ノア・スミス「21世紀は中国の世紀になる?」(2025年4月17日)

おそらくはそうなる.ただ,みんなが予想してるあり方とはちがうかも.

アメリカが絢爛豪華にアホをやらかして経済的に自滅しつつゆっくりと権威主義体制に堕していく様を目撃して,こんな風に自問する人がちらほら現れている――「結局,21世紀は中国の世紀になるんじゃないだろうか?」 トーマス・フリードマンは「そうなる」と言っている

[中国で事業をやっているアメリカ人が]こう言った.「昔は,みんなアメリカに来て未来を目の当たりにしていた.いまは,ここに来て未来を見ている.」(…)

アメリカでは「トランスジェンダーのアスリートがどのチームで競技に参加できるか」という問題にトランプ大統領がクビをつっこんでいる間に,中国では AI で工場の有様を一変させ,アメリカのあらゆる工場のずっと先を突っ走ろうとしている.トランプの「解放の日」戦略では,いっそう関税にのめり込む傍らで,アメリカのイノベーションを促進する国立科学機関や労働力をガタガタに瓦解させていっている.中国の解放戦略では,さらに多くの研究大学を開設し,AI によるイノベーションに力を注ぐというのに(…).

中国の製造業を今日これほどまでに強力にしているのは,たんにいろんなモノを安くしている点だけではない.より安く,より迅速に,よりよく,より賢く,ますます AI の組み込みを進めていっているのが,中国製造業のすごさだ.(…)中国は STEM 教育に力を入れることから着手した――つまり,科学・テクノロジー・工学・数学の教育を強化した.毎年,中国では STEM 分野の大卒者が 350万人ほど社会に送り出されている(…).最優秀層は世界レベルの人材で,そういう人々が大量にいる(…)

中国各地の550以上の都市が高速鉄道で結ばれている.これに比べると,アメリカのアムトラック・アセラなんてポニー・エクスプレス(馬による郵便配達)のように見えてしまう.

マット・イグレシアスも,最近こんなツイートをしていた(その後,削除している):「ぼくの人生ではじめて,『アメリカはもうおしまいかもしれない,これからは中国の世紀になりそうだ』って本気で思ってる.」

タイラー・コーエンは疑問を呈して,こう論じてる――中国の成功は,アメリカが提供してきた大量の公共財にタダ乗りした結果だ:

テクノロジー分野では,中国のいろんな進歩は目を見張るものがある.BYD は最良の電気自動車を安価に提供している.(…)DeepSeek や Manus といったかたちで出てきた中国製 AI をもたらしている創意工夫に多くの西洋人が驚愕している.(…)

ここには中国にとって不都合な真実がある.その規模は,アメリカの力と影響力を当てにしているという真実だ.たとえば,中国という輸出マシーンは,比較的に自由な世界貿易秩序なしに成立しない.(…)もしも悲しくも世界が保護主義的な貿易ブロックにわかれてしまったら(…)

中国の成長・安定モデルでは,相対的に確固としたエネルギー供給も必要になる(…).もしも西洋の同名システムが崩壊すれば,誰が中東を比較的に安定させ続けるだろう(…).中国がその役目を買って出るとは思いにくい(…).また,核拡散のリスクも地平線上に現れている(…).地球上に核保有国が増えれば増えるほど,中国が抱く野心はいっそうの制約を受ける(…).

トランプ就任からほんの2~3ヶ月で,外交政策・経済政策では嘆かわしいことがたくさんなされた.他方で,そのバトンを中国が引き継げるかと言えば,とうていできそうもない.中国は二番手を走っている.その点にかけては立派なものだけれど,立派にやれている理由は,ほかでもなくぼくらアメリカ人が――さんざん過ちを犯しながらも――いまだに先頭を走っているからだ

意外にも,この点についてはタイラーよりもフリードマンの方が正しい部分が多いと思う.この数年のあいだに,ぼくもこの話題についてはちょっとだけ書いてきた.いつか21世紀を振り返ったとき,きっとぼくらはこれを「中国の世紀」と呼ぶだろう――少なくとも,21世紀前半はそう呼ばれるはずだ.

