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ピーター・ターチン「アメリカ大衆の貧困化」(2018年8月21日)

Population Immiseration in America
August 21, 2018 by Peter Turchin

 昨年、私はある人物と興味深い会話を交わした。彼女をワシントン・インサイダーと呼ぼう。彼女は、おそらく2020年代に政治的暴力の大流行でピークを迎えるであろう米国の不安定性の増加を、私の構造的人口動態モデルが予測した理由について尋ねた。私は3つの主要な力に基づく説明を始めた。大衆の貧困化、エリート内競争、そして政府の脆弱性。だが彼女が質問してきたため、それ以上は説明できなかった。貧困化とは何か? 何の話をしているのか? 今ほど暮らし向きのいい時代はない。世界的な貧困は減っているし、小児死亡率は低下し、暴力も減少している。過去の世代と比べれば奇跡のような水準のテクノロジーにアクセスできる。マックス・ローザー1 が集めた大量のデータを見よ。物事がいかにうまく行っているかはっきり理解できるスティーブン・ピンカーの本2 を読めばいい。

 このバラ色の見方には、それを支える3つのバイアスが存在する。第1は世界的な課題への着目だ。だが中国における貧困の減少(中国の人口はあまりに大きいため、これが世界の貧困減少を推進している)や、アフリカにおける小児死亡率の低下は、アメリカの労働者には関係ない。どんな場所でも人々は、遠い地域の誰かとではなく、両親の家で経験した生活水準と今の自分とを比べるものだ。そしてアメリカ大衆の大半は、(以下で見るように)多くの重要な面で両親より自分たちの暮らしの方が悪くなっていると見ている。

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  1. 原文はMax Rosenとなっているが正確にはMax Roser、Our World in Dataの創設者 []
  2. 暴力の人類史(上)(下) []

ピーター・ターチン「起業家は非合理的なのか?(結論:その通り――標準的な経済理論によれば)」2018年7月22日

Are Entrepreneurs Irrational? (According to Standard Economic Theory)
July 22, 2018 by Peter Turchin

 私にとってヴィクター・ウォンとグレッグ・ホロウィットの「熱帯雨林:次のシリコン・バレーを作り上げるための秘密」1 で最も目から鱗だったのは、自身でイノベーション企業を立ち上げるのが徹底して非合理的な決断であるという認識だ2 。投資することになる努力(及びしばしば自身の資金)の量と、極めて低い成功確率を考えるなら、企業を立ち上げるのは単純に道理に合わない――成功を金で測る限り。著者たちがあるところで書いている通り、「スタートアップ企業を立ち上げるプロセスは、ローラーコースターに乗るのと多くの類似点がある。極めて非合理的な行動だ」。

 熱帯雨林の224ページには、ベンチャーが成功するために機能しなければならない構成要素を説明した便利な図がある。

  • テクノロジーが機能する
  • 製品が機能する
  • 顧客が購入する
  • 製造工程が機能する
  • ビジネスモデルが機能する
  • 十分な資本がある
  • チームがすべての物事に対処できる
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  1. The Rainforest: The Secret to Building the Next Silicon Valley []
  2. ピーター・ターチン「資本主義は協調を破壊するのか?」参照 []

ピーター・ターチン「資本主義は協調を破壊するのか?」(2018年7月10日)

Does Capitalism Destroy Cooperation?
July 10, 2018 by Peter Turchin

 私が文化的マルチレベル選択(CMLS)理論の賛同者となった主な理由の1つは、それが競争と協調の間にある関係を見事に明確化したからだ。

  • グループ間競争(上は全社会にまで至る)はグループ内の協調を発展させる
  • グループ内競争(メンバー同士の)は協調を破壊する

 ウルトラソサイエティ1 について2行でまとめるなら、上記のようになる。

 複雑な社会の進化に関する研究に、私はこれらの原則を当てはめてきた(今やSeshatデータバンクが十分に成長し、大量の実証結果――学術的な発表は石臼で引くがごとくとっても遅いため、見られるようになるのは1年か2年後だ――を生み出し始めているため、さらに多くの取り組みが行える)。

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  1. Ultrasociety、ターチンの2015年の著作 []

ピーター・ターチン「構造的人口動態理論の予測能力」(2018年2月4日)

Is Structural-Demographic Theory Predictive?
February 04, 2018 by Peter Turchin

 先週、ジャック・ゴールドストーンの本、近代初期世界の革命と反乱1 の25周年を記念したクリオダイナミクス最新号2 に載っているジャックの序文について書いた。本日の記事では同様に興味深いオスカー・オートマンズと共著者の論文について議論したい。

 オートマンズらの論文における中心課題は、構造的人口動態理論3 に予測能力があるかどうかだ。序論において彼らはよく知られた革命研究者、ティマー・クーランによるゴールドストーンの書評(Kuran, T. 1992. Contemporary Sociology 21:8-10)を引用している。クーランによればSDTは単に「例外的な事例を調和させる」ための道具にすぎず、「予測の道具としては失敗する」運命にあるそうだ。

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  1. Revolution and Rebellion in the Early Modern World []
  2. Cliodynamics: The Journal of Quantitative History and Cultural Evolution []
  3. Structural-Demographic Theory (SDT) []

