ポールからこんな質問をもらった.「2025年選挙でなにが起きたの?」 私の説明――「民主党と『ニューヨークタイムズ』は2024年に間違った教訓を学んでしまったんだよ」
週末にどうもどうも.
うれしいことに,この木曜にポール・クルーグマンといっしょに,2025年選挙やその結果からわかることについてお喋りする機会をもらえた.まずは最近の大きな話題を取り上げて――バージニア・ニュージャージ-・ペンシルヴァニア・ジョージアその他で民主党が予想以上に健闘した件――それから深掘りして,どの集団がいちばん大きく支持を変えたのか,そして,そこから2026年にどんなことが起こりそうか語り合った.
今回のおしゃべりで出てきた話題からめぼしいのを選りすぐってみると:
第一に,〔最近の〕投票結果から,それまで何ヶ月もずっと世論調査が物語っていたことが確認された:トランプはひどく不人気だし,彼の政策アジェンダも不人気だった.そして,トランプと他の誰かのどちらかの選択を迫られたときには,有権者たちは他の誰かを選ぶ.
第二に,民主党に支持が動いているけれど,その変化は2024年にトランプが勝利する力になった有権者たちに集中して起きている.ラテン系・Z世代・低所得有権者たちがそうした層だ.ヒスパニック系の割合が多い選挙区では, 60ポイントが左派に移っている.「自分にとって最優先の問題は経済だ」と答えている人たちは,民主党支持に決定的に雪崩を打っている.2024年から大きく反転している.
「じゃあ,どうして民主党はこれほど大勝ちしたんだろう?」 一言で言えば:「暮らし向き」(affordability; いろんなモノがほどほどの価格で手に入れやすいかどうか).ふた言で言えば,暮らし向きとトランプだ.平均的な有権者に経済が果実をもたらしていないとき,通例,アメリカ人はそのときホワイトハウスを掌握している政党を投票で追い出す反応を示す.トランプが移民と関税にとっている不人気アジェンダのせいで,彼からの揺り戻しがいっそう大きくなった見込みが大きい.そう考えると,バージニアやニュージャージーで平均を上回る〔共和党の〕敗北が起きたことが説明できる.
また,今回のおしゃべりでは,「どうして暮らし向きの改善が民主党の進むべき道なのか」という話題も語った――いろんな争点での立場を最適化することでも,中道に大きく路線を変えることでもなくて,どうして暮らし向きの改善が重要なのか.私は,実際の政治で見られる《戦略家の誤謬》に着目して,左右イデオロギーのスペクトラムという一次元を超えて政治を考えるようにみんなにすすめている.
また,今回の選挙では,世論調査で民主党がいくぶん過小評価されていた(最近の傾向の鏡映しだ).この点は注目していい.というのも,このところ世論調査では共和党が過小評価される傾向が続いているからだ.調査のどこがまずかったのか,自分の考えを解説する.
最後に,火曜日の選挙結果からは,2026年下院中間選挙で民主党がかなり優勢になると予想される.さらに,民主党が上院を取り戻す無視できない見通しもでてきた(ぼくの見るところ,だいたい 30-35% の確率).もちろん,これからいくらでも変化が起こりうるけれど,いまのところの要点ははっきりしている:来年は,民主党が主導権を握るだろう.経済運営の問題や平均的有権者が求めることと政策が合致しているかという問題という核心的な部分で,トランプは期待に応えていない.今後を見据えると,トランプが物価に関する約束を破ったことで共和党には深刻な逆風が吹くだろう.
今回のインタビューの書き起こしを以下に掲載する.一読/視聴して浮かんだ感想や質問があればコメント欄に残していってほしい.
エリオット
ポール・クルーグマン:やあ,どうも,またポール・クルーグマンです.今回も,G・エリオット・モリスとおしゃべりさせてもらいます.モリスの書いてる “Strength in Numbers” Substack と fiftyplusone.news は,選挙の世論調査に関して必読ソースになってて.で,今週もいくつか結果が出てきてるんで,それについても,もっと広い論争についてもちょっと話してみたい.どうも,エリオット.
G・エリオット・モリス:どうも,ポール.また呼んでくれてありがとうございます.
クルーグマン:これで3回目かな.選挙も世論調査も次々やってくるね.
この火曜はだいぶ驚きの結果になったね.分析に入る前に,ちょっとキミの反応を聞いておきたいかも.今回,何が起きたと思う?
モリス:データ本位で「お持ち帰りメッセージ」を2つほど書きました――2つほどっていうか,7つなんですけど.Substack 記事なんで,参照記事に入れておきます.それから,新しいデータ分析から2点ほど触れていきます.読者のみなさんに伝えておくと,これは木曜に収録されています.なので,一晩眠って今回の発見を咀嚼した感じです.
大きな要点は意外でもなくて.ただ,繰り返して言っておく必要はありますね.これは,有権者によるドナルド・トランプの拒否であり,トランプの不人気ぶりを選挙が示しました.前にも2回ほどインタビュー配信に出て語りましたけど,トランプは史上もっとも不人気な大統領だと世論調査が示しています――まあ,第1期のトランプをのぞけば,ですけど.トランプの政策アジェンダも,アメリカ歴代大統領でもっとも不人気です.少なくとも,1936年に調査がはじまってからは最低人気ですね.その文脈で言うと,民主党が火曜の選挙であそこまで票を伸ばしたのも意外じゃありません.バージニア州全体の選挙で民主党が票をかっさらいましたし,ニュージャージーの選挙戦も全勝しました.共和党の強い「赤い州」の――民主党寄りにすごく楽観的に言えば「紫の州」の――ジョージアでも,公益事業の役職を2つとりました.これは意外でした.ペンシルヴァニアでは,民主党は党派的な判事3人を確保して,下級裁判所の選挙でも勝っています.
この文脈で見ると,これはかなり順当ですけれど,他のデータに現れていることがこれで裏付けられました.よきベイジアンとしては,こういうのはつねに私たちにとって重要です.また,関税や移民といった争点でトランプに対抗したい議員に確かなデータをもたらしています.関税も移民も,左右を問わずすごく不人気です.この頃ますます議会で「あーはいはい」と軽視されるようになってきている調査データだけの話じゃないと指摘できる証拠になります.
