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クリステンセン 日本に財政の崖はない—シンプルなAS-AD分析

Lars Christensen There is no ‘fiscal cliff’ in Japan — a simple AS-AD analysis” The Market Monetarist 9/5/2013


ラルス・クリステンセンはダンスク銀行(デンマーク最大手銀行)の主席アナリストでエマージング市場分析とクロスアセットアロケーションの責任者。2001年までデンマーク政府の経済政策分析官として勤務。Milton Friedman – en pragmatisk revolutionær の著者。コペンハーゲン大学より修士号(経済学)取得。


1990年代にミルトン・フリードマンが日本銀行にやるべきと主張していたこと(日本をデフレから脱出させるためにマネタリーベースを拡大すること)が実際に機能することは、もはや非常に明白である。名目支出成長は加速していて、それとともにデフレは終焉を迎えつつある。また実質経済成長率も比較的堅調である。

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グレッグ・マンキュー、トップ1%を擁護する

アメリカ経済学会(AEA)が発行するJournal of Economic Perspectiveがアメリカの所得上位1%と残り99%の分配についての論争を特集している。経済学101では第一弾として “アメリカのトップ1%は成長の果実を(不当にも)独り占め“でBivens and Mishelを紹介した。第二弾としてグレゴリー・マンキューの”Defending the One Percent“を紹介する。

第一弾の”アメリカのトップ1%は成長の果実を(不当にも)独り占め“では所得トップ1%の所得の伸びの大部分はレントである、ゆえに非効率であるという主張がなされたが、マンキューは効率的である、と主張している。 [Read more…]

ジョン・コクラン: Mankiw on the 1%

Top1%を巡る論争からのスピンオフ。アメリカのトップ1%は成長の果実を(不当にも)独り占めも合わせてどうぞ。


John Cochrane, “Mankiw on the 1%“, The Grumpy Economist (6/18/2013)


John Cochraneはシカゴ大学ブースビジネススクール ファイナンス教授。株式市場、債券市場、外国為替市場など金融市場における価格形成、ボラティリティ、VCの利回り、流動性プレミアムの研究や株価と景気循環の関係など金融論および貨幣経済学を主な専門とする。カリフォルニア大学バークレー校よりPh. D. (経済学)取得。


グレッグ・マンキューが「トップ1%を擁護する」というタイトルの興味深い原稿を書いている1。しかし、実にタイトルが悪い。私が読んだ限り、もっと興味を引いた主なポイントは(トップ1%にフォーカスすることではなく)「所得移転は下層50%を本当に助けるのか?」だ。 [Read more…]

  1. 訳注:最終的な論文はこちら。 []

ギャニオン: QEの財政へのメリットはコストを上回る

Joseph Gagnon, “QE’s Fiscal Benefits Outweigh Any Fiscal Costs”, PIIE Realtime Economic Issues Watch.


Joseph GagnonはPeterson Institute for International Economics (PIIE) の上席研究員である。米財務省や米国の大学で教鞭をとった後、FRB金融政策局の外部副局長、国際金融局の副局長などを歴任した。スタンフォード大学よりPh. D. を授与。


今週のキャピトル・ヒルでの証言で、FRB議長のバーナンキは下院議員からいくつかの重要な質問を受けるだろう。その中でも答えるのが最も簡単な質問は量的緩和(QE)がFRBのバランスシートにリスクをもたらすかどうかである。バーナンキは潜在的な将来の損失の政治的影響について懸念するかもしれないが、そのような損失を十分相殺する以上の利益を財務省にもたらし、QEは我が国の負債を間違いなく減らすということを彼はよく知っている。

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スキデルスキー、イギリスおよび労働党の惨状を嘆く

ロバート・スキデルスキーが激おこプンプン丸である

労働党が保守党・自由民主党の連合政権をうまく攻撃出来ていないからだ。労働党の影の厚生大臣であるアンディ・バーナムは国民健康サービス (National Health Service) を争点にしたい構えだが、スキデルスキーは「そこじゃないだろ!」と。 [Read more…]