ピーター・ターチン「米国会議事堂襲撃」(2021年1月7日)

The Storming of the U.S. Capitol
January 07, 2021 by Peter Turchin

 マクロな社会ダイナミクスのレベルで見ると、昨日、2021年1月6日に起きたことは驚きではなかった。結局のところ、米国における不安定性の構造的圧力が高まり続けていることを、私自身のモデルが示していた。だがより目先のミクロレベルで見ると、数百人のデモ参加者が議事堂に突入し、神聖なホールで暴れ回るのを見るのは衝撃的だった。私はABCの放送を見ていたが、途中でジョージ・ステファノプロス1 が「ここはウクライナじゃない!」と叫んでいた。その通り、過去数年の間に我々は、ウクライナやアルメニア、タジキスタンなどの国々で、革命の群衆が政府の建物に突入する光景を見慣れてしまっていた……。だが似たようなことがワシントン特別区で、民主主義と法の支配の砦であるこの地で起きるとは? ヤバいよ、マジで。

 では次は? ミクロレベルと短期的な政治的暴力のダイナミクスは予測が困難だ。でももっと重要なのは、深い、構造的人口動態トレンドのレベルで起きるであろうこと。大衆の困窮化は数十年にわたって拡大している。新型コロナ以前から下り坂に入っていた平均余命の低下ような、大衆への圧力を示すマルサス的指標を見るのがいかに衝撃的であったかについて、私はこれまでも書いてきた。今や疫病はアメリカ人の大半の平均余命や雇用、所得といったウェルビーイングに対してボディブローを与えており、同様に主観的なウェルビーイングの評価もすべて下降線をたどっている。

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  1. クリントン政権の広報担当大統領補佐官 []

ピーター・ターチン「トランプと潜在大衆動員力――エリート過剰生産の果て」(2016年4月21日)

Donald Trump and Mass Mobilization Potential
April 21, 2016 by Peter Turchin

 前回の記事では、エリートの過剰生産がいかに政治的不安定性をもたらすかについて話をした。数が固定されている政治的地位を巡って多すぎるエリート志望者が競争することは、つまり地位と権力の追求に挫折する人数が大きく増えることを意味する。そのうちの何%かは過激化し、既存エリートを引きずり下ろして社会的秩序を転覆させるべく積極的に働く「対抗エリート」へと変貌する。

 とはいえ対抗エリートの数は少ない。彼らは優れた組織者であるがゆえに危険だが、彼らが社会秩序を覆そうと努力するためには、構造的人口動態(SD)理論の第2の構成要素――高い潜在大衆動員力、つまりMMP――が必要になる。MMPは非エリート、つまり所謂99%[訳注:最も裕福な1%以外の人々]が享受している(もしくはしていない)ウェルビーイングの動向にかかってくる。米国の経済学者リチャード・イースターリンと彼の生徒たちの研究が示しているように、重要なのはウェルビーイングの絶対水準ではなく、ある世代から次の世代にかけてそれがどのように変わったかだ。人々の中で(政治的暴力の源として)最も危険な年齢グループである20代の面々について考えよう。彼らは自分たちが達成した、あるいは達成できるであろう標準的な生活の質を、両親のそれと比較する。もし彼らの生活の質が低ければMMPは上昇し、逆なら低下する。

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ピーター・ターチン「エリート志望者ドナルド・トランプ――エリート過剰生産の落とし子」(2016年4月19日)

Donald Trump as an Elite Aspirant
April 19, 2016 by Peter Turchin

 昨日、ネッド・レスニコフが、先週の私へのインタビューに基づいた「近い将来の破滅について古代史が語ること」という記事を公開した。とてもいい記事だが、私が話したいくつかのことについて彼の文章には載っておらず、その点についてブログで膨らませようと思った。

 これらは全て構造的人口動態(structural-demographic, SD)理論に基づいている。我々自身のものも含む複雑な社会が、なぜ定期的に社会的政治的な不安定性の波を経験するのかを理解するうえで、これこそが現在使える最良の理論だ。この理論に最初に触れる読者は、SD理論を説明したいくつかのブログシリーズを集めた人気記事とシリーズのページをチェックしてほしい。

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ピーター・ターチン「エリート過剰生産とは――弁護士たちの二極化」(2013年11月10日)

 「エリートの過剰生産」、それが米社会で拡大する格差の行く末に関する議論に対して、私が吹き込もうとしている最も重要なアイデアだ。社会学的な定義を使うなら、エリートとは自らの手の内に権力を集めている人口の小さな一部分(典型的には1~2%)である。つまり彼らは権力者たちだ。また財産も権力の一形態であり、エリートは通常、トップレベルの資産保有者を含む。より一般化するなら、社会的権力には4つの源がある。経済的/金銭的、強制的/軍事的、行政的/政治的、そしてイデオロギー的/宗教的な権力だ(これについてはマイケル・マンの著作を参照)。

 エリートの過剰生産とは、権力の座を巡る競争相手の供給過剰と定義される。単に「既存」のエリート(実際の権力保有者)が多すぎることを意味するのではない点に注意を。権力は持っていないが、それを熱望している(構造的人口動態理論の業界用語では『エリート志望者』という)数多の挑戦者たちもそこには含まれる。

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