まあ,これが私の大まかなお持ち帰りメッセージですね.もっと小さなこともいくらかあるので,いま触れておきますね.第一に,今回はたんにトランプが負けたというだけではなくて,彼が2024年に再編成したと目されてる有権者たちを失っています.とくに,ラテン系や Z世代の支持を失っていますね.「経済が自分にとってとても重要だ」と回答する有権者たちも失っています.この層こそ,そもそも2024年にトランプ勝利の原動力になった見込みの大きい人たちです.なので,この金曜に出す私の記事では,こう特徴づけています:「トランプは,みずからの勝利の連合を失いつつある.」 なぜなら,これこそいまの状況の勘所だと思うので.
物価を下げてほしいと思ってトランプをホワイトハウスに送り込んだ有権者たちは,こう言ってるわけです.「あいつは取引の約束を守ってないじゃないか.」 トランプは物価を下げていませんね.左派寄りの傾向があったラテン系や Z世代のあいだで,共和党イデオロギー支持の広がりも,明らかに蒸発してしまっています.ちなみに,この層は前よりも低い割合ではありますがカマラ・ハリスに投票しています.彼らの支持が消えた点は本当にしっかり咀嚼した方がいいですね.
クルーグマン:ひとつの論点を挙げると,トランプ当人が毎週のように「世論調査はでっちあげ」「自分はものすごく人気がある」と言い張ってきたわけだよね.で,「世論調査は完璧な科学ではないけれど,意味はあるよ」と言ってみたところで,先方は耳を貸さない.
でも,論争に決着をつけるのに,本物の選挙にまさるものはない.「トランプは不人気だしトランプの政策も不人気だ」と物語ってる世論調査は正しいって,この選挙は告げてる.しかも,予想を超えた民主党の大勝利でしょ.キミの世論調査平均やキミが支援してきた世論調査の結果で,いくらか安心はしていたんだけど,ニュージャージーに関してはちょっと心配だったんだよ.それがどうなったかって,その世論調査は間違ってた.事前の世論調査で示されていたのを超える民主党勝利になった.どうしてこうなったか,思うところをちょっと聞かせてもらえる?
モリス:ここで面白い文脈があって.ここ3階の大統領選挙では,「世論調査は壊れてる」なんて言われてきたんですよ.私はそう言わなかったんですけど,他の人はたしかに壊れてるって言ってました――というのも,世論調査で共和党が過小評価されていたので.ここ3回,つまり2016年,2020年,2024年には,州レベルでの平均バイアスは約 2.7~3 ポイントで共和党が〔の支持が実態よりも〕低くなっていました.数え方によって変わってきますが.火曜日に目にした誤差は,度合いはそのままで逆方向になって,民主党が過小評価されていました.なので,選挙のレベルや年ごとに,世論調査の誤差はあっちに向いたりこっちに向いたり入れ替わってる感じですね.だからこそ,こういう調査は責任を持って利用してその不確実を認めるべきだといつも私は主張しているわけです.今回は,「世論調査の誤差がいつも同じ方向に向かうわけじゃない」ということを思い出させてくれる好例でした.まず,これが私の言いたい一点目です.
ただ,その誤差自体は,私たちの平均だとバージニア州知事選で約 2 ポイントで,他の平均よりは正確でしたね.ニュージャージー州知事選では,6ポイントか,もしかすると7ポイントの誤差がありました.これは平均をわずかに上回っていますが,オフイヤーの知事選挙にしてはひどい誤差ではありません〔オフイヤー選挙とは,大統領選の年でも中間選挙の年でもない年の選挙のこと〕.オフイヤーの州知事選挙の世論調査で見られる誤差の平均は約 4.5パーセントポイントですから.なので,バージニアでは平均よりもうまくやった一方で,ニュージャージーでは平均よりも悪かった.これらを平均すれば,候補者が世論調査の結果を上回ったのは,そんなに意外でもありません.ただ,そうなった仕組みはとても興味を引きますし,2026年の世論調査にも影響しそうです.どうやら,2024年大統領選の有権者に合致するよう調査を調整した調査会社,つまり「過去または自己申告による投票行動でウェイトを調整」した調査会社は,そうでない調査会社よりも民主党を過小評価することになったようです.
このあたり,ちょっと掘り下げさせてください.いまどきの世論調査では,回答率は1パーセント未満で,場合によっては 0.1 パーセント以下だったりもします.なので,わざわざ回答している人たちはかなり変わった人たちです.とてもマズイんです.調査に回答してくれている人たちは,ホントのホントに特殊です.その分をどう補正するか.回答で十分に代表されていないと思われる回答者の重みを上げるんです.それには,なんらかのベンチマークを使います.国勢調査から人口統計についてとても高品質のベンチマークが得られるので,そこはとてもかんたんです.この問題は,もう半世紀以上も前に解決されています.ただ,有権者の支持政党構成については,いいベンチマークがありません.いったい,オフイヤーの選挙で実際に投票に足を運ぶ人たちの何人が共和党支持で何人が民主党支持なのか,いざ選挙が実施されるまではよくわからないんです.なので,調査会社はその点について推測をするしかありません.調査会社によっては,「自分たちの世論調査ではオフイヤー選挙がカマラ・ハリス対ドナルド・トランプの有権者分布を代表しているはず」と言っているところもあります.そうした人たちは民主党を過小評価することになりました.というのも,当然ながら,今回の有権者はずっと民主党支持が強くなっていたので.投票に足を運ばなかった共和党支持者が大勢いて,ニュージャージーではトランプからミッキー・シャリルに投票先を変えた人たちはたくさんいました.
そこで,私にとって優先される結論はこれです――「世論調査会社は,過去の大統領選をベンチマークにしていて,しかも大統領選の調査をしているのでないなら,過去の投票を基準にしてサンプルが代表的になるよう調整するべきではない.」 それをやると,おそらく民主党を過小評価してしまいます.
クルーグマン:たぶん素朴な質問だと思うんだけど,その過去の投票というのは,人々が「どこそこに投票した」と答えた申告にもとづいてるんだよね? いったい――とりわけ,大きく支持から不支持に揺り戻しが起きてるときには――トランプに投票した人たちのうち,いったいどれくらいが今の調査に正直に申告しているんだろうね? あるいは,戦略的に記憶を曲げて答えてる人たちがどれくらいいるんだろう? だって,その人たちはいま,トランプに投票したのはすごくダメだったと感じてるわけでしょう.
