいえ、パンデミックを考慮し、経済への政府支出が少なかったと仮定するなら、おそらくインフレ率は低くなっていたことは否定できないでしょう。しかし、もしそうなら、それは良い結果だったことを意味しません。2020年前半に特徴となっていた〔パンデミックによる〕経済の破滅感を思い起こせば、多少のインフレ高進を代償を払っても、この時に予測された経済破綻を回避できたであろうことを行幸だと考えるべきなのです。

一例を挙げましょう。アメリカ農務省が「食料安全保障が非常に低い状態にある」、つまり文字通りに「食うに困っている」世帯の割合は、その最悪カテゴリだと約4%です。これは、2007年には、4%から6%へと、わずか数年で50%も上昇したのです。この数値は、危機からしばらくたって4%前後の元の低い数値になりましたが、毎晩空腹で就寝している子どもの割合はもっと高い数値となっています。こうなってしまったのは、〔リーマンショックに端を発する〕金融危機と、それに対応するための経済刺激策の過剰さを恐れたラリー・サマーズのような人たちの誤った管理のせいです。私たちは今回、そうした間違いを犯さず、コロナ・ショックによる経済的な穴を埋めるため、人々の所得の低下を防ごうと十分な予算を投じました。結果、飢餓人口は減少しました。

これは素晴らしいニュースです。これはまた、〔政府がコロナ・ショックで財政支援をあまり行わなかった〕別のシナリオよりも、人々が多くのお金を使えるようになったのを意味しています。確かに、〔コロナ・ショックで家計への財政支援が不足していれば〕家賃の差し押さえによる住居の立ち退きが大量に発生しており、現在の家賃は下がっていたかもしれません。〔食料を買えず〕飢えている人が多ければ、食料価格は下がるかもしれません。つまり、需要のせいにしたいのなら、いくらでもできるのです。海外からの輸入物価によってインフレになった要素もあるかもしれませんが、これ以上高進はしないでしょう。しかし、輸入物価によるインフレ論は、需要の高まり論とは矛盾していますよね。いずれにせよ、見過ごしてはならないのは、トレードオフです。インフレ率は、数%下げられていたかもしれません。しかし、その政策価値は、飢餓に苦しむ子どもを増やすことと釣り合うのでしょうか? 倒産するであろう企業とは? こうしたトレードオフについての議論は行われていませんが、なされるべき議論なのです。

サミール・ソンティ:連邦準備制度について少し話しましょう。これまでのところ、インフレへの主な対処として利上げが行われており、あらゆる示唆でもってこれが続くと予測されています。まず、連邦準備制度とはどんな機関なのでしょう? 次に、これまでの議論を踏まえてですが、この機関はなぜ金利を引き上げているのでしょう?

JW・メイソン:連邦準備制度とは、アメリカの中央銀行で、金融システムの頂点に位置する機関ですね。現在だと基本的に連邦政府の一部ですが、歴史的には民間銀行と深い関係にあり、その立ち位置は曖昧でした。これには実に興味深い逸話があります。19世紀、アメリカには中央銀行がなかったのです。政治スペクトルで左端、特に左派ポピュリストは、通貨を管理し、無管理の金本位から定期的に生じていた金融危機を阻止するための公的機関を求めていました。FRBは、多くの点で、そうした要求への妥協的な産物です。むろん、〔通貨管理における〕民主的な説明責任は問題です。しかし、機関として金融・銀行システムを管理する必要性も忘れてはならないのです。問題は、この機関に、マクロ経済の管理も任せていることにあります。これはあまり適切な処置ではないでしょう。

金利については、銀行間で相互に融通しあっているオーバーナイト・レート(翌日物金利)という考えがベースとなっています。これは、民間銀行間で24時間以内で決済される貸付金の金利です。この金利は、フェデラル・ファンド・レートと呼ばれ、実質的には連邦準備制度理事会(FRB)が決定しています。1990年代以降、経済成長からインフレ、失業率に至るまで、すべてこの金利だけで管理されてきました。これは、考えてみれば、ちょっとおかしい話です。FRBの法的任務は、インフレ率と失業率を管理することではありません。物価の安定と完全雇用に見合った形で、貨幣と信用の長期的な成長を安定させることにあるのです。これは、重要な違いです。つまり、銀行システムに起因する不安定性を、FRBは担うべきでないのです。

