アンドルー・ポター「X世代はなぜこうまで反動保守的なのだろう?」(2024年7月17日)

我々X世代が、MTV世代から古き良き共和党(GOP)世代になった真相は、身売りしたのではなく、ノスタルジアの容赦のない力だ。

〔訳注:「X世代」は、「ジェネレーションX」とも呼ばれ、1965年から1970年代生まれの世代を指す言葉(現在2024年で40代後半から50代後半に当たる)。ベビーブーマー(団塊の世代)の次の世代であり、先進国の戦後復興的な基礎価値観から逸脱したような思想を示した世代と一般的に見なされている。イーロン・マスクやフロリダ州知事ロン・デサンティスが世代を代表する人物として語られることもある。日本での「新人類」と呼ばれた世代と並べて語られることもある。〕

ドナルド・トランプが次のアメリカ大統領になる可能性は極めて高い。同様に、カナダ保守党の党首であるピエール・ポワリエーヴルが次の首相になる可能性も高い。これらが実現すれば、X世代はついに念願の反動保守政府を手にしたことになるのだろうか?

北米で政治の右傾化が続いている。この傾向の推進には、X世代が大きな役割を担った、との指摘は、もう当たり前だ。2022年、『ポリティコ』誌は「X世代がいかにして最もトランプ世代になったのか」について説明しようとした。同じ年『サロン』誌に掲載されたエッセイでも、「いうまでもなくX世代はずっと身売りして共和党に投票してきた」と嘆いている。去年、ラヒーム・モハメドは『ザ・ライン』誌に寄稿して、「いかにしてMTV世代は古き良き共和党(GOP) [1]訳注:GOPはGrand Old Partyの頭字語で、アメリカ共和党の好意的ニックネーム 世代になったのか?」と疑問を呈した。こうした論評は的を外していない。文化批評の一端では、X世代が、一つ上のブーマー世代や、年下のミレニアム世代やZ世代と比較して、なぜここまで右翼的なのかを説明しようとやっきになっている。

これは、いくつか問題を想起する。まず、これは本当なんだろうか? もしそうなら、なぜなのか?

事実として、X世代は全体的に他の世代より保守的で、特にアメリカではその傾向が強いようだ。この3、4年間にかけて行われた世論調査では、X世代は他のどの世代よりも「国が間違った方向に進んでいる」と思っている傾向が強く、ジョー・バイデンを支持しない傾向が強く、ドナルド・トランプを支持して共和党に投票する傾向が強いことで一貫している。どの世代でも、年齢を重ねるごとに保守的になる傾向があるが、X世代ではこの傾向は加速している。

世論調査は、カナダでも同じような傾向があることを裏付けている。去年8月に行われたアバカス社の調査では、X世代が最も保守主義を支持しており、調査対象の41%がカナダ保守党に投票するつもりであることが判明している。つい最近の今年の6月には、世論調査会社フランク・グレイブス社が、国家への愛着社会的紐帯投票意向など、さまざまな問題についてのカナダ人の心情を調査した一連のグラフを発表した。この調査は、世代間の著しい不和を明らかにした。X世代は、小さな政府を最も高いレベルで支持し、カナダ保守党を最も高いレベルで支持している。

すると、なぜこんなことになっているのか? 保守派と最初の文化戦争を闘い(そして勝利し)、反グローバリゼーション運動を起こし、カート・コバーンやナオミ・クラインのような左翼アイコンをヒーローにした世代が、なぜ最も右翼的な集団になったのだろう? 両親にあたるベビーブーマー世代のように、ヒッピーからヤッピーに身売りしてしまったのだろうか? それとも、金銭的な私利私欲を超えた何かが作用しているのだろうか?

「粗野な私利私欲」という観点だと、少なくとも何かあるのだろう。我々X世代は、親よりもアコギなことをした最初の世代だと長年言われ続けてきたが、実際にX世代は荒稼ぎしている。パンデミックの前後から、カナダのX世代は、こっそりとブーマー世代を追い抜いて、平均世帯純資産が最も高い世代となった。また、カナダが直面している重要課題として、X世代の上下世代は気候変動、医療、環境などを挙げているが、対照的にX世代だけが「生活費」を最も重要な政治課題として上げていることもこれに説得力を与えている。

ただ、もう一つのもっと一般的な説もある。それは、X世代は身売りしたというが、そもそも身売りするものがなかった、というものだ。この説は以下のように説明されている。X世代の特徴は、常に政治にシラケていたことだ。何でもありの反体制的なポーズは単なる逆張りだったのだ、と。つまり、その時にたまたま政治的・文化的な力を持っている人物への本能的な反発に過ぎなかったのだ、と。ラヒーム・モハメドは「X世代は常にカウンターカルチャーを行っている。ただし、昔と今の唯一の違いが、昔の『類型的男性』はスーツを着てデカい携帯電話を持っているヤッピーだったが、今では自転車通勤する都会のソフトウェア開発者の可能性が高い」と『ザ・ライン』誌で述べている。この見方によるなら、X世代が共和党に傾倒するのは完全に理にかなっている。例えば、〔X世代のフロリダ州知事ロン・デサンティスによる〕「反ウォーク」政策の、「実態は、ハリウッド、アカデミア、活動家的企業からなる進歩的な『体制(エスタブリッシュメント)』に反抗したX世代によるテンプレ的オールコートプレスだ」。

