ニック・ロウ 「政府による借金の返済(国債の償還)に伴う『正のフィードバック・ループ』と『負のフィードバック・ループ』」(2010年5月4日)

お金(自国通貨)を刷って政府の借金を返すという手が使える国と、その手が使えない国とでは、借り過ぎ(国債の過剰発行)によって誘発される問題の質に違いが出てくる。
画像の出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/26284483

この世の中には、二通りの国がある。お金(自国通貨)を刷って政府の借金を返す(国債を償還する)という手が使える国と、その手が使えない国である。カナダは前者の「使える国」であり、(ユーロを導入している)ギリシャは後者の「使えない国」だ。

どちらのタイプの国も借金を抱え過ぎてしまう(国債を発行し過ぎてしまう)と、トラブルに見舞われてしまう可能性がある。とは言え、「使える国」と「使えない国」では、見舞われるトラブルの質に大きな違いがある。「使える国」が見舞われるのは、「負のフィードバック」型のトラブル。その一方で、「使えない国」が見舞われるのは、「正のフィードバック」型のトラブル。何かよくないことが起きると、「正のフィードバック」は「負のフィードバック」よりもまずい結果を生むのが常である(反対に何かいいことが起きると、「正のフィードバック」は「負のフィードバック」よりも好ましい結果を生むのが常である)。

正のフィードバックにおいては、当初のショックの効果を増幅させる傾向のあるフィードバック・ループが発動される。(当初のショックが何倍になって還流してくるかを表す)ゲインの値が1を上回るようなら、二周目、三周目と進むにつれて当初のショックが次から次へと増幅され、その傾向はシステムが耐え切れなくなるまで続く。ゲインの値が1を下回るようなら、二周目、三周目と進むにつれて当初のショックと同じ向きの効果が徐々に薄められるかたちで表れるが、二周目以降の波及効果も含めてすべてを足し合わせると当初のショックよりも大きな効果が生み出されることになる。ただし、その総効果の大きさは有限の値にとどまる。正のフィードバック・ループの例の一つがケインジアン流の乗数だ。限界消費性向(=ゲインの値)が1よりも小さいようなら、乗数の値は1よりも大きくなるが有限の値にとどまる。

負のフィードバックにおいては、当初のショックの効果を打ち消す傾向のあるフィードバック・ループが発動される。二周目になると当初のショックと向きが逆の効果が表れ、当初のショックが多かれ少なかれ相殺される。負のフィードバック・ループの例の一つが室内の温度を調節するサーモスタット(温度調節器)だ。

ある国が国債を発行し過ぎてしまって、トラブルに陥っているとしよう。新たに国債を発行しても誰も買ってくれようとせず、それゆえ、既発国債の償還期限(政府がこれまでに負っている借金の返却期限)がやってきたら、新たに国債(借換債)を発行する以外の方法で返済しなければいけないとしよう。

この国が「使える国」であるようなら、お金(自国通貨)を刷ってこれまでの借金(既発国債)を返済することができる。そういう手を使ったとしても、景気が悪くてデフレに陥る危険があるようなら何の問題もない。お金が刷られたら、総需要が刺激される。景気が悪いようなら、ありがたい結果だ。お金が刷られたら、インフレが起きる。デフレに陥る危険があるようなら、ありがたい結果だ。「デフレ+インフレ=物価の安定」なのだから。

景気が悪くなくて既にインフレが起きているようなら、お金を刷ってこれまでの借金を返済するのは問題含みだ。お金が刷られると、インフレがさらに加速する。問題だ。でも、「負のフィードバック・ループ」も発動する。インフレが加速すると、これまでの借金の実質的な価値がなおさら低下する [1] … Continue reading。返済するのが楽になる。

だから何の問題もない・・・って言いたいわけじゃない。借金するのもお金を刷るのもインフレを起こすのも永遠には続けられない。予想インフレ率が高まるにつれて、名目金利(借金の金利)が上昇するからだ。お金を刷りまくって調達できる資源(実質値で測った財源)の量には限りがあるのだ。

お金を刷って借金を返済できるのは、もしかしたら一回だけかもしれない。「こいつはまたお金を刷って借金を返そうとするんじゃなかろうか」って貸し手(国債の買い手)に思われたら、もう貸してもらえない(国債を買ってもらえない)だろう。信用に傷がつくと、将来的にまたいつかお金を借りようとしても難しくなるだろう。そして、いつかまたお金を借りなくちゃいけなくなるかもしれない。お金を刷って借金を返済するという手には、痛みが伴うのだ。

この国が「使えない国」であるようなら、ずっと険しい道のりが待っている。これまでの借金を返済するためには、税金を上げるか、政府支出(歳出)をカットする(減らす)かしなくちゃいけない。どちらが採用されるのであれ、財政政策が引き締められると、総需要が落ち込んで、景気が悪化するだけでなくデフレが引き起こされてしまうかもしれない。景気が悪化したら、一国全体の所得が減って税収も減る。税収が減ったら、借金を返すのが難しくなる。デフレが起きたら、これまでの借金の実質的な価値が高まって、これまた借金を返すのが難しくなる。そうなったら、税金をさらに上げるか、政府支出(歳出)をさらにカットするかしないといけなくなる。かくして「正のフィードバック・ループ」が発動するわけだ。そのせいで、悪い状況が一段と悪くなってしまうのだ。ゲインの値が1を上回るようなら、どれだけ手を尽くしても、やがてはデフォルト(債務不履行)を宣言するしかなくなるだろう。エドワード・ヒュー(Edward Hugh)が言うところの「国債版雪だるま問題」が起きてしまうのだ。

そうそう。借り手としての信用を傷つけることにかけては、デフォルトもインフレに劣らないのであしからず。

「使える国」にとっての借金は、株式にどこか似ている。何かよからぬことが起きて、政府が借金を返すためにお金を刷らなくちゃいけなくなったら、国と貸し手(国債の買い手)が一緒に痛みを分かち合うことになる。

「使えない国」にとっての借金は、まるで・・・借金に似ている。何かよからぬことが起きたら、政府による借金の返済に伴う痛みを国がすべて背負わなくちゃいけない。それだけじゃなく、「正のフィードバック・ループ」が発動するせいで、他にもいくつか災難がおまけとしてついてくる。


〔原文:“Negative and Positive sovereign debt feedback loops”(Worthwhile Canadian Initiative, May 4, 2010)〕

References

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1 訳注;借金(債務)の実質的な価値が低下するということは、それと同時に、債権の実質的な価値が低下することを意味する。すなわち、インフレになるとお金の価値が目減りする(1円で買えるモノの量が減る)ので、政府にお金を貸した側からすると、政府が支払う借金の元本や金利の額がインフレに応じて調整されない限り、(予想外の)インフレによって損をする(痛みを被る)ことになる。
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