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ブランコ・ミラノヴィッチ 「史上最も狡猾な敵」(2020年3月14日)

●Branko Milanovic, “The most insidious enemy”(globalinequality, March 14, 2020)


戦争よりも始末が悪い敵。そいつ(新型コロナウイルス)のせいで犠牲になる人の数は、戦争で犠牲になる人の数よりも少ないとしてもだ。

戦争よりも始末が悪いのはなぜか? 戦争では、線引きがはっきりとしているからだ。微塵も疑ったことがない隣人が敵になる。戦争では、そういうことがあり得る。しかし、両親が敵になることはない。兄弟姉妹が敵になることはない。我が子が敵になることはない。配偶者が敵になることはない。

そいつは、他人を愛する人を襲う。

そいつは、友を欲する人の命を奪う。世話好きの命を奪う。団欒(だんらん)好きの命を奪う。

そいつから逃れて平和に生きるためには、この世界から自分を切り離すしかない。孤独で氷のように冷たい世界に閉じこもって、そこから二度と出てこないでいられるだけの強い意志と冷淡さを持つしかない。

そいつの「目的」は、社会を破壊すること。

そいつの「目的」は、あなたを生かすために命も惜しまない人にあなたの命を奪わせること。

ブランコ・ミラノヴィッチ 「『労働の配分』と感染症」(2020年3月21日)

●Branko Milanovic, “Four types of labor and the epidemic”(globalinequality, March 21, 2020)


政策当局者にしても、一般大衆にしても、株価だの、会社の財政状況(資金繰り)だのといった「金融指標」に視線を注いでいるが、それは間違っている。フォーリン・アフェアーズ誌に寄稿したばかりの記事で、そのように述べた。株価を維持したり、会社の資金繰りを支援したりすることは、重要じゃないと言いたいわけではない。経済活動に深刻な混乱が生じているような状況では、戦争に類似した危機に見舞われている最中では、(第二次世界大戦中の米国も含めて、過去のあらゆる戦争時にそうであったように)「物理的な数量」にこそ目を向けるべきなのだ。「金融指標」への注目は、そのことから目を逸らせるだけでしかないのだ。

現下の問題を「労働の配分」という観点から考察してみるとしよう。とりあえず、世にある労働(職業)を以下の4つのタイプにおおまかに分類するとしよう。(A) 医者をはじめとした医療関係者, (B) オンライン小売業界で働く従業員, (C) 物理的な財の生産に従事する人々(工場労働者など), (D) 専門職(教師、エンジニア、デザイナーなど)。それぞれの部門の就業者数は、需要(求人)と供給(求職)が釣り合う水準に決まってくる。

「感染症の流行」のような甚大なショックは、部門別の労働需要にアンバランスな(不均一な)影響を及ぼすことになる。危機に見舞われた後の新しい状況では、それまでの「労働の配分」は理想的な配分から大きくかけ離れてしまうことになるのだ。 感染症の流行に伴って、(A) 部門における労働需要(求人数)は急激に増える。(B) 部門における労働需要も増えるだろう。外出が控えられて、ネットショッピングが増えるだろうからだ。その一方で、(C) 部門における労働需要は減る。(D) 部門に関しては、労働需要に大きな変化は無いだろう。感染症に特有の事象も考慮せねばならない。(B) 、(C)、(D) の三部門での経済活動が継続されたら、感染者が増える可能性が高いのだ(感染拡大の多くが職場内での感染というかたちをとるとすれば、だ)。そうなれば、(A) 部門で働く人々にさらに負担がかかることになる。あまりに忙しくなりすぎて、過労死で亡くなる人も出てくることだろう。ところで、(B) 、(C)、(D) の三部門の活動が完全に停止されたらどうなるだろうか。(B) 、(C)、(D) の三部門で働く人々全員に自宅待機が命じられたらどうなるだろうか。新たな感染者はきっと減るだろう。「隔離」の狙いも同じところにある。 [Read more…]

アレックス・タバロック「マスクが足りない? 市場にまかせよう」(2020年3月23日)

[Alex Tabarrok, “Let the Markets Work,” Marginal Revolution, March 23, 2020]