市場関係者 vs 経済学者

Orcam Financial Group, LLCのコリン・ロシュがポール・クルーグマンのIt’s back論文邦訳)に噛み付いた。よくある「モデルは実務を正しく反映していない!」批判だ。

量的緩和が高インフレをもたらすという論者(例えばアラン・メルツァー)が多いわけだが、それに対してクルーグマンはいつも自らの論文を使って反論している。

これに対してロシュはクルーグマンのモデルが想定している仕組みをこう批判する。

For the millionth time, that’s just not how banks work.  Banks don’t lend their reserves out so expanding the monetary base was NEVER going to result in consumers getting “the money for deposits”.

(百万回言ってきたことだが、これ(クルーグマンのモデルが想定する銀行の行動)は単に事実じゃない。銀行は準備預金を貸し出したりはしない。だからマネタリーベースの拡大が消費者の「預金を減らす」なんてことは絶対にない。)

これについてクルーグマンはブログで、

I’m actually kind of reluctant to even get into this, because any discussion of these issue brings out the people who believe that they have discovered the hidden secrets of the monetary universe, somehow missed by generations of economists.

(実のところ、この話をするのももうイヤなんだよね。だって、どんな議論をしたところで、こうした「何世代もの経済学者が見逃してきた隠された金融の秘密を発見した」って信じる人達を世に送り出すことになっちゃうからだ。)

とはいえ、

But here goes anyway.

(でも、やるよ。)

とゴングを鳴らし。Tobin-Brainardを持ちだして比較的詳細に説明している。要は経済学者は経済システムの本質的な動きに注目し、実務家は実際の手続きに注目することから来る行き違いに過ぎない、というわけだ。

anyone who thinks that there’s a big flaw in their reasoning is almost surely just getting caught up in his own word games.

(理論に大きな穴が有ると考えるものはほぼ全員、言葉遊びをしているだけに過ぎない。)

 

クルーグマン、インターネットを擁護する

先日、ワシントン・ポストがAmazon.comのジェフ・ベゾスに売却された。

これを受けてロバート・サミュエルソン記者が“The news isn’t free”という記事を書いて新聞の凋落を嘆き、インターネット時代への恨み事を連ねている。これに対してジョナサン・チェイトが厳しく批判している

ポール・クルーグマンは”The Good Web“という記事でこれを取り上げ、経済学者の視点からインターネットがどのようにジャーナリズムに変化をもたらしたかを説明し、インターネットを擁護している。

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アメリカのトップ1%は成長の果実を(不当にも)独り占め

2008年に発生した金融危機以降、アメリカの所得トップ1%を巡る論争が激しさを増している。トップ1%の所得の伸び率はそれ以外の層よりも顕著に大きく、また1%の中でも格差が拡大しているが、その伸びがそれぞれの層の生産性の伸び(あるいは限界生産)を反映しているかどうかが論争の主要部分である1

これについてアメリカ経済学会が発行しているJournal of Economic Perspective特集を組んでいる2。今回はBivens & Mishelによる“The Pay of Corporate Executives and Financial Professional as Evidence of Rents in Top 1 Percent Incomes”を取り上げる。彼らの基本的な主張は、トップ1%の伸びの多くはレントであり、彼らの限界生産に見合ったものではない、それゆえ、所得税の累進度を高めることで経済成長を損ねることなく格差を是正できる、というものである。


Piketty and Saez (2003) に最近のデータを加味したFigure1からは、1979年以前はそれぞれの所得層の均斉のとれた成長が見られたものが、1979年以降は驚くべきことにボトム90%の成長はその9%しか分配されておらず、トップ10%が成長の果実を独り占めしていることがわかる。そして、そのトップ10%のなかでも格差が生じており、トップ0.01%の成長が著しい(トップ1%は59.8%)。所得移転やノンキャッシュ所得(キャピタルゲインなど)を含めた連邦議会予算局のデータでもトップ1%は38.3%を得、ボトム80%は31.0%しか得ていない。

