ポール・クルーグマンによると、サンベルトが発展したのはエアコンのおかげらしい。
(アメリカ南部および南西部の温暖な気候の)サンベルトの発展は、エアコンの登場が契機になっていると概ね(おおむね)理解することができる。エアコンのおかげで、湿気が多くて蒸し暑い夏もしのげるようになり、冬場でも暖かいこの地域の魅力が増したのだ。とは言え、ゆっくりとした緩慢な変化だった。立地の決定には、慣性がかなり働くからだ。
こちらの記事でも同様の考えが述べられている。
1960年頃に人口動態の面で転換点が訪れている。南部の人口が総人口に占める割合は一貫して下落し続けていたが、1960年頃から一貫して上昇する方向に転じているのだ。・・・(略)・・・この転換点は、エアコンが登場したタイミングと合致している。サンベルトにある州の方が北東部にある州よりも成長率が高かった理由を誰かに尋ねられたら、アーサー・ラッファーのおかげじゃなくて、(エアコンを発明した)ウィリス・キャリアのおかげなんだよって答えるようにするといい。
直感に訴える説明ではあるが、突っ込みどころがあるのに加えて、近年における国内の人口移動のパターンをうまく説明できないという難点も抱えている。まずはじめに、どのへんに突っ込みどころがあるかに触れておくと、南部で経済成長が加速し出したのは、1930年代~1940年代なのだ。
南部の「離陸」は、20世紀のアメリカ史における偉大な物語の一つである。南北戦争が終わってから第二次世界大戦に至るまでの80年間にわたって、南部は経済面で立ち遅れていて、国内の他の地域から孤立していた。20世紀初頭までにアメリカという国を世界一の工業国にまで押し上げた他の地域の目覚ましい発展ぶりと比べると、著しい対照をなしている。しかしながら、1930年代~1940年代に何らかの劇的な変化が起きて、南部も「貧困の罠」から遂に抜け出せたのだった。近代化が始まって、1980年までに経済面で他の地域に追いついたのだ。ところで、1930年代~1940年代に劇的な変化が起きたのは、なぜなのだろうか?
この劇的な変化を説明しようとする試みは、たくさんある。ギャビン・ライト――Gavin Wright (1997)――は、労働市場の開放にその原因を求めている。ミシェル・コノリー――Connolly (2004)――は、人的資本の蓄積に着目している。ジェームズ・コブ――Cobb (1982) ――は、産業政策に目を向けている。ティモシー・ベスリーら――Besley et al. (2005) ――によると、政治競争(政党間の競争)が激化したおかげなんじゃないかという。ホイト・ブレイクリー――Bleakley (2007)―― によると、鉤虫感染症が撲滅されたのが重要な役割を果たしているという。グレイザー&トビオの二人――Glaeser&Tobio (2008) ――は、建築規制に目をつけている。フレッド・ベイトマンら――Bateman et al (2009)――によると、1930年代~1940年代に実施された大規模な公共投資が南部の「ビッグ・プッシュ」を後押ししたという。すなわち、南部の発展を支えた要因は、一つだけに限られない可能性があるのだ。エアコンだけじゃなくて、その他にも数多くの要因が関わっている可能性があるのだ。
南部の発展の原因をエアコンに求める説が抱えている問題は、他にもある。近年における国内の人口移動のパターンに目を向けると、寒い地域だけでなく他の温暖な地域からも南部にヒトが流れ込んでいるのだ。例えば、国勢調査局が作成している以下の図に示されているように、1995年~2000年の期間にカリフォルニア州から他の温暖な州――南部の多くの州も含む――にヒトが流れ込んでいるのだ。
同じ現象をもう少し細かく跡付けているのが以下の3つの図だ(出典はこちら)。2008年~2012年の期間を対象に、テキサス州を代表する3つの郡――ハリス郡(郡庁所在地はヒューストン市)、トラヴィス郡(郡庁所在地はオースティン市)、ダラス郡(郡庁所在地はダラス市)――への純転入者数が示されている。いずれの郡に関しても、同じように温暖な南カリフォルニアからの純転入者の数がプラスになっている――南カリフォルニアから転入してくる人の数が、南カリフォルニアに転出する人の数を上回っている――のだ。
エアコンが近年に至るまで(南部の発展を支える上で)一貫してずっと重要な役割を果たしてきたかというと、そんなわけはないのだ。先に指摘したその他の要因とともに、南部が「離陸」するのには貢献したかもしれないけれど。南部の発展の物語は、エアコンだけで説明し尽くせるような単純な筋書きではなく、もっとずっと入り組んでいるのだ。
〔原文:“Do Air Conditioners Explain the Rise of the South?”(Macro Musings Blog, March 28, 2015)〕