●Lars Christensen, “Stanley Fischer – this guy can keep NGDP on a straight line”(The Market Monetarist, December 12, 2013)
ロイターが次のようなニュースを報じている。
ジャネット・イェレン(Janet Yellen)のFRB議長就任に伴って、空席となるFRB副議長の座。次にその座に就くのは誰かと話題になっているが、とある関係筋が昨日(水曜日)語ったところによると、前イスラエル中銀総裁であるスタンレー・フィッシャー(Stanley Fischer)氏に対して、FRB副議長への就任要請がなされたということだ。フィッシャー氏は、イスラエル中銀総裁の職を計8年間務め上げ、今年6月にその座を退いたばかり。
フィッシャー氏は現在70歳。貨幣経済学の分野における世界有数の経済学者の一人として広くその名を知られている。かつてマサチューセッツ工科大学で教鞭をふるっていた際の教え子には、現FRB議長のベン・バーナンキ(Ben Bernanke)や、現ECB総裁のマリオ・ドラギ(Mario Draghi)がいる。
現FRB副議長であるイェレンは、来週開催される上院本会議で次期議長への指名が承認される見通しとなっている。このままいくと、来年1月に任期を終えるバーナンキ議長の後任を務める格好となる。
アメリカとイスラエル両国の市民権を持つフィッシャー氏。イスラエル経済も今般の経済危機の影響から逃れることはできなかったものの、その被害が最小限に抑えられたのは、(イスラエル中銀総裁として金融政策のかじ取りを行った)フィッシャー氏の手腕によるところが大きいとされている。FRBにとって部外者であるフィッシャー氏が副議長に就任することになれば、FRBに新たな発想が持ち込まれると同時に、幾ばくかの連続性も担保される [1] 訳注;FRBの従来のスタンスが(大きく転換されることなしに)ほぼそのまま受け継がれる、という意味。のではないかと予想される。
良い報せだ! フィッシャーは、FRB副議長に申し分ない人物だ。貨幣(金融)理論や金融政策に通じているというだけではない。それより何より、名目GDP(名目所得)ターゲットに共感する素振りを見せた過去があるのだ。(エヴァン・ソルタス(Evan Soltas)の後追いというかたちになるが)その証拠として、1995年のAER(アメリカン・エコノミック・レビュー誌)に掲載された彼の論文 “Central Bank Independence Revisited” (「『中央銀行の独立性』の再検討」)から、少々引用するとしよう。
金融政策は、短期的には、生産量にもインフレにもどちらにも影響を及ぼす。金融政策が実際にどのように運営されているかに目を向けると、たとえ長期的なターゲットが設定されたり、政策の長期的な影響にも考慮が払われるとしても、短期的な影響に着目して舵が取られている。名目所得ターゲットというのは、生産量とインフレのそれぞれの目標値をどう組み合わせたらよいかという問題に対して、自動的に回答をはじき出す仕組みだと言える。1対1でトレードオフせよ、というのがその答えだ。・・・(中略)・・・負のサプライショックは、物価を上昇させると同時に、生産量を落ち込ませることになる。それゆえ、経済が負のサプライショックに晒された場合、名目所得ターゲットとインフレ目標とでは、前者の方が金融引き締めの度合いは小さくなるだろう。名目所得ターゲットは、サプライショックに対して、金融政策面でより好ましい反応を自動的に引き出す仕組みと言えるわけだ。・・・(中略)・・・サプライショックに見舞われるたびに目標値が見直されるという条件がつくのであれば、名目所得ターゲットよりもインフレ目標の方が好ましいというのが私の判断だ。
イスラエル中銀総裁時代のフィッシャーは、本心はどうだったか知らないが、あたかも名目GDPの水準にターゲットを設けて、金融政策の舵を取っていたかのように見える。以下のグラフを見てほしい。特に、2008年あたり。危機の形跡が「欠けている」こと [2] … Continue reading に注目だ。
フィッシャーは、運に恵まれた面もあることは確かだ。また、イスラエル中銀総裁時代に、「フォワード・ガイダンス」の扱いで時にヘマをやらかしたことも間違いない。しかし、彼が残した実績(トラックレコード)を見れば一目瞭然だが、イスラエル中銀総裁としてのフィッシャーは、イスラエル経済に前例のない――イスラエルの歴史上極めて稀な――名目面での安定(nominal stability) [3] 訳注;(名目GDPなどの)名目変数の安定化 をもたらしたのだ。FRBも同様の実績を残せるように、フィッシャーが手助けしてくれんことを。