The Piketty and Saez data indicate, for instance, that between 1979 and 2007, the top 1 percent of American tax units ac counted for 59.8 percent of average growth in cash, market-based in comes compared to just 9 percent of average growth accounted for by the bottom 90 percent over the period. While including transfers and noncash incomes reduces the share of growth received by the top 1 percent significantly, as shown in the Congressional Budget Office data, the top 1 percent still ac count for 38.3 percent of growth, m ore than the 31.0 percent share received by the bottom 80 percent.(p.58)

Figure1 income growth.jpg

さらに1979年から2007年にかけて中間層(50パーセンタイル)の家計の所得の伸びの半分は社会保障やメディケア、年金といった所得移転によるものである。つまり、所得移転前の分配はもっと偏ったものであることが予想される。

We have noted elsewhere that more than half of the income growth for households in the middle of the income distribution between 1979 and 2007 was driven by government transfers (dominated by Social Security and Medicare) and pensions currently received for past labor market service (Mishel, Bivens, Gould, and Shierholz 2012, table 2.13).  (p.59)

所得の源泉についてみてみると、総所得に占める労働所得は1979年と2007年を較べると69.8%から60.3%に減少している。これに対し、キャピタルゲインや金利・配当収入、役員報酬は18.3%から22.8%と増加している。なかでもキャピタルゲインは3.6%から8.0%へ、役員報酬が4.5%%から6.1%へと増加している(Table 1 参照)。

The most striking fifinding in these columns is the large decline in labor compensation’s share of overall income, falling from 69.8 percent in 1979 to 60.3 percent in 2007. Conversely, the combined share of capital income (including capital gains) and business income rose substantially, from 18.3 percent in 1979 to 22.8 percent in 2007. (p.60)

トップ1%の職業を金融業のエグゼクティブ、非金融業のエグゼクティブ、その他の3つに分類すると、トップ1%の非金融業のエグゼクティブの占める割合は44%、トップ0.1%は36%を占める。また金融業のエグゼクティブはトップ1%、0.1%のいずれでも23%程度を占め、エグゼクティブ全体ではトップ1%の58%を占めていることがわかる。

House-holds headed by a nonfifinance executive were associated with 44 percent of the growth of the top 0.1 percent’s income share and 36 percent in the growth among the top 1.0 percent. Those in the fifinancial sector were associated with nearly a fourth (23 percent) of the expansion of the income shares of both the top 1.0 and top 0.1 percent. Together, fifinance and executives accounted for 58 percent of the expansion of income for the top 1.0 percent of households and an even greater two-thirds share (67 percent) of the income growth of the top 0.1 percent of households. (p.61)

これらの金融業・非金融業のエグゼクティブへ報酬の偏りが、彼らの能力から生じる限界生産の反映ではなく、レントシーキングの結果であるならば、トップ1%のマジョリティの高報酬を説明する要素としてレントが重要な役割を果たしているといえる。

彼らはこの論文で役員報酬がこの2、30年で増加している理由を幾つか挙げているが、一つはストックオプションとボーナスである。これらの報酬は他社の報酬を比較対象として相対評価し株主総会で決定されるが、この「相対評価」は実は「カモフラージュ」であり、相対的なパフォーマンスによって評価しているわけではないと論じている。ストックオプションも相対的なパフォーマンスを反映していると言うよりも単に株価の上下動を反映しているに過ぎない。

