クリスチャン・ダストマン, ヘジン・ク, ドウォン・クァク 「なぜ男女別学校のほうが上手くゆくのか」(2017年9月28日)

Christian Dustmann, Hyejin Ku, Do Won Kwak, Why single-sex schools are more successful, (VOX, 28 September 2017)


これまで幾つかの研究で、男女別学校の生徒が男女共学校の生徒を上回る成績を収めていることが示されてきた。本稿はこの因果効果を細分化する試みである。そのさい利用したのは韓国政府のある政策で、これにより一部の男女別学校でいちどに一学年づつの男女共学化が行われた。学業成績は、男女共学となった学校の男子生徒については学級が男女別学に保たれていた場合でも低落した。女子生徒についてはクラスも男女共学になった場合のみ低落した。これら結果は、男女共学校が男子生徒と女子生徒におよぼす影響につき、異なるメカニズムが存在することを示唆する。

ここ数年、生徒の学業成績向上および諸般の性別格差の縮減をめざすために取り得る方策として多くの政策的関心を集めているのが、男女別学教育だ。男女別学教育の推進者の主張によると、男女別学環境には、生徒が異性に気を取られることを避け、また性別にかんする固定観念から苦痛をこうむる可能性を少なくするといった幾つか理由で、学業成績に好影響があるという。他方、男女共学教育の支援者の主張では、男女共学校の男子生徒のほうがよい成績を修めており、それはかれらが素行・学業成績ともにより優秀な女性のピアに取り巻かれているからだという。くわえて、男子生徒・女子生徒そうほうにとって、男女共学の環境はソーシャルスキル涵養の観点でもより好ましく、生徒に 「現実社会 (real world)」 にたいする準備をさせる意味でもより適切である、と主張されている。

こうした次第であれば、問題の鍵は、男女別学環境が生徒の学業成績を向上させるかではなく、その効果がどちらの性別にも共通しているのか、ここにあるといえよう。この点につき研究を進めるさい必要となるのは、男女共学校にたいする男女別学校のピアに、生徒を露出した場合の因果的影響の推定である。この影響の推定はきわめて困難である。その最たる理由は、生徒をさまざまな学校に選別するプロセスが内生的であるところにある。

研究課題および研究計画

われわれが最近の論文 (Dustmann et al. 2017) で取り上げたのは、まさにこの問題だ。われわれの研究の基礎となっているのはPark et al. (2013) である。同論文は韓国のソウルにおける割り振り政策を活用したものだ。ソウルの学生は、学区内部にある普通高校へと無作為に割り当てられていた。同著者らは単一クロスセクションデータ (1999年のもの) を用いて、男子生徒 (女子生徒) であって男子校 (女子高) に割り当てられた者の成績が、男女共学校における生徒のそれを上回っていることを示した。しかしながら、ソウルにおける既存の男女別学校および男女共学校は、生徒の性別以外にも、観測可能なもの観測不能なものそうほうを含む多様なインプットについて異なっているかもしれず、それが生徒の学業成績に作用することもあり得る。したがって、生徒が男女共学校ではなく男女別学校へと無作為に割り当てられたとしても、学校間でみられる生徒のアウトカムの違いが、生徒の性別のためである可能性と (生徒の性別構成からの直接効果)、観測可能なもの観測不能なものそうほうを含む学校由来インプットである可能性と (学校効果) があるのだ。またさらに、生徒の性別構成からの直接効果のほうは、男女共学校のピアにたいする学校 (school) レベルでの露出に由来する可能性と、学級 (classroom) レベルのそれに由来する可能性とがある。男女別学校または男女別学学級の新設を考えている政策画定者にとって鍵となるのは、男女共学学習環境にたいする男女別学学習環境への露出になんらかの直接の恩恵があるのか – 学校レベルであれ学級レベルであれ – という問題だ。

男女共学校にたいする男女別学校がもつ全体的な効果

われわれはこれら3つの異なるパラメータを特定している。そのさい国立大学入学試験にかんするある行政データが役に立った。これら試験は1996-2009期に韓国学制における12年生が受けたものだ。前述の選別問題に取り組むため、学区内における学校への生徒の無作為割当を、コホートごとに用いた – Park et al. (2013) に類似した手法だが、本研究では複数年度データを扱っている。これによりわれわれの次の第一の問題と取り組むことができるようになった:

  • (男女共学にたいする) 男女別学校での就学が生徒の学業成績におよぼす全体的な効果はいかなるものか?

因果的ではあるが、これは直接効果 (生徒の性別構成による) および学校効果 (男女別学校と男女共学校とのあいだの差異による) の合成物を示すものだ。

結果、男女別学校の生徒が男女共学校の生徒を成績において上回る旨を示す頑健な実証成果が得られた。その差は、男子生徒については標準偏差の5-10%分、女子生徒については標準偏差の4-7%分であり、(韓国語・英語・数学を含む) 諸科目をとおし、似通った推定値がでている。これはPark et al. (2013) で報告された結果とも軌を一にしている。これら効果は、ソウルにおいて (男女共学にたいする) 男女別学校での就学が試験の成績におよぼす因果的効果を計測するものだが、この全体的効果はそうした文脈に特定的であることも事実である。なぜかといえば、この全体的効果は、男女共学校にたいする男女別学校のピアへの露出と、男女別学校と男女共学校のあいだにある学校由来インプットの文脈特定的差異、これらを合成しているからだ。したがってこのパラメータは、ソウルで学ぶ生徒とその親にとって興味深いものだとしても、他の環境に一般化できるものではないのである。

直接効果

直接効果の分離をおこなうため、われわれは次の事実を利用した。すなわち、ソウルでは男女共学教育を厚遇する政府の政策のために、1990年代から2000年代にかけて男女共学タイプに変換した男女別学校が一部存在したのである。これにより、観測されておらず、かつ、時間不変的な (および観測され、かつ、時間変化的な) 学校の特徴を除去できるようになった。つまり、次の問題への取り組みが可能になったのである:

  •  (男女共学環境にたいする) 男女別学環境への露出には、学校および学級レベルで、いかなる直接効果があるのか?