いずれにせよ、この考えに立つなら、利上げによって、銀行間での融通コストが高くなります。それによって、銀行による貸付けコストは高くなり、特に企業の投資コストが上がります。企業の投資支出が減れば、経済全体への需要が減ります。そして、支出が低下し、雇用が減ることになります(企業はモノを作るために人を雇うので、モノを作る量が獲れば、雇用も減少します)。失業者が増え、雇用が減ると、賃金も下がり、物価を下げる方向へと誘導されます。以上が、1990年代以降に作られた物語です。実際、パウエルFRB議長は、労働者に賃下げを受け入れさせることでの、インフレの抑制をかなり前面に打ち出していますよね。

私たちの立場では、以上の物語について2つの疑問があります。第一に、「それは本当に効果があるのか?」 次に、「この目的を達成するとしても、他にも何か良い方法はないのだろうか?」というものです。私自身としては、この方法はあまり効果がないと思っていますし、問題の解決には、別の方法を発見するのが間違いなく可能だと考えています。

実際、企業経営者に、投資の決定動機について聞くと、金利は彼らの中であまり重要な判断材料となっていないことが分かります。一方で、労働市場は、様々な原因によって変化します。失業率が高くなれば、賃金が低下するのは、上で概説したこの物語による連鎖関係の中で最も確からしい事実でしょう。しかし、それに続くステップはかなり不安定です。私たちは、物価が人件費と同じように動くわけではないことを知っています。もし同じように動くなら、総収入に占める賃金の割合は変わらないでしょう。よって、この想定されている連鎖で、「失業率増→賃金低下」以外の関係は、極めて疑わしいのです。

FRBが自作しているモデルを基にした統計的な証拠を見ると、金利は効果を持つとされていますが、ピークに達するまでに約2年かかることになっています。つまり、今、金利を上げると、2024年の半ばから後半にかけて、消費や雇用が減少する可能性があるのです。その頃には、不況になっているかもしれません。高速道路で車を操縦する際に、ハンドルを動かしてから、実際に車が方向転換するまでに大きなタイムラグがあれば、車は衝突するようなものですね。

一方で、金利操作に効果がないとかもしれないという前提に立てば、楽観視しても良いでしょう。前回FRBが金利を上げたのは2015年でしたが、何ら目立った効果はありませんでした。確かに、FRBが金利を非常に高水準まで引き上げれば、特に国民や政府による既存の債務への高い利払いとなって現れるため、危機を作り出すことができます。しかし、危機を引き起こすほどの利上げでないなら、実態経済に影響を与えられるかどうかは、極めて不明です。FRBが、金利を調整することで、複雑な実態経済全体、つまり巨大な分業体制下にある様々な意思決定者を操作できる、との考え方は、歴史的にも統計的にも裏付けに乏しいですね。

サミール・ソンティ:現時点では、金利は引き上げられていますが、それでもかなり低い数値です(4%まで上がるかもしれませんが、1970年代には約20%でした)。これまでずっと、低金利が続いていたため、これを問題とする意見もあります。2009年から2010年にかけての、依存的な量的緩和は、ウォール街での金融資産への投機を煽り、実体経済への新規のリスクをもたらし、経済格差を拡大させた、との批判がありますよね。あなたは、こうした見解に対して、ニュアンスの異なる見解を持ってらっしゃるようです。

JW・メイソン:私の個人的な見解では、量的緩和の影響は良くも悪くも大げさに言及されすぎです。量的緩和の背景にあるのは、FRBが債権を買えば、実体経済にもっとお金を流すことができる、との考えです。しかし、現代経済においては、「お金」とは、非常に不定形なものです。様々な資産が貨幣として機能しており、FRBはその創造と滅却を独占することはできません。FRBが、銀行の保有する国債と引き換えに、何十億ドルの準備預金を供給したとしても、その国債は本質的にすでに貨幣として機能しているので、特に何も変わりません。FRBが〔量的緩和によって〕買った資産と、その変わりに供給したマネーは、ほとんど等価物なのです。そのため、量的緩和の効果はごくわずかに過ぎないでしょう。

