ダイアン・コイル 「経済における個と全体」(2015年10月5日)

経済においては、個人に当てはることが個人の集まりには当てはまらないことがある。
画像の出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/26062042

システミック・リスク・センターから新たな報告書(pdf)が出されているが、興味深い内容になっている。テーマは、「内生的なリスク」。内生的なリスクというのは、市場(あるいは、経済)に参加している個々のプレイヤーの相互作用によって生み出され、フィードバック・ループを通じて増幅されるリスクのことだ。報告書の冒頭には、ミルトン・フリードマン(Milton Friedman)の次の言葉が引用されている。「誰もが犯す最大の過ちは、個人に当てはまることと、社会全体に当てはまることを混同してしまうことだ。・・・(略)・・・興味深い経済問題のほとんどが次の特徴を備えている。個人に当てはることが個人の集まりには当てはまらない」。

さらに、ハイエク(Friedrich Hayek)の次の言葉も引用されている。「経済学者であるだけでは偉大な経済学者にはなれない。経済学者でしかない経済学者は、危険人物とまでは言わないまでも、社会の厄介者になりかねないと付け加えたいところだ」。

件の報告書ではファイナンスに焦点が置かれているが、いくつかのパラドックスについて巧みにまとめられている。市場に参加する個々のプレイヤーを慎重に振る舞わせようとすると、金融システム全体がかえって不安定になったり――「合成の誤謬」というやつだ――、多くの金融規制が景気循環を増幅させるフィードバック・ループの勢いを強めてしまったり、金融取引に対するトービン税が金融資産の価格変動を増幅させてしまったり。そういう話がいくつも紹介されているが、イアン・ゴールディン(Ian Goldin)の『The Butterfly Defect』――ファイナンスの話題に一章が割かれている――での指摘に対する強力な援軍になっているように思える。アデア・ターナー(Adair Turner)の『Between Debt and the Devil』(邦訳『債務、さもなくば悪魔:ヘリコプターマネーは世界を救うか?』)でも同様の論点がいくつか取り上げられている。

Between Debt and the Devil:Money, Credit, and Fixing Global Finance


〔原文:“Alone and together in the economy”(The Enlightened Economist, October 5, 2015)〕

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