タイラー・コーエン 「労働時間の配分は、効率的かつ公平か?」(2016年6月5日)

天空を支えるアトラスさながらに、労働時間を増やして我が国(アメリカ)の経済成長を支える役目を引き受けているのが女性たちだ。
画像の出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/26470867

ニューヨーク・タイムズ紙の「アップショット」欄に、労働時間の配分をテーマにした記事を寄稿したばかりだ。一部を引用しておこう。

つまりは、大半の高齢者は、ケインズが予想していたよりもずっと快適な暮らしを満喫しているのだ。ケインズが1930年に書いたエッセイである  “Economic Possibilities for Our Grandchildren(pdf)”(「わが孫たちの経済的可能性」)には、定年退職者について一言も言及されていない。おそらくその理由は、彼が慣れ親しんでいた当時の世の中では、多くの人が死ぬまで働くか、体を壊して働けなくなるまで働いていたからだろう。

ケインズの予想を上回っているのは、10代の若者もだ。数十年前であれば、10代の若者のうちおよそ55%が働いていた。最近ではその割合は、およそ35%でしかない。さらには、肉体労働に就くよりも、サービス部門で働く若者が増えている。人種の違いや所得の違いによって大差はあるものの、全体的な傾向として10代の若者にとっても人生は暮らしやすくなっているのだ。

もう一丁、引用しておこう。

労働時間を減らしている層がこれだけいるとしたら、誰かの労働時間が増えていなければならない。その役割をほぼ一手に引き受けているのが女性たちだ。天空を支えるアトラスさながらに、我が国の経済成長を支える役目を女性たちが引き受けているのだ。

女性たちが労働時間を増やすというかたちで背負っている負担のうちのいくらかは、公平なものとは言えないと信ずべき理由がいくつかある。 共働きの家庭で、夫が家事や育児を公平に分担しているとはとても言えないことはよく知られているが、それは同時に、妻(女性)にかかるストレスが大きいことを意味する。さらには、ベッツィー・スティーブンソン(Betsey Stevenson)&ジャスティン・ウォルファーズ(Justin Wolfers)――二人ともミシガン大学公共政策大学院の教授で、ウォルファーズは本欄の定期寄稿者の一人――の二人が報告している証拠によると――その証拠は、利用できる中で最良のもの――、アメリカ人女性全体の幸福度が低下しているだけでなく、 白人の中年女性の年齢調整死亡率が上昇している――白人男性については、そうなっていない――という。かような悩ましい傾向も、ストレスの配分が公平じゃないことを仄(ほの)めかしていると言えるかもしれない。

多くの男性は働かなさすぎで、多くの女性は働きすぎかもしれないわけだ。ところで、余暇が異時点間にわたって均(なら)されずにいるのはなぜなのだろう?

その一方で、多くの女性は、かなりの見返りも得ている。老後にたっぷりと余暇を味わえるというかたちで。平均的な傾向として女性は男性よりも長生きするので、男性よりも老後(定年退職した後の人生)を長く過ごせる可能性が高い。しかしながら、多くの女性が人生の中盤で不釣り合いなほど仕事に追われストレスにまみれ、人生の終盤になってようやく余暇を味わえるというのは、奇妙な社会のあり方ではある。ゼロか百か [1] … Continue readingみたいな話じゃないか。

経済学の大半のモデルでは、うまく説明できない現象だ。経済学のモデルでは、ヒトは平滑化を試みると想定されている。すなわち、「仕事に費やす時間」と「余暇に費やす時間」を人生の全局面にわたってバランスよく振り分けると想定されているのだ。 しかしながら、現代のアメリカ人女性は、中庸路線を選んではいないようなのだ。

謎と言うしかない。労働の供給にまつわるその他の基本的な事実は言うまでもなく、この謎も無理なく説明できるモデルってあるだろうかね? 私は知らない。


〔原文:“Are work hours allocated justly and efficiently?”(Marginal Revolution, June 5, 2016)〕

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1 訳注;働いてお金を稼ぐか、余暇を味わうかのどちらか一方しか選べないかのようだ、という意味。働きつつ余暇も味わうというのがまるで禁じられているみたいだ、という意味。
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