ノア・スミス「フランスとリベラリズムの限界」(2026年10月22日)

移民問題、福祉国家、ケインズ経済学はどれも限界に達しつつある兆候を示している。

この件について書くのは少し遅くなってしまったけど、フランスではかなりひどい暴動が起きている。

週末に広範囲にわたる暴動が発生し、器物損壊や窃盗による損害額は数億ドルに上ると推定されている。フランスは現在、都市型の反乱、政治の停滞、そして経済危機という危険な複合に直面している……パリ、マルセイユ、ボルドーなどの都市では略奪が横行。二度の世界大戦をくぐり抜けたリモージュの市庁舎は火災で大きく損傷し、時計塔の尖塔が崩落した。


週末の暴力行為により約2,400人が逮捕された。これは、老朽化した学校、教員不足、絶望的な雇用見通しに怒ったフランスの学生たちによる数週間にわたる抗議に続くものだった。

このことについて書くのが少し遅れた理由があるとすれば、それは「フランスの暴動」が〔年中降っている〕「シアトルの雨」にちょっと似てるからだ――そう珍しいことでもないんだ。2023年には、警察の殺害事件をめぐってフランス全土で1週間の暴動があった。2018年から2020年にかけては、経済問題をめぐる「黄色いベスト」の抗議と暴動がほぼ途切れなく1年半以上も続いて、フランスは大揺れに揺れた。20年前、フランスの郊外で何週間も暴動が続いたって記事を読んだ記憶がある。燃える車の写真が山ほど載ってた。フランスにおける暴動は枚挙にいとまがない。

フランス人は暴動を起こすのが好きだ。でも今回は、いくつか理由があって事情がちょっと違う。まず、今回の騒乱の波には深刻な経済問題がつきまとっている。フランスの長期金利は、世界中の金利と同じように急騰中だ。

だけど、同じく金利が上がっている一部の国々とは違って、投資家たちはフランス政府が借金を返済するために必要な手を打つかどうか、本気で疑っている。投資家がフランスの債務不履行(ソブリン・デフォルト)に備えて保険をかけるために払わなきゃいけない〔CDSの〕価格は、金利よりもさらに急速に跳ね上がっている。

出典:MacroMicro
〔訳注:CDS=クレジット・デフォルト・スワップ。債務不履行に備える金融商品の一種で、その価格(保証料率、単位はベーシスポイント)が高いほど、投資家はデフォルトのリスクが高いと見なしていることを示す〕

基本的に、投資家たちはフランスが借金を返済しないだろうと考え始めている――増税や歳出削減をする代わりに、この国はさらに多くの金を借りることで、上がる金利のコストを払うだけだろう、と。そうこうするうちに、投資家たちはフランスが債券をあっさりデフォルトするのではないかと心配し始めている。

ポール・クルーグマンは、2週間ほど前にたくさん読まれた記事で、問題はフランスの老齢年金にあり、それがフランスのGDPのますます膨大な部分を食いつぶしていて、政治的にはいかなる削減に対しても受け付けないように見える、と主張した。

フランス国債の金利上昇は、フランスが国の債務をデフォルトするかもしれないというリスクの認識が高まったことで、主に引き起こされている。(…)フランスは財政的に持続不可能な道を歩んでいる。借金はもうGDP比ですごく高くて、フランス政府は、戦争、深刻な景気後退、パンデミックみたいな赤字を正当化する緊急事態がないにもかかわらず、大規模な財政赤字を出し続けて債務を増やし続けている。さらに、フランスは高齢化が進んでいて、これは、他の条件が同じだと、年金費用が歳入よりもはるかに速く増大することを意味しているんだ(…)。

フランスは、財政的に問題を抱える国々の中でも、ある一つの点で明らかに際立っている。引退(年金の受給開始)のことになると、どうしても現実と向き合えないってことだ。(…)フランスの公式の引退年齢は(…)2023年でもわずか62歳だった。(…)実際の平均引退年齢は(…)西ヨーロッパのどこよりも低かった。(…)マクロンの中道右派政権は、引退年齢を段階的に64歳まで引き上げようと進めていた。それでも、同程度の先進国と比べればまだまだ低い。ところが、フランスの極右と極左の政党が反対したせいで、この引き上げは来年の選挙が終わるまでお預けになっている。

言い換えれば、フランスには緊縮財政が必要なのに、それは実現できてないんだ。だって、フランス国民が際限なく増え続ける歳出を求めてるからだ。フランス政府はもう、他のほとんどの豊かな国よりもGDPに占める政府支出の割合が大きい――スウェーデンやデンマークよりもかなり大きい。

出典:OWID

そして実際、その社会支出のすごく大きな部分は、老齢年金か医療(高齢者向けに大きく偏っている)に回っている。

出典:OWID

もちろん、歳出削減以外にも緊縮財政をやる方法はある――フランスは増税もできる。だけど、これもまた難しい。フランスの税金は、GDPに占める割合でもう他のどの豊かな国よりも高いんだ。あの高税率で有名な北欧諸国をも含めてね。