多くの人が大統領は「国防生産法」(Defense Productions Act; DPA) を用いるべきだって言っているけれど、現実には、国防生産法はとりたてて有用でもないし必要不可欠でもない。各種の市場はすでに急速かつ洗練されたかたちでリソースの再配分を行なっている。品物の不足は、その大部分が一時的な需要の増加によるものだ。いま、店頭の棚にはふたたび品物が揃いつつある。食品は潤沢にある。手指の消毒剤と手洗い用石鹸は、店頭まで届けられつつあるか、すでに並べられている。トイレットペーパーが品切れになることはない。CDC と FDA が認可したことで、検査キットは増産中だ。
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カムルル・アシュラフ、オデッド・ガロー「文化的同化、文化伝播、諸国民の富の起源」(2007年9月13日)

[Quamrul Ashraf, Oded Galor, “Cultural assimilation, cultural diffusion and the origin of the wealth of nations,” VoxEU 13 September 2007]

一千年前、アジアが先進地域であった。なぜ現在ではヨーロッパの方が豊かなのだろうか。アジアはヨーロッパに比べて地理的に文化伝播に対してあまり脆弱ではなく、それゆえ文化的により高い同化の程度やより低い文化伝播、より多くの社会特殊的人的資本の蓄積から恩恵を受けていた。これは農業の段階では強みであった。しかしながら、より高度の文化的な硬直性は新しい技術のパラダイムに適応する能力を減少させ、その結果工業化を遅らせた。

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サイモン・エベネット「汝の隣人を愛せよ:パンデミックにおける医療物資の輸出規制」

Simon Evenett “Sickening thy neighbour: Export restraints on medical supplies during a pandemicVOXEU, 19 March 2020

多くの国際サプライチェーンにおける中国の中心性から,世界の貿易フローに対する新型コロナウイルスの影響については大きな関心が払われている。さらに,貿易政策のやっかいな一面が今や明るみに出てきている。本稿では,24か国が最近になって医療物資に輸出規制を課したというGlobal Trade Alertによる発見の紹介と評価を行う。

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タイラー・コーエン「コロナウイルスによって進歩派左翼は死んだ」

Tyler Cowen  “The Coronavirus Killed the Progressive LeftMarginal Revolution, March 20, 2020

タイトルは僕の最新のBloombergコラムのトピックから。もちろん釣りタイトルなんだけど,糸の先に付いてる餌は真実だ。以下はそこからちょこちょこ抜粋したもの。

― 進歩派左翼の平等主義もまた,おぼろげな記憶のようになるだろう。エリートは自分に害がないときであればたいてい富の再分配を支持するし,実際にカリフォルニアや北東部の海岸沿いの金持ちエリートは進歩主義運動の屋台骨となっている。しかし,こうした人々が自身の生活や職業が脅かされていると感じる,あるいは彼らの子供たちの未来が突如として安泰ではないように思われてしまうと,再分配はそんな魅力的な理想ではなくなってしまうだろう…

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ロバート・バロー他「過去のインフルエンザ・パンデミックに照らした新型コロナウイルス危機」

Robert Barro, Jose Ursua, Joanna Weng ”Coronavirus meets the Great Influenza Pandemic”, VOXEU, 20 March 2020

新型コロナウイルスによる被害の最悪のシナリオとして妥当なものはどんなものだろうか。本稿では,1918年から1920年にかけてのインフルエンザ・パンデミックからの教訓を示す。43か国のデータから分かるのは,インフルエンザに関連する当時の死者数は3,900万人,世界人口の2%に及び,これを現在の人口に当てはめると1億5,000万人になる。第一次世界大戦による影響を取り除いた場合でも,GDP及び消費は平均的な国でそれぞれ6%と8%減少し,株式と短期国債による実質収益も有意に下落した。大規模な潜在的損失が人命と経済活動に見込まれることは,被害を抑えるための現在の政策を正当化するものであるが,そこには死者と失われる産出との間の困難なトレードオフが存在する。このトレードオフについて議論することが必要だが,これまでのところそうした議論がなされていないのだ。

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ボールドウィン & ディ=マウロ「コロナウイルス経済危機の軽減:序文」(2020年3月18日)

