Paul Krugman, “Masters of the Universe, Superstars of Wall Street,” Krugman & Co., March 7, 2014.
この世をば我が世とぞ思うウォール街のスーパースターたち
by ポール・クルーグマン
ハーバードの経済学者グレッグ・マンキューが,また 0.1 パーセントの連中を擁護する論を書いている――『ニューヨーク・タイムズ』に寄稿した今回の文章「しかり,富裕層にはその資格がある」(“Yes, the Wealthy Can Be Deserving”) は,なんというか,大したものだ.
でも,その「大したもんだ」部分に踏み込む前に,映画スターがどうのこうのって話,マンキュー氏の最初の論点をしっかり押さえておこう.そうね,一握りの人たちはいっぱいお金を儲けてる.でも,そういう人たちはいまの話ではどうでもいい部分にあたる.アメリカの所得分布の上位層を占めているのは,圧倒的に,あれこれの役員たちが主流だ――企業とか金融とか不動産とかのエライ人たちが占めている.あとは,ペリー・メイソンよりももちろん企業寄りの弁護士なんかもここに位置している.そして,メディアにでてくる超有名人たちは,真のプレイヤーじゃあない.思い出そう,ヘッジファンドのマネージャーとトレーダーたちの報酬上位40人は,2012年にそれぞれ平均4億ドル以上も稼いでいたんだよ.
ここで,マンキュー氏の論説の「大したもんだ」部分に話がつながる.マンキュー氏は,アメリカの格差におけるそういう所得が果たしている強力な役割をもちだして,そういう大金は分相応なんだと論じている.「同様の事例に,金融業がある.金融業をみると,多くの巨額にのぼる報酬パッケージが見つかる」と彼は記す.「この部門が決定的な経済的役割を果たしている点に疑いはない.銀行業やベンチャー・キャピタルその他の金融系企業ではたらく人たちは,経済の投資資源を配分する役目を負っている.国でいちばん才能があって,したがって高額の報酬を与えられる個々人がこの仕事に割り当てられるのは,道理にかなってる.」
マンキュー氏は,2006年から洞窟にこもって暮らしてたんですかね?
いまや,ウォール街の不品行がもたらした不況は7年目を迎えている.いまではみんな知ってるとおり,「経済の投資資源を配分する」魔法の仕事のなかみがどんなものかって言えば,その大部分は,大枚を不動産バブルにつっこむ一方でご大層な金融工学を使って頑健で安全な投資の幻覚をつくりだすことにあるわけだよ.それに,これもみんな知ってのとおり,とくにヘッジファンドが,投資家にとっての価値を破壊してしまうんじゃないかというホンモノの懸念がある.
もうひとつ.マンキュー氏の主張によれば,トップ 0.1 パーセントの所得者が払う連邦税が所得に占める割合は,中流階層よりも大きいので,ぼくらの税制は公平なんだそうだ.この主張では,この累進性が部分的に逆進的な州・地域の税で帳消しになっている点を見過ごしている(後者は所得によらず誰もが同じ額を払う).
でも,もちろん,議論の主眼は,次の点にある―― 0.1 パーセントにかかる税が高いと言っても(歴史の文脈においてみると実はそうでもないんだけど),その理由の大半は,ミット・ロムニーが2012年の大統領選挙で負けたことにある.オバマ大統領が勝ったことで,ジョージ・W・ブッシュの減税の一部が廃止されたままになったし,高額所得の追徴金も継続してt実施され,これがいまでは保健医療改革の財源の一部になっている.なんだか可笑しい話だって思うんだけど,マンキューは自分や友達連中がやっきになって破壊しようと試みた政策のおかげで,ぼくらの制度は公平だって主張してるわけだ.
ともあれ,ウォール街のオオカミどもは,アイアンマンというよりゴードン・ゲッコーに近い.極端な格差を正当化するのに保守派がもちあわせてる最良の論証がこういうものだとしたら,連中も絶好調ってわけじゃないんだね.
© The New York Times News Service
【バックストーリー】ここではクルーグマンのコラムが書かれた背景をショーン・トレイナー記者が説明する
富の配分
by ショーン・トレイナー
ジョージ・W・ブッシュのもとで主席エコノミストをつとめ,共和党の大統領候補ミット・ロムニーの経済諮問委員でもあるN・グレゴリー・マンキューは,所得者の最上位1パーセントを擁護する論説「しかり,富裕層にはその資格がある」を2月の『ニューヨーク・タイムズ』に公表した.
世間が最富裕層1パーセントと世間が受け止めている人たちの一例に,マンキュー氏は俳優のロバート・ダウニー Jr. を挙げている.ダウニーは映画『アヴェンジャーズ』の出演で5000万ドルを稼いだ.マンキューの主張によれば,この所得をみても,ダウニーをねたむ人など滅多にいないだろう,なぜならダウニーがこの大金を稼いだ理由を――同映画は国際的な大ヒット作であり,ダウニー氏はその成功の立役者だということを――人々が理解しているからだ,という.
よく悪役にされる1パーセントの人々,たとえば企業の CEO たちとダウニー氏がちがう主な点は,前者の人々が世間には見えにくいのだと,マンキュー氏は説明する.「『アヴェンジャーズ』のスーパーヒーローたちとちがって,もっとも裕福な上位 1パーセントは公共の善をおしすすめる利他的な欲求に動機づけられているわけではない.そうではなく,大半の場合には,彼らは結果として公共善をもたらしているのだ.」
多くの批評家は,この論証に異論を唱えた.「ぼくらが生きてるのは,投資家や企業リーダーたちがうまくやれば公平に報酬を与えられヘタを打てば正当に罰せられるような時代じゃない」――『デイリー・ビースト』のコラムニスト,マイケル・トマスキーはこう反論している.
『ガーディアン』紙のコラムニスト,アナ・マリー・コックスは,所得格差の溝がますます広がっていることに世間が抱いている不安の源泉について,マンキュー氏は判断を間違っているのではないか,と述べている.「マンキューは,単純化知った問いを立てている:『CEOたちは,とてつもない給料小切手をもらうに値するだけの人たちなのか?』というのがその問いだ」と彼女は記している.「マンキューは,その問いに対して,都合よく有名人をみつくろって引き合いに出すというかたちで,いっそう単純な答えを出している.でも,大半の人たちの脳裏にある問いは,それよりさらに単純な問いだ.でも,CEO やその取り巻きたちにはあまりに難しすぎてこれが理解できない:その問いとは,『じぶんって,これっぽっちのわずかな給料しかもらえないほど――ことによるとぜんぜん給料をもらえないほど――使い捨てにできる存在なの?』」
© The New York Times News Service
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