ジェイソン・コリンズ 「ノーベル経済学賞を受賞するにふさわしい生物学者と言えば?」(2012年1月2日)

生物学の分野におけるノーベル賞とも言えるクラフォード賞の歴代の受賞者のうちで、ノーベル経済学賞の候補者になり得る――あるいは、そうなってしかるべき――人物はどのくらいいるだろうか?

●Jason Collins, “A Nobel Prize for biology”(Jason Collins blog, January 2, 2012)


ロバート・トリヴァース(Robert Trivers)がLSE(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス)に招かれて近著である『The Folly of Fools: The Logic of Deceit and Self-Deception in Human Life』をテーマに講演を行ったが、ホスト役を務めたヘレナ・クロニン(Helena Cronin)が会の冒頭で「ノーベル生物学賞というのはありません」と指摘した。生物学の分野でノーベル賞に一番近い賞を探せば、クラフォード賞(生物科学分野)ということになろう。クラフォード賞は4年に1度の間隔で授与されており、スウェーデン王立科学アカデミーが受賞者の選考を担当している――ちなみに、スウェーデン王立科学アカデミーは、ノーベル化学賞/物理学賞/経済学賞の選考も行っている――。トリヴァースも2007年にクラフォード賞を受賞している。

クラフォード賞の歴代の受賞者一覧を眺めていて、びっくりさせられた経験がある。経済学者として生業(なりわい)を立てている私の思考に影響を及ぼしている面々がたくさんいるのだ。そして、ふと疑問に思った。クラフォード賞の歴代の受賞者のうちで、ノーベル経済学賞の候補者になり得る――あるいは、そうなってしかるべき――人物はどのくらいいるだろうか?、と。

エドワード・O・ウィルソン(Edward O. Wilson) [1] 訳注;ウィルソンは、2021年12月26日に亡くなっている。は、島の生物地理学および生態学の研究の成果が認められてクラフォード賞を受賞しているが、彼が創始した社会生物学(および社会生物学の人間社会への応用)は経済学の中枢に腰を据えてもおかしくない業績だと言える。ビル・ハミルトン(William Donald Hamilton)がまだ存命だったら、利他主義および血縁淘汰に関する業績でノーベル経済学賞の候補者たり得ただろう。ロバート・トリヴァースも、協調行動に関する業績でノーベル経済学賞を受賞するにふさわしい一人だろう。ロバート・メイ(Robert May)の名前も挙げたいところだ [2] 訳注;メイは、2020年4月28日に亡くなっている。。シンプルなシステムの複雑な挙動に関する彼の論文は、複雑系に対する私なりの理解の礎(いしずえ)になっているからだ。既に亡くなってはいる――それゆえ、ノーベル経済学賞の候補者にはなり得ない――が、ジョン・メイナード=スミス(John Maynard Smith) の名前も挙げておこう。彼の業績は、ゲーム理論がテーマの書籍で例外なく言及されている。

たった今名前を挙げた面々のうちの誰かがノーベル経済学賞を受賞する可能性があるくらいまで生物学が経済学の中に取り込まれている(浸透している)かというと、まだそこまではいっていないのが現状だ。とは言え、ダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)の例――心理学者でありながら、2002年にノーベル経済学賞を受賞――が示しているように、ノーベル賞選考委員会は「経済学者」として括(くく)られる狭い集団の外に目を向けるのも厭(いと)わずにいるようではある。

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1 訳注;ウィルソンは、2021年12月26日に亡くなっている。
2 訳注;メイは、2020年4月28日に亡くなっている。
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