アレックス・タバロック 「人間以外の動物(アニマル)も『アニマルスピリッツ』に突き動かされるか?」(2010年1月29日)

●Alex Tabarrok, “Do Animals have Animal Spirits?”(Marginal Revolution, January 29, 2010)


自然界で「実物的景気循環」(リアルビジネスサイクル)がどんな感じで起こるかを想像するのは、いとも容易(たやす)い。例えば、色んな生き物がウヨウヨたむろしている池を思い浮かべてみてほしい。ある時、池に浮かぶスイレンが寄生虫の魔の手にかかって、すべて枯れてしまったとしよう。困るのはカエルたちだ。大事な足場(スイレン)が無くなってしまって、ハエを捕まえられなくなるのだ。(カエルに食べられずに済んで)増える一方のハエたちに、(ハエを捕まえられずに)やせ細る一方のカエルたち。(淡水魚の)ノーザンパイクも獲物のカエルたちがやせ細って、困り果てるばかり。・・・と、まあこんな感じだ。「池経済」全体を包括した「池国」内総生態(GPB;Gross Pond Biota)を計測したら、「池経済」の「景気」循環を跡付けることができるようになるだろうし、産業別(カエル部門、ハエ部門等々)の付加価値も計測したら、当初のショック(寄生虫の襲来)がそれぞれの部門にどのように波及していくか――当初のショックが引き起こす連鎖反応――を跡付けることもできるようになるだろう(何だかベクトル自己回帰モデルみたいだ)。

「池経済」でケインジアン流の景気循環が引き起こされる可能性はあるだろうか? あるいは、こう言い換えてもいい。「アニマルスピリッツ」は、自然界における景気循環の源泉になり得るだろうか? 「実物的景気循環」なら想像しやすいが、・・・う~む。(悲観的なムードが個体から別の個体へとたちどころに伝染するのに伴って)「流動性への逃避」だとか「投資の冷え込み」だとかいう現象が起きるためには、「お金」(貨幣)ないしはそれに似た何かが必要になるだろう。群集(同調、模倣)行動(herd behavior)が(ロジャー・ファーマーが説いているようなかたちの)「コーディネーションの失敗」型の景気循環を引き起こす可能性はもしかしたらあるかもしれない。生物学の今の主流の考えだと――あくまでも私なりに読んで学んだ範囲での理解になるが――、(それぞれの個体が互いの行動を模倣し合う)群集行動は集団全体にとって望ましいものとして理解されているようだが、 そうじゃないケースもあるかもしれない。(単細胞生物の)粘菌は、過酷な環境にさらされると、自己組織化して寄り集まる(群体を形成する)ことが知られている(邦訳『創発:蟻・脳・都市・ソフトウェアの自己組織化ネットワーク』)が、そういう自己組織化のプロセスが外からのショックに一切晒されずに(あるいは、ちょっとしたショックに晒されるだけでも)突然始まる可能性はあるんだろうか? これまでとは逆の話になるが、人間界における景気循環をうまく説明できるようなモデルの候補を自然界の中から見つけ出すことはできるだろうか? 「アニマルスピリッツ」に突き動かされるのは人間だけかというと、それは何だか違う気がする。生物学者と経済学者が協力できそうな余地は広そうだ。

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