[Richard Baldwin and Beatrice Weder di Mauro, “Introduction,” in Mitigating the COVID Economic Crisis: Act Fast and Do Whatever It Takes. VoxEU, 2020]

訳者の註記: この記事は,VoxEU が出版した電子書籍『コロナウイルス経済危機の軽減:なすべきことは迅速になんでもすべし』の序文です.同書の PDF は,VoxEU のウェブサイトで無料で公開・配布されており,アカウントをつくれば誰でも閲覧できます.同書に収録されている論文を日本語で要約した文書は,こちらで利用できます(山形浩生さん作成)


2020年3月9日に,COVID-19 に関する我々の初の VoxEU/CEPR 電子書籍『コロナウイルス感染拡大時の経済学』を公開した〔序文の日本語訳〕.その後,世界は異様な様相を呈している.COVID-19 の感染事例と死者数は全世界で急増している.いまやヨーロッパはパンデミックの中心地となっている.そればかりか,合衆国も,巨大な人口(3億3000万人)をかかえている上に〔大統領や連邦政府に〕国の指導力が欠如しているために,次のパンデミック中心地となりつつある.株式市場の変動は激しく,1日に 5%〜10% も動いている.ときに値上がりはするものの,その変動の大半は下落だ.他の金融市場も同様に急激に変動している.ヨーロッパ諸国の政府は,他の状況下であれば行き過ぎに思われるだろう公衆衛生上のさまざまな封じ込め策を強制的に敷いている.合衆国では,〔大統領・連邦政府の〕指導力が空白ななかで,各地の都市や州どうしの連携も一貫性もなく,さまざまな封じ込め政策が広まっている.だが,なにもかもが不確実さを増しているわけではない.
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リチャード・ボールドウィン「新型コロナ暴動シナリオ:格差と感染の混合爆弾」

Richard Baldwin “The COVID-19 upheaval scenario: Inequality and pandemic make an explosive mixVOXEU, 15 March 2020

医療専門家の推測が示唆するところでは,アメリカの病院の収容能力はイタリアと同程度の新型コロナ症例の急増に対処するに足りていない。患者の選別をしなければならない状況にアメリカの病院が陥るのを避けることは,非常に多くのアメリカ人が医療へのアクセスに問題があり,数十年に及ぶ経済的低迷と格差の拡大に由来する激怒の兆候,幅広く銃が所有されていることを考えれば,とりわけ重要だ。そのためには,注意深すぎるほどに注意し,即時かつ大規模に社会的距離をとることが必要だ。

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ダニ・ロドリック 「市場と国家は補完的」(2007年6月25日)

●Dani Rodrik, “Markets and states–and the survey says…”(Dani Rodrik’s weblog, June 25, 2007)


リスク回避的な(リスクを嫌う)人ほど、自由貿易よりも保護主義(貿易の制限)を好む傾向にある。その人がどこに住んでいようと、それは変わらない。しかし、リスク回避的な人が(政府支出の対GDP比で測って)政府規模の大きな国に住んでいると、保護主義に傾斜する(保護主義を好む)程度は弱まる。アンナ・マリア・メイダケヴィン・オルークリチャード・シノットの三人の共著論文1で、そのような目を見張る発見が報告されている(ちなみに、アンナ・マリア・メイダは、私の教え子であり、一緒に論文を書いた経験もある)。彼らの論文では、ヨーロッパおよびアジアの国々(計18カ国)で実施された聞き取り調査の結果が利用されている。リスク回避的な人が政府規模の大きな国に住んでいると、保護主義に傾斜する程度が弱まるのはなぜなのか? その理由は、政府規模が大きな国に住んでいる人は、(政府が提供する手厚いセーフティーネットのおかげで)グローバル化がもたらすリスクから守られていると感じるためではないか、と三人は推測している。そのことを裏付けるように、聞き取り調査の対象となっている国の中で、リスク回避的な態度が保護主義に結び付く程度が一番弱かったのは(政府規模が一番大きい)スウェーデンという結果になっている。 [Read more…]

  1. 訳注;この論文の概要については、本サイトで訳出されている次の記事を参照されたい。 ●アンナ・マリア・メイダ&ケヴィン・オルーク 「大きな政府とグローバリゼーション;政府と市場の補完的な関係」(2020年3月14日) []