2007年の金融危機の直後に、銀行が保有を望まず、売ることもできない不良資産を買い取っていた時は別ですよ。しかし、人々が通常QE(量的緩和)と呼ぶ政策、つまり国債の購入は、安全で流動性のある資産を別の資産に交換するだけです。バケツでプールの水を組んでから、向かい側まで運んで、同じプールに放流するようなものですね。

資産バブルの問題については、一般的に低金利は資産価格の上昇につながると考えられていますが、そうなるとは限らないと思います。バブルは、様々な要因に影響されます。歴史的に見ると、壊滅的な資産バブルは、低金利の時代に必ずしも発生していません。〔大恐慌直前の〕1920年代後半だと金利は特に低かったわけではなく、むしろ株式バブルのピーク時には、金利はかなり高かったのです。高金利は、多くの活動主体をバブルにシフトさせたため、問題の一部となっていたのは間違いないでしょう。金利が3%から6%に上がれば、起業や住宅購入の意欲をそぐかもしれません。しかし、翌年に10%、20%、30%も上がると考えて株式を買っている人は、そんなことは気にしないのです。

バブルの原因がFRBにあるとするなら、FRBの監督の役割を果たさずに、銀行システムを効果的に管理していない事実に焦点を当てるべきでしょう。FRBは、銀行がどのような資産を保有し、どのような条件で取引を行っているのかを監視・調査する役割を果たすべきなのです。バブルを管理するには、高金利は必要とされていません。金融システムの規制の強化こそが必要とされているのです。

サミール・ソンティ:最後に、ここまで話題としてきたことは、労働者にとってどのような意味を持っているのでしょう? そして、政治・社会変革にコミットしている私たちは、何をなすべきなのでしょう?

JW・メイソン:大きく3つ解答をさせてください。第一に、インフレには、私たちの大きな目標に沿う形で対応すべきなのです。〔インフレの原因として〕政府の過剰支出について話すべきでないのは、それが間違えているというものありますが、望ましくない緊縮財政のアジェンダを支持することになってしまうからなのです。利上げが好ましくないのは、それが効果がないだけでなく、たとえ機能したとしても、労働者に危機のコストを負わせてしまうからなのです。

したがって、サプライチェーンについて語られている話は、解決策が公共投資となるのを意味しているため、重要となっています。港湾のキャパシティが不十分となっているのなら、これを増やす必要があるでしょう。エネルギー価格が乱高下しているのなら、クリーンエネルギーとグリーン雇用への公共投資を増やす必要があります。住宅価格が上昇しているのなら、公営住宅をもっと建設する必要があります。

第二に、FRBが、失業率を引き上げ、賃金上昇率を引き下げようとしていることを忘れてはいけません。FRBの利上げの意図は、それに他ならないのです。私たちのFRBへの要求はシンプルであるべきです。「そんなことはするな」と。銀行救済のための条件付きの複雑な資金注入も拒否すべきです。私たちは、ただFRBがやっていることへの拒否を要求すべきなのです。失業率を上げようとしていること、賃金の伸びを鈍化させようとしていること、求職を困難としようとしていることは忌避すべきです。良い経済とは、労働者が簡単に仕事を見つけることができ、企業が労働者を見つけるのに苦労するような経済だと思いますね。これは、労働者にとっても良いことですが、長期的には生産性の向上にも役立ちます。職場の民主化にも、イノベーションにも良いことです。これらは良いことであり、私たちはこれを要求すべきであり、FRBのこれへの干渉を拒否すべきです。

第三に、私たちは、インフレに動転してはいけません。世界で起きているのは、インフレだけではないのです。インフレの別側面として重要となっているのは、労働市場が非常にタイトになり、労働者が雇用者と交渉しやすくなっていることです。ファーストフード店やアマゾンの倉庫での労働者の組織化が進んでいるのは、インフレだけが原因ではないですが、インフレは闘争に非常に有利な環境を作り出します。

私が、こうした労働運動の組織者からよく聞くのは、「ウォール街を占拠せよ」でよく言われていたような、「クソ野郎どもは、クソ野郎であり、ゴミ野郎だ」と喧伝しなくてもよい、ということです。運動を行っている人たちは、これを重々承知しています。自分の仕事のどこに問題があるのか、皆、分かっているのです。現在の経済状況〔インフレ環境〕は、集団としても個人としても、仕事でも上位の人間に対抗するのに有利である事実を見過ごしてはいけません。現状は好機となっています。

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