ただ,ぼくがこう言う理由は,「XX世紀はどこそこのものだ」という意味が20世紀の場合と21世紀の場合では変わるだろうからだ――しかも,あまり愉快ではないかたちで,意味合いが変わるときが多そうだ.

「XX世紀はどこそこの国のものだ」ってどういうこと?

よく,20世紀は「アメリカの世紀」と呼ばれている.ただ,その理由はひとつじゃない.これという理由があってそう呼ばれているのではなくて,「アメリカこそが20世紀で最重要の国だった」というゲシュタルト的な印象みたいなものだ.この呼び方がしっくりくる切り口はたくさんある:

  • アメリカは世界で最大の経済だったし,圧倒的に製造業の強い国だった.
  • アメリカは軍事的にも圧倒的に優位で,1世紀のあいだほぼずっと世界最強の軍隊を保有していた.
  • アメリカは世界でも屈指の豊かな経済で,現代らしい生活様式がどんなものかという標準をつくっていた.
  • アメリカはテクノロジーの先導者だった.科学的な発見・革新的な発明・世界を変えた商用製品に関して,アメリカがこれまでいちばん大きな割合を占めている.
  • アメリカは文化面で支配的だった.映画・音楽・テレビ番組・ゲーム・ファッション・アイディアの産出によって,その地位がつくられていた.
  • アメリカは地政学の面で中核の存在だった.アメリカはいろんな国際的機関の創設と維持で重要な役割を果たし,世界最大で最強の同盟国ネットワークを創出し,航海の自由などの世界的な公共財を提供していた.
  • アメリカは歴史的にも中核的存在だった.20世紀の重大な世界規模の出来事の多くを形成するのに最重要の役割を果たした――2度の世界大戦・脱植民地化・冷戦・グローバル化.

というか,ぼくに言わせれば,「○○世紀は××の世紀」というように世紀を特定の国に割り振る現代的な考えそのものが,20世紀にアメリカがほぼあらゆる領域で異例なまでに重要な存在になったことで出来上がっている.

これにいちばん近い比較対象を出すとしたら,19世紀のイギリスしかない.イギリスは,産業革命を生み出し,世界にまたがる一大帝国を築き上げた.ただ,そのイギリスも,20世紀アメリカに匹敵するほどの軍事的・文化的な圧倒的優勢にいたりはしなかった.もっと昔の比較対象を持ち出すなら,13世紀~14世紀のモンゴル帝国くらいしか比肩するものがない.歴史上,地球はたいていあまりに断片にわかれていて,技術進歩はあまりに遅く,そのせいでどんな国や帝国も,他のあらゆる勢力を圧倒できなかった.ローマ帝国もアッバース朝も唐王朝も,世界帝国というよりは地域内の超国家という方がふさわしかった.

ともあれ,要点はこれだ――「アメリカが20世紀を支配したのと同じようにどこかの国が21世紀を支配する」と先験的に信じる理由はない.歴史を振り返ると,多極的なのが当たり前で,いろんな時代,いろんな尺度でいろんな国々や帝国がほどほどに他から一歩抜けているのがよくある状況だった.

さて,こんな主張ができそうだ.「グローバル化と継続的な技術進歩は今後も続くだろうから,21世紀も22世紀もその先も,どこか一国が支配的になりやすい状況はずっと続くだろう.」 これはおそらくある程度まで正しいと思う.ただ,後で説明するように,グローバル化も技術進歩もその性質が変わりつつあって,21世紀は多極化へと振れるんじゃないかと思う.

それに,そうした変化のなかには,アメリカから中国へ力が移行したことから生じるものもある.単純に言えば,20世紀アメリカは自分が発明したゲームで勝利したのに対して,中国はみずからの力を使ってそれと別種のゲームを発明する(そして勝利する)だろう.