モリス:ちょうど,私が家事の分担の記憶違いを戦略的にやるようなものですね.実は,世論調査では落選者に投票したことを事実よりも少なく回答する長期的な現象がありえます.そんなに大きな影響ではありません.オンラインで実施した世論調査ですと,選挙直後に「誰に投票しましたか」と人々に訊ねるので,時間が経ったあとにもそのデータを利用して調整できます.ただ,そういう調整をしない調査会社もあります.私が手助けした調査もそうでしたが,「〔前回は〕誰に投票しましたか」と今日訊ねるものもあります.すると,その可能性を除外するデータはありません.いまドナルド・トランプがすごく不人気なのを見て「前回はトランプに投票しました」と言いたがらないというのは,ありうることです.それは除外されません.
クルーグマン:最後の点で,これはもう触れてくれたと思うんだけど.「投票率の問題なのか,それとも,心変わりによる票の移動なのか」という論点がいつも出てくるよね.どちらもあるように見えるけど,ただ,ぼくの素人印象だと,今回は異例なほど心変わりによる影響が大きかったように思う.つまり,去年はトランプに投票したけれど今年は民主党のミキー・シェリルに投票したって人たちが多かったように思う.これって正しい?
モリス:正しいです.あと,ちょっと文脈を補うと,バージニアでは民主党支持への支持の移動が異例なほど多かったんです.民主党候補のアビゲイル・スパンバーガーは,2021年のグレン・ヤンキンを 15~16ポイント上回る好成績をおさめました.たんに投票率が変わるだけでは,こういう表の移動はすごく起こりにくいです.ただ共和党支持者があまり投票にいかなかったというだけでは.
これで,有権者の心変わりの方面でどれくらい予想するべきか目安ができます.まだバージニア州やニュージャージーの大半では,有権者データが手に入ってませんけど,ニュージャージーの一部の郡ならあります.今朝の『ニューヨークタイムズ』でネイト・コーンがこれを検討してました.それによると,ニュージャージーですでにデータがある地域では,2024年に投票した人たちに比べて,今回は投票を申告した人たちの構成は 3ポイントほど民主党支持が増えているそうです.ミキー・シェリルとカマラ・ハリスの得票差を見ると,その差は 8ポイント近いですね.ということは,ここでトランプ支持からシェリル支持に移った「心変わり票」は5ポイントほどになっている可能性があります.もしも民主党が2028年に向けてこういう支持の心変わりを狙っているのであれば,おそらく上院選での勝算はかなりあります.かなりの差ですよ,文脈を考えてみると.
クルーグマン:すごいね.ぼくなりにこれをムリヤリ単純化してみると,ほんの一部の層の話ではあるんだろうけど,ようするに2024年にインフレを嫌って投票したヒスパニック系の人たちが大勢いて,それがいまインフレに関して「トランプは役に立ってない」と気づいているわけだよね.それに,自分と同類の人たちを攻撃している〔移民の覆面捜査や強制送還などをやっている〕のを見て,彼らは支持を変えた.これはほんとに大きなことだ.
モリス:こうした有権者に関しては,さしあたってこう想定しています――彼らが民主党に反対票を投じた理由は,バイデン政権下で民主党の経済方面での実績にあった.インフレの影響については,前にもおしゃべりしましたね.火曜日まで,これを裏付ける材料は世論調査だけでした.世論調査を見ると,ラテン系有権者の間で大きなトランプ離れが起きているのが見てとれました.そのとおりのことが,火曜の選挙で起きました.ニュージャージー州ユニオンシティといえばヒスパニック系が 82% を占める都市です.ミキー・シェリルはそこで 70パーセントポイントの差をつけて勝利してます.2024年大統領選挙のときよりも投票率が高くてもっと多くの人たちが投票してます.以前は民主党がプラス17ポイントでしかありませんでした.ヒスパニック系では,50パーセントポイントもの揺り戻しが起きています.たんにノイズや投票率で説明するには,差が大きすぎますね.それに,今回は実際により多くの人たちが投票してますし.なので,有権者は本当にトランプに不満を覚えているんだっていう,かなり強いシグナルが現れてます.出口調査でもそれはうかがえます.経済面でトランプが約束を守っていないと彼らは思ってるんですよ.
クルーグマン:ちょっと気になるんだけど,世論調査からはわからないことだと思うんで,キミの意見が聞きたくて.例の強制送還とか移民税関捜査局の捜査官が路上で人々を拘束するだとかの騒ぎ,あれは今回の投票にどれくらい影響したんだろう.あとでちょっとした逸話も話すけど.
モリス:実にいい質問ですよ.出口調査では,「あなたにとって一番重要な問題はなんですか」と尋ねます.だいたい 50% の人たちが「経済」と応えてます.これに「税金」を足すと,60% 近くになります.11% は「移民」と回答しています.最重要問題を尋ねる質問は,ここで分類エラーを起こしているかもしれません.いつでも最重要問題はたいてい経済になるんですよ.なので,「移民問題が重要」と思ってる人たちや他のかたちで投票に移民問題が影響した人たちが調査で拾えていないかもしれません.ただ,有権者たちが使っているモデルについてお考えであれば,彼らがとりこんでいる情報をなにもかも考慮するしかありません.ここ半年間,トランプによって路上で市民も含めて人々が連れ去られていく映像が,有権者の得た情報の多くを占めていました――まあ,移民税関捜査局が人々を捕まえてバンに押し込む映像というべきですか.この政策が不評だという世論調査を伝える報道もたくさんありました.なので,これが人々の投票に影響したし,トランプ政権に有権者が抱く全体的な印象に影響したと考えるべきですね.それが,のちのち〔今回の選挙のような〕結果につながったんでしょう.とくに,繰り返しになりますが,「トランプは公言したとおりの経済をもたらしていない」と有権者は考えているんですよ.さっきの「逸話」というのは?