繰り返しになるが、これは極めて当たり前の見解であり、率直に言うなら、「オルタナ右翼は、新しいカウンター・カルチャーである」という主張には大いに賛同できる。しかし、この見解だけでは、カウンター・カルチャーの元祖であるブーマー世代が、X世代ほど大量に右傾化していない理由を説明してくれない。

こうした議論で念頭に留めておかねばならないことの一つが、政治的嗜好は我々が考えているよりもずっと柔軟性が低く、時間の経過によってもなかなか変化しないことだ。政治的嗜好にについての最近の論文『偉大なる社会、レーガンの革命、世代別の大統領選での投票』では、人の自己見解を形成する上で圧倒的に重要なのは、社会化 [2]訳注:社会における価値観や規範を内在化し、自身の社会的ポジションを確立する作業 がピークに達した年齢で抱く、つまり基本的には14~24歳の政治的風景に左右されるとしている。ある意味で、政治的嗜好は、音楽やファッション、映画、テレビ、食べ物への嗜好とあまり変わらない。我々は圧倒的に10代後半から20代前半に自己本性がピークになると考えている。(このグラフを見てみてほしい。波うねっている!)

上でリンクした『偉大なる社会』論文の著者らは、戦後のアメリカ人を、ニューディール民主党アイゼンハワー共和党1960年代リベラルレーガン的保守ミレニアム世代という5つの世代に分けてモデル化している。著者らの重要な発見は、党派的選好は、当該世代の14~24歳に生じた出来事によって形成され(論文ではマクロ水準の分散で投票傾向の90%以上がこれによって説明できると主張されている)、世代の〔代表的〕支持政党は基本的に40歳までに完全に固定されるというものだ。

この見解によるなら、X世代(論文では「レーガン的保守」と呼ばれている)の社会化において決定的な期間となったのは、スタグフレーション、エネルギー危機、イラン人質事件を象徴とするカーター政権を始まりとして、その後の長期にわたる「アメリカの朝」のレーガン大統領による長期政権、ジョージ・H・W・ブッシュによる外交政策の成功時期だ。論文で主張されているように、クリントン政権期での「大事なのは経済なんだよ、バカモノ」との焦点化は、ほとんどのX世代の社会化のピークから過ぎていたことを考えると、クリントン政権はX世代の保守化をいくぶん遅らせただけかもしれない。

よくあることだが、カナダの経緯もアメリカと似たようなものとなっているが、もっと漂白されたような経緯をたどっている。カナダの1968年世代〔の社会化の時期〕で、特徴的な政治の動向は、〔カナダで戦後長く政権を担った中道左派政党〕自由党のピエール・トルドー政権最終期(1980~1984年)と、ブライアン・マルルーニーによって率いられた2つの保守政権が続いたことだ。この時期には、カナダ国内では超党派の憲法論争が執拗に繰り広げられた。この時期に社会が保守化したとするなら、それはまず冷戦が終結したことでカナダの国際的な役割が脇役になったこと [3]訳注:冷戦期、カナダはソ連と友好関係築く等、他の西側諸国と違うアプローチを示して国際的に一目置かれた や、その後の1990年代を通じて異常な緊縮財政が固定化されたことだ。緊縮財政は過去数十年にもわたる(主に自由党の)赤字支出による事実上の国家財政破綻への対応だったかもしれない。カナダのX世代が、経済問題について比較的単純な見解〔均衡財政、小さな政府、構造改革等〕を持っているのは、後者の緊縮財政の期間が長かったことで部分的に説明できるかもしれない。

結論:X世代はなぜ保守的なのか? それは保守的な時代に育ったからだ。

ここから教訓を引き出せるとすれば、ノスタルジーは圧倒的な力を持っていることだ。ノスタルジーこそが、我々の文化のほとんどを形成しており、政治も同じようにノスタルジーによって形成されているとするのは当然だ。これに対して、何ができるのか? そして何をなすべきか? についてはまた別の機会としたい。

[Andrew Potter, “Why is Gen X so reactionary?” NEVERMIND, Jul 17, 2024]

References

References
1 訳注:GOPはGrand Old Partyの頭字語で、アメリカ共和党の好意的ニックネーム
2 訳注:社会における価値観や規範を内在化し、自身の社会的ポジションを確立する作業
3 訳注:冷戦期、カナダはソ連と友好関係築く等、他の西側諸国と違うアプローチを示して国際的に一目置かれた
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