中国のすごさは,アメリカのすごさと違ったものになるはず

これを言うとびっくりする人もいるかもしれないけど,実は,中国とアメリカは文化面でとても似ているとぼくは思っている.「東洋」と「西洋」というまるでちがった両極端をそれぞれが代表しているわけじゃないと思う [n.1].とはいえ,ぼくはそんなに文化決定論者じゃないし,テクノロジーといろんな制度の方がぞれより大きくものを言うと思っている.そちらでは,両者の類似点よりも相違点の方が大きい.

すでに中国がアメリカを凌駕している分野は,国家能力だ (state capacity).2023年に書いた記事から抜粋しよう:

著書『中国経済:誰もが知っておくべきこと』で,アーサー・クローバーは中国経済の一大統一理論を提示している(すぐれた本なのですごくおすすめ)――その理論によれば,中国経済はたくさんの各種リソースを迅速かつ効果的に動かすのに長けている一方で,そういうリソースを最適に効率的なかたちで使う方は苦手としている.なので,たとえば,ありあまるほどの集合住宅建設や,失敗した一帯一路プロジェクトや,ムダの多い企業助成といった事例では,効率性の欠如がまさしく痛手になっている場合がある.ただ,世界最大の高速鉄道網を構築したり,世界を圧倒する自動車産業を一からつくりあげたり,大規模なグリーンエネルギー設備を構築したりといった話になると,中国のリソース活用アプローチは,他のどんな国もこれまで達成したためしがない規模で物事を成し遂げられる(…)

覚えてるかな,2~3年ほど前に,空想のアメリカ高速鉄道網のこういう地図がネットでたくさん共有されていたよね.(…)もちろん,この地図や類似の画像は,純粋なファンタジーだ.あれだけ喧伝されたカリフォルニアの高速鉄道プロジェクトは,15年経っても人里離れたほんの一区画をあとちょっとで完成させるところまできただけで,にっちもさっちもいかなくなっている.これが,アメリカの高速鉄道建設能力の全力なんだよ.(…)ところが中国ときたら,まさしくこういう地図にあるとおりの現物をつくってしまっている.(…)過去15年間で,中国はゼロからはじめてどんどん高速鉄道網を建設していった.いまや,世界の他の地域にある高速鉄道網ぜんぶを合わせた長さの2倍近くにまで,その全長は達している.誇張じゃないよ.ウィキペディアで,数字を確かめてみるといい.去年の時点で,中国で稼働中の高速鉄道は 42,000km もの長さになっていて,しかも, 28,000km を延長する計画を立てている.参考までに,日本の有名な新幹線は 2,727km だ.

かつてアメリカが有していた国家能力はいまよりずっと大きかった.20世紀中頃の話だ――第二次世界大戦では他のあらゆる国々を上回る生産をやってのけたり,州間高速道路網を建設したりできていた.ところが,現代中国の国家能力は,そのアメリカのピーク時すら大幅に上回っている.

いったい,2022年までずっとコロナウイルスの都市封鎖をあれほど厳格に細かく管理してみせた中国と同じことを,他のどんな国ができるだろう? もちろん,一定の段階を超えると,そういう封鎖はおそらく逆効果になるだろうし,間違いなくディストピアめいている.ただ,中国の党-国家がもつすさまじい力を実地に見せつけた出来事だったのはまちがいない.

それに,中国はアメリカよりも大きい.このまま中国経済が成熟を続けていったら,そのうち,いまにもまして経済的に優勢になるだろう.国連の予測では,2030年までに中国は全世界の製造業の 45% を占めるようになるという――これは,アメリカですら第二次世界大戦語の短期間しか達成したことのない数字だ.ただ,同時に次の点も思い出そう.サービス業が増えるなかで,製造業が中国 GDP に占める割合は下がりつつある.なので,中国が前例にないほどサービス部門で弱いなんてことでもないかぎり,おそらく,中国の全体的な経済面の優勢はアメリカとだいたい同じかそれ以上になると予測できる.