クルーグマン:ラテン系有権者というと,いや,ぼくはぜんぜん代表的じゃないサンプルしか知らないけれど,高学歴で高所得の傾向があって,アメリカでの暮らしぶりがとてもいい人たちで.いつもパスポートを携行してるんだ.なにしろ,肌は色黒で家族とスペイン語で話してるせいでリスクがついてまわると考えてるから.パスポートですら我が身を守るのに足りないかもしれないと思ってたりする.ただ,他の事情がどうあれラテン系であるということが自分が危険にさらされているという目印になるかもしれないという意識が,彼らのなかでどんどん大きくなってきてるんだよ.これは考慮すべき要因じゃないかと思う.
モリス:なるほど,そうですね,その心理を思うと,2018年に「経済を建てなおす」と言っていたからドナルド・トランプに投票したタイプの有権者で,それ以外はまったく政治に注意を払っていなくて,いまいきなり,「家族が連行された」といった話が次々に出てきて,経済の公約もいっこうに実現していないときたら,そのへんをつなげて考えるのはそんなにおかしくはなさそうですね.
クルーグマン:マムダニについて,なにか考えはある? 実は,マムダニはいまいちばん重要度が低い話題だと思ってて.というのも,ニューヨークは――いや,批判でもなんでもなく――ぜんぜんアメリカらしくないでしょ.そのあたり,なにか考えはある?
モリス:6月に行われたマムダニの予備選挙キャンペーンで得た教訓は,「この懐に優しい暮らし向き (affordability) のメッセージは有権者に強く響いた」ということでした.もちろん,アンドリュー・クオモが個人としても候補者としてもいろいろ問題を抱えていたという事情もありましたけど.なので,ここでは選挙結果をあまり敷衍しない方がいいでしょう.
そのうえで今回の教訓を言えば,こうですね:「バージニア州やニュージャージー州と基本的に同じ選挙キャンペーンがニューヨーク市でも展開された.ニューヨーク市長という特殊事情を抽象すると,たとえばバージニアで無料バスをやろうというわけではないけれど,ともあれこれは懐に優しい暮らし向きと費用に関心を絞ったキャンペーンであり,有権者たちが「これこそ最重要」と言っていることだ.2024年とちがって,今回,民主党は20922年~2023年のインフレ危機の足かせなしでこの主張を展開できた〔「インフレを悪化させたのはお前ら民主党やんけ」という逆風がなかった〕.」
なので,マムダニ勝利もまた,懐に優しい暮らし向きを軸に選挙戦を展開する民主党が予想を超える実績を上げるというもう一つの事例だと思います.他の選挙でも,同じ証拠が得られます.ジョージア州の選挙は,懐に優しい暮らし向きをめぐる選挙でした.州全体の地方公営事業区で,電力価格を設定するのは選挙で選ばれた人たちですよね.で,州全体で20パーセントポイント差をつけて勝利した候補者たちがいるわけです.前回選挙と比べると,実に30パーセントポイント近くも民主党支持に振り子が揺れ戻ってます.これも,懐に優しい暮らし向きが民主党有利に働くすごく強力なシグナルだと思いますね.
クルーグマン:おもしろいね.きっと他の人たちも同じことを言ってると思うけど,マムダニが左派でスパンバーガーとシェリルは「中道」ブランドで売ってるのを除くと,彼らはようするに「みなさんの暮らしをもっと懐に優しくしますよ」を軸に選挙戦をやっていたというのが,キミの主張だよね.
モリス:マムダニが選挙戦の最中に中道に「軸」を移したという話もちょっと議論されてますね.いまも当人が文字どおり「民主社会主義者」(”democratic socialist”) と自称しているのにその主張はできそうにないと思いますが.マムダニの治安政策に注意を払っていない有権者たちには――たとえば警察本部長を続投させるのかどうかといった論点を気にかけていない人たちには――その主張はそんなに響かないんじゃないですかね.みんなが知っているのは,マムダニの自称の方です.その彼がおおよそどこに関心を向けているかといえば,物価です.これは進歩派か中道かを問わない問題,みんなが気にかけている問題です.
クルーグマン:もっぱらインターネットで繰り広げられてる論争に――他のメディアでもちょっと論議されたけど――キミも首を突っ込んできたよね.実際に政界にいる人たちじゃなくて評論家たちどうしの論争ではあるけど,ぼくはいまも重要な論争だと思ってる.「民主党は全面的に変わらないとダメだ」とか「民主党は大失敗した」とか「進歩的すぎる」とか「アメリカ人の実態から遊離してる」とか,まあいろんなことが言われてて.この手の話は,水曜の朝になってちょっとばかり滑稽に見えるけど,キミがこれまでやってきたのは,民主党に対するこういう評価の批判というより,政治に関するこういう考え方の批判だよね.ぼくが話したいのはそっちなんだよ.というのも,自分がそっちをよく考えてるので.「戦略家の誤謬」(”strategist’s fallacy”) について聞かせてくれる?
モリス:私がこういうのを戦略家の誤謬と呼んでる件ですね.政界にいる戦略家たちは,当人が有権者としての意志決定に使っているモデルを,ごく普通の有権者に投影する誤謬をやっている場合があるんですよ.今の話だと,あれこれの争点での立場をもとに投票先を決めるという誤謬です.どっかの戦略家が政界を眺めて,いろんな候補者を見渡してみて,こう考えるわけです.「ふーむ,所属している政党と,当人の資金調達能力と,現職かどうかという要因を調整した上でそれぞれの候補が争点でとっている立場を考えると,こっちの候補者の方があっちの候補者よりも成績がよくなるぞ,この候補者はあの候補者よりも成績が劣るだろう.」 あるいは,しかじかの争点での立場を理由に,「有権者はこの候補に投票するだろう」と考えたり.
なるほど戦略家たちならそういう風に判断するのかもしれません.なにしろ,いろんな候補たちがしかじかの争点でとっている立場について彼らは考えるわけですから.ところが,政治学の研究の大半では,さまざまな候補者たちが争点-立場のレベルでなにを支持しているのか有権者はろくに理解していないことがわかっています.それに,有権者たちはあれこれのイデオロギーのラベルについても,ごくうっすらとしか理解していません.「中道」「進歩派」がいったいどういう意味なのかも,あまりわかっていないんです.これに関する政治学の論文でいちばん有名なのが,1964年のフィル・コンバースによるものです.その論文では,イデオロギーのラベルを区別できるのは国民のだいたい10パーセントほどなのが見出されています.この数字は,今日ではさらに高くなっていますが,2017年にミシガン大学の Nathan Kalmoe と Donald Kinder がすばらしい本を出してまして,コンバースの分析をやり直して新しい証拠に目を向けているんです.それでも本質的な結果は同じでした.アメリカ国民の約 80% はリベラルと保守がさまざまな争点でとっている立場を区別できていません.なので,「なぜこの候補は負けたのか」を考えるときには,「なぜ有権者はそういう意志決定をしたのか」について考えるわけですが,「この候補はあの争点でこういう立場をとっているから有権者はこう投票した」と考えるのは誤謬なんです.有権者はそんな立場知らないわけで.
