通説では,1990年にかの不動産バブルがはじけてから日本は「失われた○十年」に苦しんできたという話になっている.実のところ,一人あたり GDP を見ると,他の豊かな国々にくらべて日本の実績が見劣りしはじめた起点は1990年ではなく1997年に思える.97年といえば,アジア金融危機のあった頃だ.
この「失われた○十年」論に対して典型的に向けられる反論では,こう語られる――日本が停滞しているように見えるのは,大半が人口の高齢化によるものであって,実際の生産性で見ると日本は2000年頃から問題なくやっている.新しく出た Fernandez-Villaverde, Ventura, & Yao の論文は,こう主張している:
多くの先進諸国では,この数十年で,高齢化にともなって,一人あたり GDP成長と労働年齢の成人一人あたり GDP 成長のちがいは大きくなってきている.日本のように一人あたり GDP 成長が冴えない国々も,労働年齢にある成人一人あたりの GDP 成長で見ると驚くほどうまくやっている.それどころか,1998年から2019年にかけて,日本はアメリカよりもわずかに急速な伸びを見せている: この期間の成長を累積すると,アメリカ 29.5% に対して日本 31.9% となっている(…)
労働年齢にある成人一人あたりで見た産出の伸びに注目することで人口高齢化を補正すると,日本は過去25年間にわたって驚くほど堅調な経済であるように見える.その実績は他の G7 諸国とスペインを上回っている.
彼らが示したグラフが下のやつだ:
これを見ると,日本の実績がおそまつだったのは90年代前半で,その後,経済成長は再び堅調になっている――標準的な「失われたのは十年のみ」説だ.
おっと,慌てないでね.労働年齢の成人がみんな実際に働いているわけじゃない.Lyman Stone の指摘では,労働年齢人口あたりの GDP ではなく労働者一人あたりの GDP に着目すると,やっぱり日本はすごく低迷して見える:
1時間あたりの産出に着目しても,そこに見えるのは同じストーリーだ:
つまり,労働年齢人口あたりの GDP で見たときに日本が他の国々に勝っている理由はただひとつで,日本ではその人口のより多くの人たちを働かせているからなんだ.
もちろん,その生産性成長の低さは高齢化による部分もある.これについては,実証的にかなり頑健なつながりがデータに見出されている.ただ,そのタイミングは,きわめて怪しいものがありそうだ――1990年のバブル崩壊ではなく1997年のアジア金融危機のあとに生産性の成長がいきなり横ばいになってるのは,とても疑わしい.
もしかすると,90年代の序盤から中盤は日本にとって失われてた十年ではなくって,1997年以降こそが失われた時代だったのかも? これはもっと大いに検討すべきミステリーだ.ぼくとしても,近いうちにこれについてもっと書く予定だ.
[Noah Smith, “How bad has Japan’s economy done since 1997?,” Noahpinion, November 27, 2023]