また,アメリカの輸出市場を失うと中国も大きな痛手を負うとも,ぼくは思わない.タイラーはこう問いかけている:「工場からの産出がどんどん増えているけれど,それを中国はどこに売るんだろうね?」 その答えは,「中国」だ.世間で広く信じられているのと逆に,フランス・ドイツ・韓国なんかと比べると,中国は輸出志向の強い経済じゃない:

Source: World Bank

2000年代に短期間だけ中国は輸出志向の成長をしていたけれど,それはほぼ終わった.いま,中国は自分たちが生産したモノを中国の人たちに売ってる.さんざん話題になっている「第二の中国ショック」も,その大半はありあまった生産物が外に流れてるって現象だ.たとえば,中国はいまや世界最大の自動車輸出国だけれど,その自動車の圧倒的多数は国内で消費されている.

Source: Brad Setser

この点で,中国は20世紀アメリカに似てきている――あれこれと目立つ輸出品をもつ大きな経済だけれど,根本的に国内志向が強い.アメリカからの需要が不足したとしても,それで中国の経済発展が麻痺するかといえば,すごくありそうにない.それどころか,大幅に減速することすら考えにくい.まして,中国経済がサービス業に移行していくとなれば,なおさらだ.

(ちなみに,おそらく,いまの中国の不動産バブル崩壊はおそらくその経済成長を脱線させない.〔2008年からの〕《大不況》でアメリカ経済が永久に脱線しなかったのと同じことだ.)

経済的な優位には,軍事的な優位がついてくる.おそらく,世界各地の小国がより大きな隣国による征服と支配に抵抗するのは前よりやりやすくなっている.核兵器拡散と,テクノロジーの戦術的防衛への転換のおかげだ(ようするに,ドローンとミサイルが車両を吹き飛ばし,銃がドローンを撃ち落とす時代になった).ただ,その規模と製造業の強さのおかげで,中国は抵抗するどんな国でも圧倒できてしまう.この脅威は,大半の国々にとって十分に威圧になる.

ただ,米中の類似点は,これでおしまいだ.中国のとてつもない規模と,限られた資源,そして政府による経済への関与の非効率的なまでの高水準ぶりによって,おそらく中国は世界を圧倒する生活水準の高さを達成できそうにない.その点,かつて世界最高の生活水準をアメリカが達成した(し,少なくともいまのところ享受している)のとはちがう.中国は世界最大の経済になるだろうけれど,それもアメリカの4倍の規模をもっているからにほかならない.中国は,世界でいちばん豊かな国にはならないだろう.だから,世界中の人たちが中国の巨大な駅舎や天を衝く高層ビルやどこまでも広がるインフラを称賛するとしても,「中国人のように暮らしたい」と熱望するとはかぎらない.

技術面での先進性に関して,中国はたしかに輝いている――ただ,かつてのアメリカとはそのあり方がちがう.3月の記事で,ぼくはこう論じた.「中国全体はきわめて革新的な国だけれど,それは弱い知財保護その他の制度的な要因によるもので,その技術革新は無数の漸進的改善を積み重ねでなされる傾向にあり,劇的な大発明はめったにない」

こんな風に言うと,アメリカ人の耳には,まるで中国のシステムをこき下ろしているように聞こえるけれど,おそらく中国の指導者たちにとってはそれでなんの問題もないだろう.中国がとにかく新しい発明を取り入れたり模倣したりして,他の誰よりもその規模を効率よく拡大してみせれば,中国がトップに立てる.そして,トップに立つのが中国の指導部にとっては意味があって,人類の知識の進歩だの人類総体の繁栄だのよりもはるかに重要なんだろう,という印象をぼくは抱いている.