クルーグマン:ちょっと脇道に逸れるけど,政治家たちに目を向けるとね,議会でのロールコール投票を見ると,いろんな争点やイデオロギー上の立場をみる枠組みはうまくいくんだよね.あれこれの政治家たちをイデオロギー空間内のあっちやこっちに位置づけられるし,しかじかの法案をそのイデオロギー空間内に位置づけることもできる.特定の候補者の立場がわかれば,そこから議会でその人がどう投票するかもとてもうまく予測できる.実際,VoteView や DW-NOMINATE (議会でのイデオロギーの距離をはかる指標)があるよね.なんのことを言ってるのかみんなわからないと思うけど,そういうのがあるんだよ.これは,議員としての行動を理解するときにはそれなりに役立つんだ.だけど,たいていの人はそんなんじゃなくて,生活があるし,子供もいれば仕事もあるしで……
モリス:もうひとつ大事な点は,これです:「個別の争点について政治家たちがどんな立場をとっているのかという情報を,世間の人たちはどれほど実際に消費しているのか?」 いわば,「ニュースの摂取習慣」ですね.前にもあなたとの配信でも言ったことですけど,アメリカ人の約 50% は,せいぜい月に1回くらいしか政治ニュースを見ないんです.私たちの調査でそう回答しています.おそらく,これすら過大な推定になってると思います.いろんな調査に回答してくれる人たちはニュースを見る志向のある人たちだと思うので.実態はもっと低いでしょうね.
実際のところ,そもそも「政治家たちがそれぞれ争点でどんな立場をとっているのか」を知るのに必要な情報だとか,さらには,いろんなイデオロギーのラベルやそれらが示す方向性や,あれこれの争点の立場を知るのに必要な情報を,アメリカ国民の圧倒的多数は消費していないんです.なので,こういうことに着目して知見を積み重ねていくほど,ますます難しくなります.こういうことに私はずっと取り組んでいるわけですが,人々がどう投票するかの個別モデルをくみ上げていくほど,〔政治家・選挙の候補者が〕争点に関する立場を変えれば人々の投票先を代えられるという考えはますます正当化しにくくなっていきます.
クルーグマン:あるレベルでは,タダ乗り問題があるわけだ.ニュースを追っかけていくのが,我が身ひとつの生活にとってどれくらい大事だろう? それに,政治分析をするときに必要ないくぶん分析的な志向すら,たいていの人たちはやらないよね.だって,当人の生活で大事なことはそれじゃないから.
モリス:いまのお話はすごく重要だと思いますね.この批判をもうちょっとだけ鋭くできるかもしれません.『ニューヨークタイムズ』の長文論説で,イデオロギーの穏健化が重要だと論じてるものがあったんですけど,それはちがうと私は思うんです.その論説では,2024年に民主党候補たちが成功したのは,ひとえに彼らがいろんな争点でとった立場に理由があると書かれていました.2020年 [sic] にカマラ・ハリスが敗れた理由にインフレを挙げていません.『ニューヨークタイムズ』でこの件について後に書かれた記事でも,インフレはまったく言及されてないんです――社会的保守派のロス・ドウザットが今週書いた記事もそうでした.それに,『ニューヨークタイムズ』論説委員たちと仲のいいいわゆる戦略家界隈の多くでも同様です.「カマラ・ハリスはインフレのせいで負けた.インフレは自分たちにはどうしようもなかった」なんて彼らは言えないんです.そんなこと言っていたらお金が集まりませんものね? 選挙はこう動くという理論に基づいて自分たちのサービスを売らないといけないわけですよ.2024年にいちばんスッキリとした理論を提示するとしたら,「穏健派の方が少しだけ成績がよかった」でしょう.それで,その理論を献金者や政党の活動家たちに売り込むわけです.スッキリとした物語をね.その理論のいろんなグラフをつくったりなんかして,リボンをかけて売り込んでやれば,売り物になる.その方が,当人たちにとっても合理化しやすいですし.
ところが,スッキリしたかんたんな解決法が正しいとはかぎりません.〔ジャーナリストで「ボルティモアの賢人」の愛称で呼ばれた〕H.L.メンケンに,そういう引用句がありましたよね.「人生には解決法が山ほどある:単純でスッキリしていて,間違っている」 あれは,いまの話にも当てはまると思います.
クルーグマン:正直,「ほらほら,ようするにインフレが問題なんだよ,なのにどうしてコンサルタントにお金を払って自分の戦略を練ろうとするの?」という風に思ってなかったな.
モリス:2025年の選挙はどれも同じです.とにかくインフレ,経済環境,そしてそれについてのメッセージですよ.
クルーグマン:『フィナンシャル・タイムズ』でバーン=マードックが言ってたのを引くと,2024年は「現職候補の墓場」だって言うのね.つまり,いたるところで,どっちの政党でも現職候補が負けてる.これは不都合な事実ってやつだ.2024年に,負けるとわかっててなんでコンサルタントにお金を払う理由が現職候補にある?
モリス:もうひとつ考えがあって――戦略界隈に何人か友人がいるんで,彼らにあまり酷いことは言いたくないんですけど――業界で自分の仕事にどういうインセンティブがはたらいてるか考えないとダメですよね.この場合,インセンティブは,「誰かに売り込めるすごく単純な物語を考えつくこと」にはたらいてるわけです.好意的に言えば,当人に仕事をつくってくれて,当人が解きたい問題を解く方法をくれる物語,ですかね.その動機はよしとして,でも,世間の人たちが実際に下している意志決定の理由をできるかぎり正確に説明するモデルを構築する業界にいる人間として言うと,そういうモデルの大半では,穏健化のプレミアムはほんのささやかで,不確実性はすごく高いわけです.そして,選挙結果を左右する要因はといえば,争点に関する〔候補者たちの〕立場ではないんですよ.とにかく実証的にはちがいます.
