ダイアン・コイル 「無人島に持っていくならどの本?」(2012年2月15日)

●Diane Coyle, “Desert Island economics books”(The Enlightened Economist, February 15, 2012)


朝に犬の散歩をしながら、「無人島に本を持っていくなら、どれにしたらいいだろう?」ってずっと考えていた。BBCラジオの「無人島に持っていきたいレコード」シリーズが70周年を迎えたのに加えて、読み終えたばかりのスーザン・ヒル(Susan Hill)の愉快な小説『Howards End is on the Landing』(未訳)で「無人島に持っていく40冊」の話が出てきて、触発されたのだ。なかなか難しい問題だ。どんな本を持っていったらいいだろうか? 分厚くて読むのに時間がかかる本? それとも、難しくて読むのに苦労する本? 再読に耐える本? 古典? 幅広いトピックを扱ってる本? ええい、ちょっとしたゲーム感覚でいこうじゃないか。私なりに8冊を選んでみた。皆さんも自分なりに頭を捻ってみてほしいと思う。

1.A Treatise of Human Nature』(邦訳『人間本性論』)by デイヴィッド・ヒューム(David Hume):お気に入りの一冊。 物理的な自然界における人間の位置づけを理解することを通じて、社会における人間の選択を理解するための一冊。


A Treatise of Human Nature:Being an Attempt to Introduce the Experimental Method of Reasoning into Moral Subjects (Penguin Classics)

2.This Time Is Different』(邦訳『国家は破綻する―金融危機の800年』)by カーメン・ラインハート(Carmen Reinhart)&ケネス・ロゴフ(Kenneth Rogoff):債務危機の歴史が扱われている。発売後間もなくして古典に名を連ね、今もなお意義を失っていない一冊 (無人島にいる間は、意義を持たないだろうけれど。金融市場から切り離されているからね)。

3. 経済史の本も持っていかねばならないだろう。それも、内容的に優れていて、分厚い本を。どれを持っていったらいいだろう? グレゴリー・クラーク(Gregory Clark)の『A Farewell to Alms』(邦訳『10万年の世界経済史』)? ジャレド・ダイアモンド(Jared Diamond)の『Guns, Germs, and Steel』(邦訳『銃・病原菌・鉄』)? ジョエル・モキール(Joel Mokyr)の『The Enlightened Economy』(未訳)? ケネス・ポメランツ(Kenneth Pomeranz)の『The Great Divergence』(邦訳『大分岐―中国、ヨーロッパ、そして近代世界経済の形成』)? デビッド・ランデス(David Landes)の『The Wealth and Poverty of Nations』(邦訳『「強国」論―富と覇権(パワー)の世界史』)? 選ぶのは後日にしようと思う。

4. ケインズの伝記も持っていきたい。ハロッド(Roy Harrod)の『The Life of John Maynard Keynes』(邦訳『ケインズ伝』)か、ロジャー・バックハウス(Roger Backhouse)&ブラッドリー・ベイトマン (Bradley Bateman)の『Capitalist Revolutionary』(邦訳『資本主義の革命家 ケインズ』)のどちらか。う~む。難しい選択だ。


Capitalist Revolutionary:John Maynard Keynes

5.The Idea of Justice』(邦訳『正義のアイデア』)by アマルティア・セン(Amartya Sen):ライバルとしては、「市場の限界」がテーマになっているマイケル・サンデル(Michael Sandel)の『What Money Can’t Buy』(邦訳『それをお金で買いますか』)がある。近いうちに出版される予定 [1] 訳注;本記事が書かれた当時は、サンデルの『What Money Can’t Buy』は未刊。なので、読んでみてどちらにするか決めたいと思う。

6. 開発経済学の分野からはどれを持っていったらいいだろう? 開発経済学は広大で変化に富んでいる分野ということもあって選ぶのは難しいが、今のところはアビジット・バナジー(Abhijit Banerjee)&エステル・デュフロ(Esther Duflo)の『Poor Economics』(邦訳『貧乏人の経済学―もういちど貧困問題を根っこから考える』)ってことになるだろう。

7. 『Eminent Economists』:ノーベル経済学賞を受賞した面々が自らの業績や研究のモチベーションについて説明している。複数冊あるが、全部まとめて一冊にカウントしてもいいだろう。アグナー・サンドモ(Agnar Sandmo)の『Economics Evolving』(未訳)も経済思想史がテーマの優れた一冊として見過ごせない。選ぶのは、またもや後日にさせてもらうとしよう。

8. 「制度、テクノロジー、経済成長」がテーマの本で、持っていきたい候補はたくさんある。とりあえず、その分析の深さを称えて、オリバー・ウィリアムソン(Oliver Williamson)の『The Economic Institutions of Capitalism』(未訳)を選んでおこう。

金融危機がテーマの良書は、泣く泣く除外した。古くからの友人であるアンドリュー・ロー(Andrew Lo)が金融危機関連本を21冊まとめて書評している(pdf)が、実にお見事で有益な内容になっている。この書評をスーツケースに忍び込ませて、無人島に出かけるというのもありだろう。

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1 訳注;本記事が書かれた当時は、サンデルの『What Money Can’t Buy』は未刊。
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