時々、偶然目にする数字に足止めされてしまうことがある。先週はこの数字だった。
以下は、2018/19年のランド研究所によるものだ。
高等教育を受けていない26歳から35歳の(アメリカ人)男性のうち、60%が26歳までに逮捕されたことがあると回答した。対照的に、同年齢層の大卒男性は23%である。この数値には人種による差はほとんど見られない。
少しこの件を考えてみよう。
アメリカの若者の60%は、高等教育を受けていない。これはほぼ労働者階級と見なせるだろう。そして、この階層の人たちのほとんどは、26歳までに少なくとも一度は逮捕されたことがある。
驚くべき事実だが、この報告書の著者ジェイムズ・P・スミスは、逮捕率の割合が時代の経過と共に劇的に上昇していることを発見した。
2010年代の26~35歳のアメリカ人を、66歳以上と比較すると、26歳まででの逮捕経験は3.6倍である。全ての教育階層と人種区分で、2010年代には26~35歳のアメリカ人男性の約1/3までもが26歳までに逮捕された経験がある。これは、66歳以上の2.6倍だ。
逮捕率の上昇は、有罪判決率の上昇とも密接に連動している。
調査対象となった若年層アメリカ人の無条件有罪判決率は、時代を経るごとに上昇しており、この数値は特に女性で劇的に上昇している。すべての階層・区分において、26~35歳のアメリカ人は、調査対象の最年長の年齢層と比較して、26歳までに犯罪によって有罪判決を受ける割合が6.5倍高い。
黒人男性は、逮捕される割合が有意に高くなっている。調査対象となっている26~35歳の男性で26歳までに逮捕された経験があるのは、白人男性では23%であるのに対して、黒人男性では33%だ。しかし、白人男性は、増加率が劇的に上昇しており、逮捕率はここ数十年で3倍に跳ね上がっている。
さらに、〔こうした数値は〕、人種間の差異や教育階層とも密接に関連している。
この調査データからは、特に26~35歳の男性で、教育が人種間の逮捕率の差を説明する上で非常に大きな要因となっていることがわかる。(…)26~35歳の成年の黒人における逮捕率の高さは、教育水準の低さと相関している。また、父親の教育水準の高さと、26歳までの逮捕率や有罪判決を受ける割合の逆相関的な関係や、26歳までの逮捕経験の割合と、約半年単位での平均通学歴の逆相関的な関係も判明した。
人種間の違いで最も顕著となっているのは、逮捕歴が複数あるかどうかだ。
複数回の逮捕歴は、時代を経るとともに増加し、今や当たり前になっている。26歳~35歳の11%が、26歳までに複数回の逮捕を経験している。これは、黒人で特に顕著で、1/4以上に2回以上の逮捕歴がある。
かつては、女性の逮捕は非常にまれで、66歳以上の女性では100人に1人程度となっているが、現在では26~35歳の女性の7人に1人が、26歳までに少なくとも1度は逮捕されている。
若い頃に一度でも逮捕されると、有罪にならないとしても、多くの非常に悪い結果と繋がってしまう。レポートの著者であるジェームス・P・スミスは以下は以下の事実を発見した。
逮捕歴があると、結婚率は3.5%低下し、逮捕歴が複数になるとこの数値はさらに低下する。子供の頃に一度でも逮捕された人は、大人になってからの年間所得が〔そうでない人より〕約6,000ドル少なく、複数になるとさらに少なくなる(約13,000ドル少ない)。暴力や薬物で逮捕された人の平均年収は、約11,000ドル少なくなる。(…)26歳までで逮捕経験があると、生涯賃金は平均で18万ドル低くなっており、逮捕歴が複数回になると27万5千ドルと、さらに低下する。
逮捕原因は様々である。
逮捕理由の内、「その他軽犯罪」は、女性では31%、男性では28%だ。未成年者の逮捕の内訳を見てみると、飲酒は11~16%。暴行・強盗・窃盗を合わせた逮捕率は、男性で19%、女性で28%となっている。同様に、薬物を原因とする逮捕は、男性で9%、女性で約8%である。
しかし、こうした犯罪の急増が、犯罪行為の増加だけに起因してる可能性はほぼありえないと思われる。もうしそうだとするなら、犯罪の定義そのものに疑問を唱えねばならない。取り締まりの大幅な増加が、明らかにその一因だ。
大量の投獄処置は、アメリカ社会の犯罪化において、最も劇的で甚大な損害を与えているが、これは可視化されている刑務所人口の異常な数値に留まらない。様々な分野にも被害を与えている。
FBIは、7700万人を超えるアメリカ人を「前科持ち」だと見なしており、これはアメリカの全人口の約1/4に相当する人数である。FBIの犯罪者データベースには、大卒のアメリカ人よりも多くの人数が記録されていることになる。
アメリカの警察制度と刑事司法制度は、人的資本と人生の機会を破壊する巨大な装置と化しており、特にマイノリティとアメリカの労働者階級に被害をもたらしている。
全米州議会議員連盟は以下のように報じている。
犯罪歴のある人は、連邦法や州法で成文化されたものや、暗黙の偏見によって、免許取得が困難になる等、多くの障壁に直面している。「全米の有罪判決による付随的帰結の一覧(The National Inventory of Collateral Consequences of Conviction :NICCC)」では、犯罪歴のある個人の商業免許を規制している法律と条項を目録化している。(…)米国司法統計局の報告によると「2016年に州と準州によって処理された指紋記録2590万件のうち、44%が刑事司法目的で使用され、1462万3300件が免許・雇用・規制を目的に使用・提出された」。これら指紋記録は、機密である可能性が高い年少者記録、「未処分の逮捕者(不起訴処分ないし有罪判決が出なかった起訴案件)」、抹消または封印された記録、誤認または個人識別が間違えたまま記録された情報が含まれている可能性がある。
犯罪歴によって、人は労働市場での機会を大きく損なわれる。これは、労働市場が好調な場合においてすら失業者の固定層となってしまう。ランド研究所は、最近以下のような事実を発見している。
2017年に失業していた30~38歳の男性は、刑事司法制度に関与していた割合が高く、大多数が少なくとも一度は逮捕されている。約40%が少なくとも一度は犯罪で有罪判決を受けており、20%以上に少なくとも一度の投獄経験があった。
アメリカにおける、男女の労働市場への参加率の低下と、格差を論じるには、肥大化した刑事司法制度の異常な影響を考慮に入れねばならない。
Chartbook #173: Barred from Employment – how criminalization blights American lives.
Posted By Adam Tooze, 20 November 2022