クルーグマン:さっきの話だと,「ポストコロナに起きたサプライチェーンの混乱でインフレが進み,それでいたるところで現職候補が落選することになった」っていう単純な物語だよね.でも,これは人間がどうこう手を打ちようがない物語でもある.コンサルタントの仕事をつくりだす物語じゃあない.だから,うん,またも「2024年 vs. 2025年」の話におおいにつながるね.必ずしも,「民主党が2025年に前とちがうことをやった」というわけじゃなくって,たんに彼らが現職候補じゃないってこと,それに,人々がいまも生活費の高さに不満を抱いていること,などなど.いろんな要因がからんでるんだと思う.
モリス:こう考えてる人たちがいますよね――「長期的に労働者階級は共和党支持に再編されていて,長らくその過半数を占めている.」 もしも私がこの説を唱えている側だったら,2025年の選挙結果を受けて,かなり苦しい立場に立っていたでしょうね.というのも,今回の選挙で出てきたシグナルは,これは再編じゃなかったということですから.これは,一時的な反民主党の党派的な投票で,それは現職候補への反発から来ているわけです.そして,いまや共和党の方が現職になって,労働者の得になっていない経済を運営している立場にあります.
クルーグマン: これは別問題だと言うしかない.「単純な解決法がある」ってのと,「永続的な再編が起きた」ってアイディアを売り込むのは別の話で.火曜の選挙結果で,「永続的再編」説はすっかり厳しくなったね.
キミのいう戦略家の誤謬の話を読んでて思ったのは,昔ながらの評論家の誤謬のことだったんだけど,これはだいたい戦略家の誤謬の一種だね.つまり,お気に入りの問題があったり,お気に入りの立場があったりして,それをどんどん押し立てたいと〔評論家が〕思って,それはダメじゃないんだけど,「政治家たちが選挙に勝ちたかったら,まさしくこの立場をとる必要があるんだ」と言い出すと,それはおかしいわけ.ちょっと皮肉なこともあって,この概念を2010年につくりだした当のマット・イグレシアスが,このところずっと「穏健化と民主党」をめぐる論争を繰り広げて,まさにこの評論家の誤謬をやってしまってるところがある.イグレシアスは民主党内部の進歩派のいろんな主張が気に入らなくて,「だから選挙に勝つには進歩派を切り捨てないといけなんだってば」と言ってる.
モリス: その観点で戦略的な助言について考えてみましょう.穏健派からの戦略的助言はこういうものでした――「2025年選挙では,スポーツ競技にトランス女性が〔女性として〕参加するのに反対したり,『移民税関捜査局 (ICE) を廃止せよ』だの『警察予算をなくせ』だのに反対したりして選挙戦を展開すべきだ.」 というのも,有権者がそういう立場を重視していると見込んでいたわけです.ところが,実際にはそんな選挙戦を展開する人なんていませんでした.それなのに,民主党は全体的に大幅に期待を上回る成果をあげたわけですよ.世論調査データを見れば明白です,世間の人たちが気にかけていない問題について異端の立場をとる必要なんてありません.なすべきことは,「有権者のために働きます」「みなさんのことを気にかけています」という前向きなシグナルを送ることであって,それを民主党はやったんです.自分たちのイデオロギー上の立場がどうであれ.
クルーグマン: ちょっと気になってたことのひとつなんだけど,なんとも奇妙な論評を目にしたんだよ.なんでも,スパンバーガーが15ポイント差で勝利したのは,4年前に〔2021年バージニア州知事選で共和党候補の〕ヤンキンが 1.5ポイント差で勝利したのより,意義が小さいっていうんだ.なんでっていうと,スパンバーガーは選挙戦の新しい領域を開拓しなかったのに対して,ヤンキンはざっくり言えば「仕事に反対」っていう選挙戦を開拓したからからなんだって.なんだか奇妙な話だけど,それはそれとしてちょっと疑問に思うようになったんだよ.「ああいう『ウォークネス』〔差別・不平等に敏感または過敏になること〕やそれに対する『反ウォークネス』だとかの,ああいういろんなことって大きな選挙でなにかしら影響を及ぼしてるものなのかなって.
モリス: その議論はいくらか頷ける気がしますね.政治を伝統的な左右の尺度で考えると,民主党はもっと右寄りに動いて穏健派を勝ち取る必要があるみたいな話になるわけですが,2016年と2024年に何をトランプがやったかと言えば,それと別のイデオロギーの軸を打ち出したわけです.左右の軸ではなくて,反体制の軸,そして「みんなのことを自分らは気にかけてるぞ」「みんなにいい経済をもたらすぞ」という軸で戦いました.便宜上,ここでは「上下の軸」と呼ぶことにしましょうか.
民主党がなにをやっているかというと,2024年に,ちょっとだけ右寄りかもしれないけれど反体制・親労働階級にものすごく寄っている有権者の層,このイデオロギー空間で「経済面で自分に果実をよこしてくれ」という層に訴求したんです.今後も民主党はこうするでしょう.ここで民主党が得ているレバレッジは,このチャート上で「右に寄る」のではなくて,「上に寄る」なんです.この結論はかなり大胆だとは思います.民主党は,「生活を手頃にします」と訴求できる候補者たちを擁立することで,レバレッジを大いに引き出しました.生活の手頃さこそ,アメリカ政治で世間の人たちが気にかけていると口にしていることであって,それは社会的な対立じゃないんですよ.
もうひとつ.2021年にバージニア州〔の州知事選〕で投票した有権者たちは,全米でもとりわけ政治に熱心な人たちです.まさしく,反ウォークのメッセージで動かされると予想されそうな人たちなんです.この点を重視すると,2021年選挙戦で起きたことを歪めて理解してしまいます.あの選挙はようするにマコーリフ〔前知事の民主党候補〕を否定する信任投票みたいなものでした.マコーリフが「親は学校のことで意志決定をすべきでない」と言って,いわば家庭の食卓で話題になるような問題が争点になりました.ヤンキンが買った理由について議論するなら,「ウォーク」ばかりを語るのではなくて,そちらも語るべきです.