金融業トップの報酬の上昇がレントであるか否かの論争は、社会全体における金融業の限界的な拡大が他の業種よりも顕著であったか否かの議論とも関連しているが、この論文では報酬の上昇は金融業拡大の反映ではないし、それどころか金融業拡大から生じる負の外部性による非効率性の存在(複雑化によるシステミックリスクなど)を指摘している。また、金融危機で明らかになったように、金融業には暗黙の保険がかかっていた。また、情報の非対称性を利用してリスクを少なく見せ、自らの報酬を高めていた。この結果、金融業と非金融業での報酬比率は1952年から1982年までは1.1だったものが2007には1.83にまで拡大した。トップ1%の多くを占める金融業エグゼクティブの報酬の増加は理想的な市場が機能した結果ではなく、彼らへレントをシフトさせるような制度変更の結果だったのである。所得への限界税率の低下は報酬に対するレンとの割合の高いトップ層へ、レントシフティングへの強いインセンティブを与えるのだ。

This type of diver- gence seems like powerful evidence to us that a substantial part of the extraordinary rise of top 1 percent incomes is not a result of well-functioning markets allocating pay according to value generated, but instead resulted from shifting institutional arrangements leading to shifting of rents to those at the very top. (p.66)

トップ1%の報酬はもちろん最低賃金とは直接関係ないが、実質最低賃金の引き下げ、あるいは労働組合の影響力低下は企業の利益増加を通じてエグゼクティブの報酬を拡大させることができる。また、そのような独占力や優位な情報の非対称性、およびインセンティブを持っている。イギリスを対象とした研究では最低賃金の引き上げは企業の利益を減少させたが雇用には影響がなかったという報告もある。

Too often the assumption is that policy variables like the real value of the minimum wage cannot be relevant to top 1 percent incomes as they are, by defifinition, nonbinding on high wages. Yet one person’s income is another person’s cost. If a declining value of the minimum wage, or increased effectiveness in blocking union organizing, keeps wages in check at, say, Walmart, then it is hardly a shock that this could well lead to higher pay for corporate managers and higher returns to Walmart shareholders (for example, Draca, Machin, and Van Reenen, 2011, offer evidence that in the UK, higher minimum wages reduce fifirm profifit- ability—but with no signifificant impact on employment).

またグローバリゼーションも労働者の利益を阻害し、資本家の利益をもたらす。ストルパー・サミュエルソンモデルからはアメリカのような先進国では貿易の開放度が高いほど、資本家の利益を増やし、労働者の利益を減らすことが示される。Rodrik  (1999) やJayadev (2007)  の研究でも、先進国、途上国問わず、資本移動の自由度の上昇は労働者の交渉力を資本家へ移す強い証拠が示されている。

Further, it is likely that the role of globalization—a mixture of exogenous and policy-induced changes—also looms large. Textbook Stolper–Samuelson models explicitly show (at least in the older textbooks!) that trade openness can increase capital incomes and reduce labor compensation in rich countries like the United States. Rodrik (1999) and Jayadev (2007) have similarly noted that capital account openness, which is largely a policy choice, could well tilt bargaining power away from workers and towards capital-owners, resulting in higher capital shares not just in developed countries (the standard Stolper–Samuelson result) but in developing countries as well—a nonstandard result that has shown up strongly in the data.

トップ1%の報酬の増加分の多くがレントであるならば、このような格差の是正は原理的には経済全体の成長を妨げるものではない。このサーベイでは実際に最高限界税率の変更が経済成長へ大きく影響しないことをいくつかの論文を挙げて主張している。 よって、トップ1%への偏りを是正することで経済成長を阻害させることなしに、中間層、下層への所得分配を増加させることが可能である。

[Taking steps to] reverse the concentration of income at the very top will not kill any golden goose of economic growth. Instead, it will just lead to more income for those at the bottom and middle of the income distribution.