出典:OWID

税金をもっと引き上げられるんだろうか? それは難しいんじゃないかな。2019年、僕はフランスが過去にやった実験の期待外れな結果について書いた。

富裕税は社会的連帯を生んだかもしれないけど、実際のところは期待外れだった。それが生み出した税収はかなりわずかで、ピーク時でもたった数十億ユーロ、つまりフランスの全税収の約1%にすぎなかったんだ。少なくとも1万人の富裕層がこの税を逃れるために国を出た。ほとんどはフランス語を話す人が多い隣のベルギーに移った。彼らが出て行ったことで、フランスは富裕税の税収だけでなく、所得税やその他の税も失った。フランスの経済学者エリック・ピシェは、これによってフランス政府が、富裕税が生み出した総額のほぼ2倍の歳入を結局失うことになったと推計している(…)。

フランスのもう一つの実験は、いわゆるスーパータックスだ。これは、100万ユーロを超える所得に対する75%の課税だった。2012年に社会党のフランソワ・オランド大統領が導入したこのスーパータックスは、富裕層の国外流出に拍車をかけた。特に目立ったのは俳優のジェラール・ドパルデューと、LVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンの会長ベルナール・アルノーだ。スター・サッカー選手たちはストライキを起こすと脅し、フランスが起業家にとっての不毛の地になるんじゃないかという懸念も生まれた。一方で、スーパータックスで集めたお金は富裕税よりもはるかに少なかった――2014年でわずか1億6000万ユーロだ。この不人気な税は、導入から2年後に廃止された。

この点で、フランスは難しい立場にある。EU加盟国で、しかもベルギー、スイス、ルクセンブルクのような他のフランス語圏の国々がすぐ近くにある。そのせいで、裕福なフランス人は、自分の財産が没収されるかもしれないと思えば、荷物をまとめて他国へ移るのがいとも簡単なんだ。

もちろん、フランスは増えた社会支出の費用をまかなうために、中間層に課税することもできる。たとえば付加価値税の引き上げによってだ。だけど、この負担は、今まさに街頭で抗議し暴動を起こしているのと同じ人たちの多くにのしかかることになるから、これもおそらく政治的に見込みなしだろう。

実際、今の暴動のせいで、緊縮財政に踏み切るのは政治的にますます無理そうに見える。それがフランスの債券市場の緊張をさらに悪化させている。抗議者や暴徒のいろんなグループが、政府に巨額の追加ばらまきを要求している――学校への支出を数十億ユーロ増やせ、年金を上げろ、社会給付を上げろ、挙げ句の果てには燃料みたいな消費財への補助金まで出せ、と。ってことは、政府支出を増やせという草の根の政治的圧力がまだまだすごく強いってことだね。たとえフランス政府がこの圧力に屈しないとしても、指導者たちはおそらく、フランスを財政を持続可能な道に乗せるのに必要な大規模な歳出削減をやるのを嫌がるだろう。

そしてそのことが今度は、抗議者たちが要求している支出をどれか一つでも実行するのを、たぶんもっと難しくしている。抗議者が支出を増やせと要求すると、債券市場はフランス政府の借り入れに高い金利を付けて応じる。すると政府の利払い費が増えて、社会支出を増やすのがもっと難しくなる――抗議者たちが望んだことの正反対だ。

根本的な話、このフランスの暴動は、ヨーロッパの左派リベラル的な福祉国家の限界を示している。それは過去半世紀にわたってこの地域のおなじみの統治のやり方だ、そしてアメリカの進歩派がマネしたいと思っているものでもある。フランスの大衆は――少なくともそのかなりの部分は――持続可能な福祉国家と持続不可能な福祉国家の違いが、どうにも区別できないらしい。フランスにおける社会給付は増える方向にしか回転しない歯車(ラチェット)のようだ――給付が高くなると、もっと高い給付への期待が高まり、挙げ句の果てには、最も気弱で中途半端な緊縮策ですら、街が燃える騒ぎになるんだからね。

この一方通行歯車は、ケインズ的な財政刺激策が本当に使えるかどうかにも疑問を投げかける。それは、僕も含めた左派リベラルが深刻な景気後退と闘うときの十八番だ。深刻な景気悪化の中で総需要を引き上げるのに刺激策が有効だってことに、今では真面目なマクロ経済学者で疑っている人はいない。だけどケインズ政策は、不況期にばらまいた分を、好況期の財政緊縮でちゃんと帳尻を合わせることを要求する。赤字が持続不可能なほど膨らまないようにするためだ。問題は、「好況期の緊縮」は口で言うのは簡単でも、政治的に実行するのはめちゃくちゃ難しいってことだ。

ハノ・ラスティグは、フランスの借金が持続不可能とするクルーグマンの記事を読んで、ユーロ危機の頃をのクルーグマンとの矛盾を指摘している。あの頃クルーグマンは、不況と戦うためにフランスに「支出しろ、支出しろ、支出しろ」と迫っていた。