クルーグマン: これはたんにぼくの全体的な印象なんだけど,世間の人たちの立ち位置に話をもどすと,かりに中央値の有権者が存在するとしたら,おそらくその人は「トランスのスポーツ選手」がどうのこうのとか,そういう議論がこじれやすい社会的な問題について1年にせいぜい30分くらいしか考えないだろうと思うんだよね.〔そういう問題について選挙の候補者がどんな発言をするかによって〕しかじかの候補者が自分の味方なのかどうかっていう全体的な感覚を有権者が抱く以外では,おそらく,大した意味はないだろうね.
モリス: バージニアのデータについて,2つ触れておきます.第一に,選挙前の世論調査データを見ると,「民主党候補は『ウォークすぎる』から」というので民主党は弱いと言われている争点で,むしろ民主党候補のアビゲイル・スパンバーガーは優位でした.たとえば,トランスジェンダーの学生が女性スポーツ競技に参加していいのかどうかといった問題で,スパンバーガーは対立候補に比べて 16 ポイントほど優位だったんです.なので,彼女がそういう争点で優位だったのをふまえれば,彼女の勝利はぜんぜん不思議じゃありませんでした.ただ,ここでも,民主党のああいう「反ウォーク」な戦略助言だったら,アビゲイルについてなんと語っていたでしょうね? スパンバーガー当人はこう語っていました.「共和党候補が自分やトランス問題について展開している広告のせいで,自分はきっと負けるだろう」と言っていたんですよ.実際には,その助言はまあ誤っていました.彼女の勝利は,この争点に関して自分がもちあわせていた優位による部分があります.この問題はある程度目立ってこそいましたが,そんなに決定的ではなかったんです.
2点目,アビゲイル・スパンバーガーに対して共和党が展開した広告の激しさについてです.あの広告は,完全に彼女個人をとりあげて,「民主党はこの種の「ウォーク派」と結びついている」「トランス女性が学校で助成スポーツに参加するのを支持している」という内容でした.でも,そんなことを誰も主張していませんでしたし,あの広告は完全に瓦解しました.彼女が 15 ポイント差で敗れたのは,おそらく,民主党の現職大統領の経済方面のメッセージがダメだったからでしょう.
クルーグマン: 共和党の多くが「社会的な反ウォーク」ネタと認識したものにどれほど入れあげているかって点には,目を見張るね.ダメなコンサルタントがついてるせいなのか,とにかく彼らがそういう人間なのかはわからないけど.
わかりきった理由から,ぼくはこのところ SNAP フードスタンプのデータが載ってるページを調べててね〔2025年にトランプ政権による政府機関の一部閉鎖で SNAP が途絶する恐れが生じた.低所得層の食糧支援が途切れる懸念から,そこに関心を向けるのは「わかりきって」いるということ〕.実はあれは農務省が管理しているんだけど,ページの最上部に,政府機関の閉鎖は民主党のせいだって非難するバナーが掲げられていて,「民主党は学生の性転換手術に資金を出したがっている」と書かれてるんだよ.事実とちがう上に政府のデータページに掲載するのにまるっきり不適切だって点をわきにおいても,補足的栄養支援プログラムを調べようとしてる人物がそんなバナーに心を動かされると思ってるのか,ちょっと想像もつかないね.
モリス: それは,人々にデータを提供する政府の役割を完全におとしめる行状ですね.データに関して言えば,とにかく「経済が重要だ」と調査で回答する人々の投票行動におきた,この大変化をたびたび考えてしまうんですよ.2024年にトランプはこの層を 63ポイント差で勝ち取り,今度は民主党が 30ポイント差でこの人たちを勝ち取りました.実に,90ポイントの揺り返しが起きてるわけですよ.
クルーグマン: いやはや.
モリス: ここが肝心なんです.この選挙について,さらなる物語はまったく必要ないんですよ.とにかくこの数字を見ればいい.これがすべてですよ.同じことは,2024年についても言えます.みんな,自分のお気に入りの争点にすっかり首ったけになっちゃっていたり,選挙戦コンサルタントとして売り込むネタになりそうなネタになるデータに夢中で,そこに意味を読み込みすぎてるんですよ.
クルーグマン: そのへんをおしゃべりして締めくくろうか.というのも,経済に関するあの逆転ね.あの急転ぶりは本当に不可解で.2024年にインフレが高まったのは意外だったけれど,トランプが「自分は物価を下げられる」と約束したのを世間の人たちがこんなにも信じたのには,なんというか衝撃を受けたね.そこからの反動の激しさもすごい.10ヶ月ほど経過して,トランプ経済は約束とまるでちがう状況だけど,ハイパーインフレでもないし不況でもない.どうして世間の人たちがとくに経済問題に関してこれほど急激に幻滅したのか,なにか考えはある?
モリス: その捉え方は,ちょっとズレてるかもしれませんね.人々は,もとからとっくに幻滅していたと思います.私の「事前確率」をちょっと持ち込みますと――私は若い世代なんですけど――私の世代の人たちは,その多くが経済的な上昇機会にずいぶん苦労しているんです.社会的な上昇機会もそうですね.たとえば,同世代の大半は,自分が住宅を所有するだろうなんて思ってません.アメリカン・ドリームの理想は,私の周りの高学歴エリートにすら思いもよらないものなんです.なので,この状況そのものが,現職に対する反発を生む土壌になっていると思います.これが,私がこれまで経済について書いてきたことです.
人々はこれを「民主党 vs. 共和党」の図式で見ています.ある程度まで,そういう見方は成り立ちます.しばらく前のギャラップの世論調査によれば,経済面で共和党は大きく優位に立っていました.「どちらの政党を経済運営で信頼するか」で,14ポイントほど共和党が上回っていました.ところが,その差はいまや蒸発してしまって,民主党が 4~5ポイント優位に立っています.