彼らが提案するのはまずコーポレート・ガバナンスの改善である。次に、レントシフティングへのインセンティブを減らすための最高限界税率の引き上げである(とくに労働への報酬ではなく資本からの報酬に対して)。


この論文では言及がなかったが、役員報酬が利益と連動する 契約の場合、法人税の引き上げは雇用に影響なく役員報酬と株主への配当(これも税率が低い)を減少させる効果があるだろう。

 


参考文献:
Bivens, Josh and Lawrence Mishel, “The Pay of Corporate Executives and Financial Professional as Evidence of Rents in Top 1 Percent Incomes” Journal of Economic Perspective”, 2013

  1. 現在の標準的な経済学の世界では生産性を反映した絶対的な格差はあまり問題にしない []
  2. このジャーナルは一般のメディアと学界の成果を結びつけることが目的のため無料で読める。 []

Menzie Chinn: 円の変化と日本の輸出

Menzie Chinn, “The Yen’s Progress and Japanese Exports”, Econbrowser August 13, 2013.


ちょうど日本から戻ってきたところだが、タイミングを同じくして出たGDP統計は、経済はまだまだ完全な回復から遠いという事実を補強するものであった。

しかしながらアメリカのものと同様にGDP統計の第一次速報は不正確であることが多いので、あまり入れ込まないほうが良いだろう(修正値はアメリカと同様に2008年以降は下方修正される傾向があるものの、方向性の正確な予想と成長の加速は2008年以降は増加している。[0])。成長 [1] [2] の大きな構成要素となっている輸出について考えると、数カ月前に起きた為替レートの下落効果がどれくらい残っているのか判断に迷う。また、他国から見た日本の輸出価格(訳注:他国にとっては輸入価格)はどれくらい下落したのだろうか。今日のWSJ RTE, “Prices for Imports From Japan Decline Sharply” (by E. Morath)から:

火曜日に発表された労働省からの統計によれば、7月の日本からの(アメリカへの)輸入価格は前年同月比で2.4%下落した。2002年12月以来、12ヶ月間におけるもっと急激な下落である。アメリカの第4番目に大きい貿易相手国からの輸入のコストは6ヶ月連続で低下している。

アメリカ国民が輸入されたコンピュータやクルマ、その他の消費耐久財—すべて日本製である—に支払う価格は過去一年で下落した。

為替レートパススルー1 についてはここに譲る。

Figure1はドルに対する為替レートを表している(下落は円の減価を意味する)。この下落は単にアメリカ–日本における現象ではない。円はBISの名目貿易加重指標で計測したもっと広範囲な指標でも下落している。

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Figure 1: ドル/円 為替レートの対数(赤、右軸)、8月13日の値(赤三角、右軸)、日本円の貿易加重指標の対数(青、左軸)Source: Fed via FRED および BIS

さて、為替相場の下落をもってしても輸出価格へのパススルーはゼロになりうる(実際にはならないだろうが)。利益のマージン、あるいは単位コストは為替下落の効果を打ち消してしまうほど上昇するかもしれない。エネルギーなどの輸入財価格は生産コストの重要な構成要素であるため(そしてエネルギー関連の輸入材の価格は通常ドルで取引されているため、円の下落は単位コストの上昇につながる)、福島の原発事故以降、特に輸入物価の上昇という第二の影響が懸念されている。もちろん、アメリカへの輸出に関しては標準的な効果(日本から見た輸出価格の下落=アメリカから見た輸入価格の下落)が支配している。

為替相場の下落はどれくらい持続しているだろうか。今日の輸入コストは過去数ヶ月の為替レートの関数と考えられる。Figure 2 は1990年からの円の実質価値(の変化)の推移である。

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Figure 2:  CPIでデフレートした円の価値の対数(青線、IMFより)、BISの計測方法を使った2013年第二四半期の推計値(青四角)、デフレートされた円建てのユニットレーバーコスト(赤線、IMFより)。すべて2005年=0としている。Source: IMF, International Financial StatisticsBIS, and author’s calculations.