ここでルスティグは、クルーグマンに対してちょっと不公平だ。実際にクルーグマンが2011年に、ルスティグが引用した最初の投稿で書いていたのはこうだ。

僕たちだって、いつまでも流動性の罠にはまってるわけじゃない。いつか民間需要が十分に高くなって、FRBがインフレを抑えるために金利をゼロより上に上げるちゃんとした理由のある日が来る。そしてそうなったとき、政府の赤字――そして、支出をまかなうだけの歳入を上げるという政府のやる気がどう見られているか――が重要になってくる。(…)流動性の罠から抜け出した将来のどこかでは、政府の財政状況がモノを言うんだ。(…)長期的な赤字の最大の原因は、積み上がった債務じゃない。退職、医療、国防にお金を払う、これからの現ナマなんだ。だから、そういう危機は――何度も言うけど、これは完全に仮定の話だ――すごく厄介なことに雪だるま式に転がりかねない。超インフレ、そしてそう、ハイパーインフレを伴うような事態にね。

2010年のクルーグマンは実際にはアメリカについて話してたんだけど、フランスについて話してたとしても同じだっただろう。ケインジアンは別に「政府支出は多いほど良い」って言ってるわけじゃない――限界があるって分かってるから、景気が良い時期には支出を削るよう政府に促すんだ。

だけど、それでもルスティグの言うことには一理ある。ケインズ流の処方箋――不況期には赤字、好況期には緊縮――は、好況期に誰が政権を握っていようと、誰かに緊縮をやった代償の政治的打撃を引き受けることを要求する。実際、政治資本を使ってまでその打撃を引き受けようとする政治家も、たまにいるにはいるけど、大抵は無理だ。マクロンだって最後には降参しちゃった。

2010年代初頭のユーロ危機のとき、フランスが実際にどれだけ借りてどれだけ使ったかを見ると、クルーグマンが恐れてた緊縮も、彼が望んでた刺激策も、実際にフランスはどっちもやってなかったことがわかる。上のグラフを見れば、2010年代に政府支出は増えも減りもしていない――景気後退なんてなかったみたいに、平常運転を続けている。フランス政府の借金も同じだった。

出典:OWID

ドイツは実際、不況のときに緊縮をやった。フランスはやってない。それどころか、何もしてないんだ――ただ借りて使うのを続けただけだ。

このことは、ケインズ的リベラリズムにとっての政治経済学的な問題を指し示している。それが示唆しているのは――ジェームズ・ブキャナンが予見していたように――支出ってのは、テクノクラートの賢明な判断で決まることは少なくて、政府の建物を焼き払う怒った無知な連中に決められがちだってことだ。

最後に、フランスの暴動は、現代の左派リベラリズムのもう一つの柱――大量移民への寛容さ――の限界を示している。

アフリカや中東からの移民がこれらの暴動の中心に不自然なまでにたくさんいる、というのは今のところはっきりしない。暴徒や略奪者を映した拡散動画――若いチンピラから自分の店を守ろうとするフランスのビデオゲーム店主のあの有名な動画を含む――には、白人もかなりいる、人種が入り混じった暴徒の集団が映っている。過去の暴動の波には、移民とその子どもたちが主導したものもある――たとえば2023年の反警察暴動だ。でも、2010年代後半に長く続いた黄色いベスト暴動のような他の暴動は、ほとんどが白人だった。

それでも、フランスの世論は、街頭の混乱を「移民」のせいにする方向にどんどん傾いてるみたいだ。騒乱が始まると、反移民を掲げる右派候補マリーヌ・ル・ペンの勝算が一気に跳ね上がった。

出典:Polymarket.com

対照的に、唯一の主要な左派候補ジャン=リュック・メランションの勝算は微動だにしなかった。メランションは社会支出を派手に増やすと約束してるけど、有権者はそっぽを向いてる。そうじゃなくて、ドイツのAfDのときと同じように、そして実際ヨーロッパ中で、人々は、社会支出を増やすことより、移民を止めると約束する人ならおかまいなしにそっちに流れているんだ。

もちろん、アメリカはフランスじゃない。僕たちの移民の構成はまるで違うし、大量の移民を同化する能力もはるかに高い。移民に対する僕たちの態度もまた前向きになってきている。少なくとも一部は、トランプの野蛮さへの反発でもある。だけどフランスを見れば、移民に対する左派リベラルなアプローチが、すべての国で同じようにうまくいくわけじゃないってことがわかる。

だから、フランスの暴動は、フランス人が街頭で暴れるいつもの繰り返しのまたしてもの一例ってわけじゃない。それは、ヨーロッパ型の左派リベラリズム――ばらまき福祉国家、大量移民への寛容な態度、そしてケインズ型需要管理への信頼――の限界を示している。左派リベラリズムはとても美しくて思いやりのある社会をいくつか築いてきた。だけど、その力は無限じゃない。

〔アイキャッチ写真:ホルヘ・ハラミーロ撮影、ウィキペディア・コモンズより〕
[Noah Smith, “France and the limits of liberalism“, Noahpinion, October 22, 2026]

Total
0
Shares

コメントを残す

Related Posts