「うちの知財保護が弱いから世界全体で画期的な発見や発明が抑制されるからって,それがなんだってんだ? 新しい技術経済パラダイムが台頭して中国共産党による支配がゆるがされるリスクが減るだけじゃないか.」

すると,こういう人もいるかもしれない――「AI でその構図は変わるよ.世界中の人たちがオープンソース AI アルゴリズムを自分のスマホで活用して画期的な発明をつくりだせるようになったら,そのコストは下がって知財保護が大して意味なくなるかもしれない.そうなったら,世界はテクノロジーの黄金時代を迎える.」ただ,そのシナリオでも,中国がそういう革新をなにもかも取り入れ,規模拡大して商業利用する見込みが大きい.すると,相変わらず中国がテクノロジーの先頭走者のままで,ただアメリカとは先頭走者としてのあり方がちがうだけになる.

文化の領域では,中国はかつてのアメリカよりも孤立して影響力の少ない存在になるとぼくは予想している.ひとつには,言語が理由だ――英語はものすごく国際化していて,中国語はその域に達しそうにない(ただ,AI によってこの言語障壁は大幅に低くなりそうだけど).ただ,他にも,社会の統制による部分もある.中国は,徹底した監視,精緻なメディア・言論統制,すみずみにおよぶ検閲を行っている抑圧的な国だ.そういう社会では,政府が気に留めるほどでもないささやかな片隅のサブカルチャーをのぞけば,無難で用心深い表現しか育たない.

中国の指導部は,おそらく外国のいろんな思想を許容するのに神経をとがらせ続けるだろう.今後も《金盾工程》ファイアウォールを使って,外部で生まれたいろんなミームや思想から中国の人たちを「保護」しつづけるはずだ.なので,芸術・文化のうねりが中国に届くとしてもごく弱々しいかたちにしかならなくて,しかもヨソより遅れて到来するだろう.世界の話題から取り残され,中国の創造力はそちらに向かわず,テクノロジーと商業に振り向けられるだろう.

なので,中国はゲームや大型予算映画でヒット作をときどき飛ばしたりするだろうとは予想するものの,個々人の創造力があっても中国が文化の領域をどんどん開拓していくだろうとは思わない.TikTok みたいな中国発のテック系製品は世界の文化に影響するだろうけれど,そのカギとなるコンテンツは外部でつくられるだろう.

地政学に関して言えば,アメリカに比べて中国が提供する世界規模の公共財は少ないだろうというタイラーの見立てにぼくも賛成だ.中国は他の国々のために海洋の自由を守るのにあまり関心を示していないし,自分の貿易を保護することに関心を狭めている.中国の軍事力は,世界から中国沿岸へのエネルギー供給を確保するだろうけれど,おそらく,世界全体でエネルギーを潤沢にすることには関心がない.研究も同様だ.中国政府は自分たちが確実にあらゆる先進テクノロジーで優位に立つようにつとめるだろうけれど,研究の地平を切り開くことにはそんなに関心をもたないだろう.それに,世界の安全保証でも同様だ.アメリカが「世界の警察」を自認してふるまっていることになにかと冷笑が向けられるけれど,とにかく地域の征服者に立ち向かう意欲は示していた.その点,これまでのところ,中国はその意欲にとぼしい.

ただ,アメリカによる公共財提供が崩壊したときに中国におよぶマイナス影響をタイラーは過大に見積もっていると思う.アメリカが中国の海運・エネルギー供給の保護を止めたとしても,中国の軍は自力でそれをやってのける能力をもつだろう.アメリカ海軍だけがもっている特徴なんてない.かつてのイギリス海軍が唯一無二の存在でなかったのと同じだ.それどころか,中国は自分たちの貿易とエネルギー供給だけを守って他の国々が干上がっても我関せずという予測を踏まえて言えば,中国海軍はアメリカよりも安上がりにその目標を達成できるかもしれない.

つまり,20世紀アメリカに比べて中国ははるかに利己的な大国になるとぼくは予想している.むしろ,テディ・ルーズベルト時代のアメリカに近い――おおむね国内に閉じこもりつつ,経済的な自国の利害や栄光を求める欲から小国の問題にときおり介入する国になるだろう.国際機関や国際フォーラムは,意義を失うか,中国が周辺のより小さな国々に指図をするために道具になりさがるだろう.