少なくともCPIでデフレートした基準で測ったデータからは安倍政権発足以来、実質実効為替レートは(対数で見て)25%下落していることが読み取れる(おそらくユニットレーバーコストを使っても同様であろう[3])。5月のこのポストで議論したChinn and Kamata (2013)では、フォードバック効果を一定と仮定して、長期的な20%の通貨の下落によって輸出がGDPを1.3%押し上げることを推計した。ここから所得の上昇による輸入の増加を差し引かなければならない。結果として、純輸出の増加はより小さくなる。逆向きに考えてみよう。もし純輸出の乗数が1より大きいなら、GDPはベースラインよりもさらに大きなものになるはずである。

最後に、15年前 (!) に日本に行った時に比べて、日本のものは随分と安くなったように感じる。そして、実際統計(あるいは少なくともビッグマック指数)はこの印象を深めてくれる。

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Figure 3:  アメリカのビッグマック指数(tm)(青)、日本(赤)、いずれも米ドル。注意:調査の頻度は不定期で、通常は4月、5月、6月に行われる。Source: Economist.

6月の時点でアメリカのビッグマックに比べて日本のビッグマックはおおよそ35%安い(対数で)が、これは必ずしも円が35%過小評価(「過小評価」が一体なんであれ)されていることを意味するわけではない。以前書いたように[4]、Penn効果2 は非貿易財の存在を前提とすると、まったく同一の財であってもより低い相対所得の国ではより価格が低いことを示唆する。私が持っているサンプル(1987-2013年の24の中・高所得国のデータ。バランスは取れていない)からは、PPPでみた一人当たりの相対所得の回帰係数は約0.25であった。日本の一人あたりの所得はアメリに比べて31%低いので、円は約27%「過小評価」されていると言える。

  1. 訳注:為替レートパススルーとは、為替レートが1%変化した時に輸入国の通貨で測った輸入物価の変化率を指す。 []
  2. バラッサ=サミュエルソン効果と同等。 []

Scott Sumner: 日本は成功に向けて巡航中

Scott Sumnerはベントレー大学経済学教授。マクロ経済学、経済思想史、貨幣経済学とくに大恐慌において金本位制度が果たした役割を専門とする。シカゴ大学よりPh. D. (経済学)取得。


Scott Sumner, “Japan is coasting on its success“, TheMoneyIllusion August 12, 2013.


二、三ヶ月前、私は日本の最近の政策変更が効果的ではあるが、目標である2%インフレ/3%名目成長ターゲットの実現には足りないであろうと論じた。今でもその考えは変わっていない。まずポジティブな面から見てみよう。

  1. ドル円は97円まで下がった。これはアベノミクスが市場で囁かれ始めた昨年の11月半ばの79円からすると大きな下落である。
  2. 実質成長率は第一四半期で4.1%、第二四半期で2.6%であった。残念なことに名目成長率のデータはないが、おそらく正の数字であろう(日本の名目成長率のトレンドはゼロだったわけだから正の値はグッドニュースだ)。
  3. インフレ率は徐々に上昇している(正確に言えば、デフレが収束に向かっている)。
  4. 失業率は7月に3.9%に下がっている。

次はネガティブな面。

  1. インフレ率が2%にはまだ達しそうにはない。
  2. 103円まで下がった円がここ最近の二、三週間で上昇している。
  3. 第二四半期の実質成長率は市場予想の3.6%を下回った。
  4. 日本は来春、負のサプライショックに見舞われる予定である(消費税の増税)。これによって、一見2%のターゲットを達成するように見えるが、騙されてはいけない。消費税増税のインフレ上昇への影響がなくなれば2%以下に再び戻るであろう。日本の財政の状況から、他に取れる良い手立てはない。消費税の増税は日本経済を痛めつけるであろうが、必要である。以前は増税を遅らせるべきだと考えていたが、今は歯を食いしばってやれ、と思っている。

彼らは良いスタートを切った。でももっとやるべきだ。さらなる量的緩和の拡大と円安を私は提案したい。少し効いたのなら、もっとやるべきでしょ!