「ポップ経済学」本(一般読者向けに経済学の教えを面白おかしくわかりやすく説いている本)の時代がやって来ているようだ。「ポップ経済学」の隆盛をテーマに語らう場が設けられていて、私もそこにお呼ばれしている。オランダのロッテルダムにあるエラスムス大学で(2010年の)12月に開催されるシンポジウム(pdf)と、来年(2011年)の1月にあるアメリカ経済学会の年次総会で、「ポップ経済学」について話をする予定になっているのだ。
「ポップ経済学」のお薦めリストのトップに是非とも掲げておきたいのは、・・・そう、拙著だ。『The Soulful Science』(邦訳『ソウルフルな経済学』)は改定版が出ているし、前二著――『The Weightless World』 (邦訳『脱物質化社会』)& 『Sex, Drugs and Economics』――は私のホームページで無料で読める。
売れ行きの面で拙著よりも先を行っている――それも、大きな差をつけて先を行っている――「ポップ経済学」本と言えば、レヴィット&ダブナーコンビの「ヤバい経済学」シリーズ――『Freakonomics』(邦訳『ヤバい経済学』)&『Superfreakonomics』(邦訳『超ヤバい経済学』)――だ(私見だと、二冊目の方がずっと出来がいいと思う)。それと、偉大なるティム・ハーフォード(Tim Harford)の『The Undercover Economist』(邦訳『まっとうな経済学』)と続編とも言える 『The Logic of Life』(邦訳『人は意外に合理的』)だ。これまでに挙げてきた本では経済学全般がカバーされていると言えるが、この方面で他にも何冊か挙げておくと、タイラー・コーエン(Tyler Cowen)の『Discover Your Inner Economist』(邦訳『インセンティブ――自分と世界をうまく動かす』)、スティーヴン・ランズバーグ(Steve Landsburg)の『More Sex is Safer Sex』(邦訳『貞節はある種の公害だ!』)、ロバート・フランク(Robert Frank)の『Economic Naturalist』(邦訳『日常の疑問を経済学で考える』)なんかがある。経済学の特定の分野に的を絞った「ポップ経済学」本もある。その筆頭と言えるのが、ロバート・シラー(Robert Shiller)の『Irrational Exuberance』(邦訳『根拠なき熱狂』)だ。
経済学の特定の分野に的を絞った「ポップ経済学」本と言えば、行動経済学系もおさえておかねばなるまい。行動経済学系の「ポップ経済学」本の勢いは増す一方であり、公共政策に関わるすべての人たちに歓迎されている。行動経済学を学べば、言うことを聞かない民衆を公共政策に思い通りに従わせるための答えが得られると思われているのだ。この方面のけん引役と言えば、ダン・アリエリー(Dan Ariely)の『Predictably Irrational』(邦訳『予想どおりに不合理』)と、セイラー&サンスティーンコンビの『Nudge』(邦訳『実践 行動経済学』)だ。
金融危機がテーマの「ポップ経済学」本も登場している。スティーブン・キング(Stephen King)の『Losing Control』に、フィリップ・ルグラン(Philippe Legrain)の『Aftershock』、ラグラム・ラジャン(Raghuram Rajan)の『Fault Lines』(邦訳『フォールト・ラインズ――「大断層」が金融危機を再び招く』)、アナトール・カレツキー(Anatole Kaletsky)の『Capitalism 4.0』。ジョン・ケイ(John Kay)の 『Obliquity』(邦訳『想定外――なぜ物事は思わぬところでうまくいくのか』)も金融危機に(真正面からではなく)若干斜めから切り込んでいる一冊だ。
言うまでもないが、「ポップ経済学」本を書いて経済学の普及に努めた人物は昔からいる。その筆頭はケインズだ。ジョン・ケネス・ガルブレイスだってそのうちの一人だ。 「ポップ経済学」本の古典の中でも私のお気に入りの一冊は、トーマス・シェリング(Thomas Schelling)の『Micromotives and Macrobehavior』(邦訳『ミクロ動機とマクロ行動』)だ。「ポップ経済学」本の歴史は古いとは言え、普通の人でも近づきやすい「ポップ経済学」本の供給がこれまでになく増えているのは確かだ。それもこれも、不確実性が高まって先が見通せなくなっているせいで、世の中を理解する術に対する需要が高まっているからこそなのだ。
「ポップ経済学」本のお薦めが何かあるようなら、是非ともお知らせ願いたいと思う。
〔原文:“Pop Economics”(The Enlightened Economist, July 23, 2010)〕