ただ,〔「民主党 vs. 共和党」の図式だと〕「経済はだんだんわるくなっている」と回答している人たちの長期的な反現職感情が見えなくなってしまいます.国民の 53% という割合が,「平均で見て経済は2020年から悪くなっている」と答えています.パンデミック以降に悪くなってきていると答えてるわけです.支持政党によって感じ方が変わるのを考慮して選挙をめぐる動きをちょっと補正する余地はありますけど.2021年には民主党支持者のあいだで,2024年には共和党支持者のあいだで,「経済はよくなってきている」という回答が一時的に増えました.ところが,それぞれ2ヶ月ほど経つとまた長期的な悲観傾向に戻っています.そして,悲観傾向は現職に不利に働きます.いまの民主党にとっては,不利になりません.共和党にとっては不利にはたらきます.とにかく,そのとき政権にいる側にとって不利になるわけです.もしも自分がスティーブン・ミラーとか,まあトランプ陣営の立場にいれば2026年や2028年の動向を占おうして目を向ける数字は,きっとこれです:「経済が悪化してきていると回答している人々の割合はどれくらいだ?」 もしもその数字が 25~30ポイント以上だったら,基本的に敗北は避けられないでしょう.敗北は必至です.
クルーグマン: ははぁ.ぼくも言ったように,いま経済はよろしくない.トランプが吹聴するような好況にはなってないね.ただ,人々の悲観の度合いはかなり目を見張るものがある.トランプにまるっきり満足していない人物としてぼくはそう言うんだけど,「雰囲気不況」(バイブセッション)についてずいぶん論じてきたし,バイデン政権終盤の客観的にはまずまずだとぼくが考えていた経済状況について人々がずいぶん悲観的に受け止めていた理由も理解しようとつとめてきた.
ところが,雰囲気不況はいまもまだまだ続いていて,ある程度まで,消費者感情の数字は金融危機のときと並ぶほど深刻になってる.経済にいろんな問題があるとはいえ,〔客観的には〕そこまでひどいものじゃないのに.
モリス: なるほど.私は2009年〔金融危機当時〕と比較すらしていませんでした.2022年に,インフレ危機だけで消費者感情の数字は金融危機のときを下回りました.記憶が確かなら,いま,トランプのインフレ対応に関する数字はだいたい 30ポイントのマイナス,つまり2022年インフレ危機当時のバイデンの数字よりさらに悪いんです.たしかに,各種の指標は当時ほど悪くありません.ただ,いまの状況はどんなものかと言えば,ご存じのとおり,大統領が毎日のように自分の関税政策について自慢げに語り,世界経済の行方を一人で左右している始末です.その点について,世間の人たちがちょっとばかり雰囲気不況になるのも責められませんよ.客観的な経済データがそこまでひどくなくても.
クルーグマン: そのとおりだね.トランプが関税を発表したあとの,消費者のインフレ予想なんだけど――ぼくは関税に反対で,あれはダメだと思ってる.インフレを促進してしまうと思ってる.ただ,実際の経済のいろんな数字を計算して予想される水準よりも消費者の予想ははるかに悪化してるんだよね.いや,これこそが核心なんだろうね.トランプはそれを強調してる.
じゃあ,最後の話題.来年は中間選挙があるはずなんだけど,トランプはものすごく不人気だって問題がある.トランプの政策はすごく不人気だ.民主党は一般投票の世論調査で優位に立ってる.ただ,その差はごくささやかだ.これを信じるべきかな? たしか,バージニアの選挙結果から外挿すると民主党が 8~9ポイントほど優位になるだろうって話だったよね.他方,世論調査は 3ポイント優位くらいだと語ってる.中間選挙はどうなると思う?
モリス: 「どうしても」ということであれば,早めの予測をしましょうか.民主党の追い風になっている要素がいま2つあります.第一に,アメリカ政治で長らく続いている傾向があって,ホワイトハウスをとっている方の政党はたんに中間選挙で負けるだけでなく,その任期中に世論調査でも支持を落としていきます.実は,私たちの予測でも民主党はいま一般投票で 3ポイント優位となっているんです.長期的な傾向から考えると,民主党がいま政権をとっていないことから,今日から11月までに 5ポイントほど上積みするのではないかと思います.すると,だいたい 8ポイント~9ポイントの優位になりますね.
これは偶然かもしれませんが,昨年のバージニア州知事選でアビゲイル・スパンバーガーに起きた揺り戻しにもとづいて来年の一般投票がどうなるかについて予想される数字と一致しています.バージニアでは 15ポイントの揺り戻しがありました.全米の前回下院選からの揺り戻しは,それより少しばかり小さくなると予想すべきでしょう.全米規模の二極化した政治状況では,バージニアの揺り戻しは信頼できる先行指標になりやすいんです.
賢明な読者のために念のため但し書きを付けておくと,その選挙データは5年分しかないので,鉄板の予測ではありません.ただ,こうした数字が一致していて,同じ方向を指していることから,民主党にとっては楽観する理由がひとつ生まれるはずです.私としては,これは比較的に確かな予測だと思っているので,喜んで披露します.
クルーグマン: おお~.実に面白そうだね.3期目を狙うとしてもトランプはこれからの2年厳しいかもしれない.ともあれ,なんともどうかしてる状況にぼくらは生きてるね.
いや,天啓のような週だった.月曜とはまるっきり世界が一変したかのようだ.
モリス: ええ,ほんとに.ただ,今回えられたシグナルは,私たちが信じていること,あなたも私もともに多大な時間を費やして書いていることを裏付けています.つまり,トランプ大統領は不人気で,人々がとりわけ重視していることで支持を失っています.民主党ブランドも不人気ですが,民主党と共和党それぞれが提示しているものを比較してどうしてもどちらかを選ばないといけないとなったら,人々はたいてい民主党を選んでいます.経済の安定が最優先事項でありながらトランプが自ら中国に 100% の関税を欠けてそれを脅かしているとあっては,有権者は彼に投票しそうにありません.なので,ある意味で,この半年間にわたって世論調査を重視してきた人々は,正しかったのだと選挙結果で証明されたんじゃないでしょうか.
クルーグマン: なるほどね.ぼちぼちおしまいの時間かな.ぼくと同じ政治的指向の人にとっては,気分が上がるタイミングでおしまいだね.おしゃべりの相手をしてくれてどうもありがとう.
モリス: お誘いありがとうございます.いい会話になりました.
[G.Elliot Morris, “Podcast with Paul Krugman: What can the 2025 elections tell us about 2026?”, Strength in Numbers, November 8, 2025]