まとめよう.ぼくの予想では,21世紀は「中国の世紀」になる中国の低出生率が深刻化する一方でインドがいよいよ成長曲線の頂点に到達する21世紀後半には,それも弱まっていく.とはいえ,少なくとも今後数十年は,中国が世界でもっとも重要な経済・テクノロジーの大国になるだろう――歴史上,比肩するもののない規模・資源動員能力・イノベーションをそなえた大国になるとぼくは予想している.アメリカがこのまま自滅的な乱痴気騒ぎを続けていれば,その未来の到来はいっそう早まるばかりだ.

それでいて,「中国の世紀」はいろんな点でがっかりなものになるとも思っている.とくに,中国の外に暮らす人々にとってはそうだ.あらゆる発明が中国の国策企業に奪われ模倣される世界は,驚異のとぼしい世界だ(AI が助けになるかもしれないけれど).中国の軍艦が中国の貿易を守る一方で他の国々は自力救済に委ねられる世界なんて,いまよりずっと混沌として,安全でなく,平等でない世界だ.

中国がありとあらゆるものを自国のためにつくる一方で外国の製造業を必要としていない世界は,他の途上国が成長する機会の減った世界だ.中国が地域紛争を許容して自国とその裏庭にだけ平和を維持する世界は,いまより危険で暴力的な世界だ.そして,この世界の中心となる国が自国文化を外から隠す世界は,いまより味気なく,創造性に欠けた世界だ.

ようするに,アメリカが自壊した世界で中国が栄え,建設し,発明し,支配する能力に関して,ぼくはタイラーよりも強く確信している.トーマス・フリードマンの見解は正しくて,なにか大きな変化が起こらないかぎり,中国は少なくとも半世紀にわたってこの地球上の中心国として君臨する方向へ向かっている.ただ,その先行きを考えると,ぼくはすごく陰鬱な気分になる.「中国の世紀」は,いろんな点で,「アメリカの世紀」の劣化版になるだろうからだ.もしかして,アメリカの全盛期こそ史上まれにみる特別なもので,その輝きは当分もどってこないのかもしれない.


原註

[n.1] これについては,もっと長文で語るのが本当はふさわしいんだけれど,要点だけ述べよう:アメリカには,そもそも単一の伝統文化が存在したためしがない.他方,中国は毛沢東時代に自国の伝統文化の多くを破壊した.どちらの国も伝統的な文化的つながりに代えて,消費主義とテクノロジーの進歩を追求している.アメリカ人も中国人も,だらしない服装をして,仕事では手を抜き,短パンにクロックスの出で立ちでモールに車を走らせ,高カロリーで油ギトギトの食べ物を食べ,個人の富や成功についてご大層でぼんやりとした非現実的な夢を抱いている.他方で,米中どちらも密接でしばしばいさかいの多い家族との関係を維持する.どちらでも「不道徳な家族優遇」(amoral familism) が広く見られる.どちらも,不動産に熱を上げている.どちらも巨大で多様な国で,社会の分断は根深い.アメリカではその分断は人種的なものが大半を占める一方,中国では大半が都市/農村の分断や階級の分断ではあるけれど,その機能は似通っている.それに加えて,「漢民族」と「白人」は巨大で多様な人口を統合するためにつくられた合成的な民族分類だ.アメリカ人も中国人も,国の大きさと権勢に誇りを持つ傾向がある.ぼくがうわべだけを観察したかぎりでは,他の移民集団よりも中国人の方がアメリカにすばやく同化するし,ヨーロッパ・カナダ・オーストラリアから来た人たちに比べて中国人の方が顕著にアメリカに「なじみにくさ」を覚えにくいようだ.もっとも,この点は人によって感じ方はさまざまだろうね.


[Noah Smith, “Will this be the Chinese Century?” Noahpinion, April 17, 2025]
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