ここでわれわれは (無作為学校割当と並行した) 学校タイプの変化を利用し、男女別学環境か男女共学環境のいずれかにたいし、学校レベル・学級レベルのそうほうで露出したコホートを比較した。結果、学校タイプが男女別学校から男女共学校へと変化すると男子生徒・女子生徒そうほうについて学業成績が悪化することが判明した。これは学校ごとの固定効果を前提としたものであり、したがって、(男女共学環境にたいする) 男女別学環境への学校・学級レベルでの露出がもたらす合成効果はポジティブなものであることが示唆される。

学校レベルでの露出にたいする学級レベルでの露出

最後に、われわれは韓国における普通高校が3つの学年 (10学年・11学年・12学年) から成り立っている事実、および学校タイプ変換がコホートレベルで実施された事実、これらに着目した。具体的には、男女共学体制に迎え入れられた最初のコホートは、3年ものあいだ、学級・学校レベルで両性入り混じったピアにたいし露出したのである。これより一学年上のコホート (the preceding cohort) は、学級レベルで両性入り混じったピアに露出することはないものの、学校レベルでは男女共学環境にたいし (またこの体制転換に由来した学校レベルのあらゆる変化にたいし) 高校生活3年のうちの残る2年間、露出したのだった。新たな男女共学環境にたいする学校レベルでの露出からこれら2つのコホートのうける影響が似通っているかぎりで、2つのコホートの学業成績の差異 (および非体制転換校においてこれに対応する差異) をとおし、次の最後の問いに答えることができる:

  • 学級レベルにおける (混性にたいする) 同性のピアへの露出のみから生ずる効果はいかなるものか?

われわれは韓国の高校がもつ多学年制という特徴、および生徒の性別のコホートレベルでの変換を利用した。結果、学級レベルでの (混成にたいする) 同性のピアへの露出が、女子生徒の学業成績に有意な正の影響をもたらすことが判明した。具体的には、同一コホートに属する女子学生の割合を100%から50%へと外生的に変化させると、語学にかんする女子生徒の学業成績は、スコア分布の標準偏差の8-15%分減少した。しかしながら男子生徒については、(混成にたいする) 同性のピアが自らのコホート内にいることの恩恵は小さく、かつ、統計的に有意でもない。前述の直接効果にかんするわれわれの発見をふまえると、この発見が示唆するのは、自校における女子生徒の存在は (たとえ同じコホートにはいない場合であっても)、男子生徒の意識を勉学から遠ざけるのだということである。たいする女子生徒のほうは、こうした撹乱効果にもそこまで脆弱ではないが、それでも学級レベルで男子生徒に露出した場合には不利益をこうむる。

まとめと議論

われわれの研究の主要成果は、混性にたいする同性のピアに学校・学級レベルで露出したさいの効果を合成したもの (先ほど直接効果と呼んだもの) が、女子生徒・男子生徒そうほうにとってポジティブなものである可能性が高いという発見である。しかしながら、その背後にあるメカニズムは異なっている。男子生徒にとっては、男女共学教育の不利益は、学校レベルでの男女共学環境への露出にもっぱら由来する。しかし女子生徒にかんしては、(同性にたいする) 混性のピアへの学級レベルでの露出こそが、男女共学教育の不利益を説明するものとなっている。

十代の男子生徒は、女子生徒とくらべ、男女共学環境に注意を削がれがちなのかもしれないが (Coleman 1961, Hill 2015)、それでも女子生徒のこうむる不利益のほうが大きくなる可能性もある。たとえば、破壊的行動 (disruptive behaviour) が増加する (Figlio 2007の考察)、教師の注意が能力の劣る生徒のほうに傾く ( Lavy et al. 2012の示唆) といった理由がこれだ。

参考文献

Coleman, J S (1961), The Adolescent Society, New York: FreePress.

Dustmann, C, H Ku and D W Kwak (2017), “Why are single-sex schools successful?”, CEPR, Discussion paper no DP12101.

Hill, A J (2015), “The girl next door: The effect of opposite gender friends on high school achievement”, American Economic Journal: Applied Economics 7(3): 147-177.

Figlio, D N (2007), “Boys named Sue: Disruptive children and their peers”, Education Finance and Policy 2(4): 376-394.

Lavy, V, M D Paserman and A Schlosser (2012), “Inside the black box of ability peer effects: Evidence from variation in the proportion of low achievers in the classroom”, Economic Journal 122(559): 208-237.

Park, H, J R Behrman and J Choi (2013), “Causal effects of single-sex schools on college entrance exams and college attendance: Random assignment in Seoul high schools”, Demography 50: 447–469.

 

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