ピーター・ターチン「構造的人口動態理論の予測能力」(2018年2月4日)

Is Structural-Demographic Theory Predictive?
February 04, 2018 by Peter Turchin

 先週、ジャック・ゴールドストーンの本、近代初期世界の革命と反乱 [1]Revolution and Rebellion in the Early Modern World の25周年を記念したクリオダイナミクス最新号 [2]Cliodynamics: The Journal of Quantitative History and Cultural Evolution に載っているジャックの序文について書いた。本日の記事では同様に興味深いオスカー・オートマンズと共著者の論文について議論したい。

 オートマンズらの論文における中心課題は、構造的人口動態理論 [3]Structural-Demographic Theory (SDT) に予測能力があるかどうかだ。序論において彼らはよく知られた革命研究者、ティマー・クーランによるゴールドストーンの書評(Kuran, T. 1992. Contemporary Sociology 21:8-10)を引用している。クーランによればSDTは単に「例外的な事例を調和させる」ための道具にすぎず、「予測の道具としては失敗する」運命にあるそうだ。

 ゴールドストーンの本が出版されてから27年が経過した――予測ツールとしてのそのポテンシャルを測るには十分な時間だ。例えば米国においてはネガティブな構造的人口動態トレンドが1970年代の後半から発展を始め、1991年時点においては既にこの国が間違った方向へ動いていることを、理論を理解している誰かが見定めることができた。同時代の米国(1991年の合衆国)に関するゴールドストーンの本(思い出してほしいが27年前の出版物)の一節は、薄気味悪いほど今日を予見している。

 私は別の場所で、2000年代初頭に同じことに気づくに至った道筋を描いたことがある。その時点では文字通りこの予測は壁に刻まれていた [4]災害の前兆を意味する聖書の記述から

 国際比較した時系列データを使いながら、オートマンズと共著者たちは米国における反政府行動の発生率をプロットした。そこにゴールドストーンの本の出版と、2010~2020年の10年間における政治的不安定性に関する私のネイチャー記事 [5]Political instability may be a contributor in the coming decade を示す矢印を付け加えた。

 このグラフを見れば自明の理だと思う。

 では他の国はどうだろうか? 以前、モスクワの高等経済学院に拠点を置くクリオダイナミシストであるアンドレイ・コロタエフ(アンドレイはまたオートマンズ論文の共著者の一人でもある)が率いる研究者グループが、アラブの春に関する一連の分析を発表していた。ちなみにアンドレイはアラブ語を流暢に話し、エジプトなどアラブ諸国を定期的に訪れている。エジプト革命のいくつかのカギになる時期に、彼はカイロのタハリール広場にもいた。だがより重要なのは、アラブの春がSDTの全体的な枠組みにとてもよくフィットすることを、彼のグループの研究が示した点だろう(例えばこちらの論文 [6]A Trap At The Escape From The Trap? Demographic-Structural Factors of Political Instability in Modern Africa and West Asia 参照)。

 直近の論文でオートマンズらは今の英国の事例にSDTを適用している。もちろん米国と英国は同じアングロサクソンの文化を共有しているが、これら2つの社会の構造的人口動態ダイナミクスにおける類似度はなお並外れている。個々人は異なっているが、彼らは極めて似た――ほとんど同一と言ってもいい――役割を果たしている。レーガンとサッチャーの政権は、雇用主と労働者たちの間の社会的連携に関する戦後のコンセンサスが放棄されたことをドラマチックに知らしめた。ブレアとクリントンは、かつて左に傾いていた彼らの政党を中道右派へと動かすことで、この変化を確固たるものにした。もちろん英国にトランプはいない(ボリス・ジョンソンを勘定に入れない限り)。また一方で2016年の米大統領選と英のブレグジットはどちらも、米国については私が不和の時代 [7]The Ages of Discord で、英国についてはオートマンズらがクリオダイナミクスの論文 [8]Modeling Social Pressures Toward Political Instability in the United Kingdom after 1960: A Demographic Structural Analysis で記した、深い構造的人口動態トレンドの現れであった。

 どちらの国でも労働力の過剰供給がほぼ同じ時期に似たような理由で進展した。どちらの国でもネオリベラルなイデオロギーの流布と労働組合の抑圧が、労働需要に対する供給の好ましくないバランスがもたらした賃金低下圧への抑止力を取り除いた。相対賃金(1人当たりGDPに対する賃金)はおよそ同じ時期に低下を始めている。

 今や我々は先進国の成熟した民主主義における構造的人口動態ダイナミクスに関する2つのケーススタディを手元に持っている。これらの結果はそうした社会が、過去の社会において数知れない革命と内戦を生み出してきた破壊的な社会の力に対して免疫を持っていないことを示している。他の欧州民主主義国家、特にドイツもまた、免疫はないと推測される。だが新聞で読む限り、ドイツは米国(及び英国)から20年ほど後ろにいる。欧州の他の地域、特に北欧は、構造的人口動態危機の満開に直面するまでより多くの時間が残されているだろう。最悪を避けるための歩を進める時間はあるが、我々の政治エリートたちにSDTの教えを学ぶ能力はあるだろうか?

References

References
1 Revolution and Rebellion in the Early Modern World
2 Cliodynamics: The Journal of Quantitative History and Cultural Evolution
3 Structural-Demographic Theory (SDT)
4 災害の前兆を意味する聖書の記述から
5 Political instability may be a contributor in the coming decade
6 A Trap At The Escape From The Trap? Demographic-Structural Factors of Political Instability in Modern Africa and West Asia
7 The Ages of Discord
8 Modeling Social Pressures Toward Political Instability in the United Kingdom after 1960: A Demographic Structural Analysis
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