タイラー・コーエン 「冬になると気分が塞ぎ込みがちになる?」(2009年2月3日)

●Tyler Cowen, “Do people get more depressed in winter?”(Marginal Revolution, February 3, 2009)


冬になると、他のどの季節にも増して気分が塞ぎ込みがちになるという人もいるにはいるが、一般的な傾向とまでは言えないようだ。アンドリュー・サリバン(Andrew Sullivan)経由で知ったのだが、ベン・ゴールドエイカー(Ben Goldacre)が次のように語っている

1838年にジャン=エスキロール(Jean Etienne Dominique Esquirol)は、1年のうちで自殺が最も多く観察される季節は春と初夏のようだというコメントを残している。ダグラス・スウィンスコー(Douglas Swinscow)が(イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドをひっくるめた)イギリス全体を対象に1921年から1948年までのデータを調査したところ、同じく自殺は春と初夏に多くなる傾向にあることが確認されている。つまりは、「ウィンター・ブルース」(冬になると気分が塞ぎ込みがちになって、その影響で自殺も多くなる)なんていうのは嘘っぱちなわけだ。イギリス全体を対象に1982年から1996年までのデータを調査しているこちらの(2000年に実施された)研究によると、春と初夏に自殺が多くなるというパターンも消滅しかけている(特定の季節に自殺が抜きん出て多くなるという傾向は見られなくなってきている)ということだ。

イギリス以外ではどうなっているだろうか? アメリカのノースカロライナ州を対象に1974年に実施された研究では、1965年から1971年までの間に発生したすべての自殺(計3672件)に加えて、同じ期間に退役軍人向けの精神科に入院した患者(計3258件)のデータが分析されているが、自殺者の数にしても、精神科への入院患者の数にしても、季節ごとのはっきりとしたパターンというのは見出されていない。カナダのオンタリオ州を対象に1976年に実施された研究では、1年のうちで自殺者数がピークに達するのは春と秋で、うつ病での入院患者数がピークに達するのも春と秋との結果が得られている。オーストラリアを対象に2003年に実施された研究では、1年のうちで自殺が最も多いのは夏との結果が得られている。「ブルー・マンデー」(1月の第3月曜日は、1年で一番憂鬱な日)というのは根拠がない話なのだ。

季節の変化が世間一般の人々の気分(ムード)にどんな影響を及ぼすのかを知りたいという意見もあるかもしれない。806名の平均的なフィンランド人男性を対象に1986年に実施された研究によると、気分が最も塞ぎ込みがちになるのは夏との結果が得られている。うつ症状の訴えが最も多くなる季節は、冬だとの結論を得ている研究もあれば(Nayyar and Cochrane, 1996; Murase et al., 1995)、いや春だという結論を得ている研究もある(Näyhä et al., 1994)。いや夏だという結論を得ている研究もある(Ozaki et al., 1995)。つい先月(2008年12月)に公にされたばかりの研究では、双極性障害を抱える360名の患者にその日の気分がどうかを毎日自己申告してもらった結果が分析されているが、気分の変化と季節の変化との間には何の関係も見出されていない。

他にどんなデータを探ればいいだろう? イギリスの一般開業医(GP)による抗うつ剤の処方について調査した1986年の研究によると、抗うつ剤の処方件数がピークに達するのは春という結果が得られている。少し前の1981年の研究(Williams and Dunn 1981)では、1969年から1975年までの期間を対象にして抗うつ剤の処方について調査されているが、抗うつ剤の処方件数がピークに達するのは、2月、5月、10月との結果が得られている。一般開業医の診察を受けたうつ病の患者を調査した1984年の研究によると、うつ病で診察を受けにやって来る患者の数がピークに達するのは、5月~6月および11月~1月だという(何とも奇妙なことに、骨関節炎で診察を受けにやって来る患者の数も似たようなパターンを辿っている [1] 訳注;骨関節炎で診察を受けにやって来る患者の数は、4月~5月および9月~11月にピークに達する。)。

ゴールドエイカーに敬礼! (デタラメ科学の糾弾を使命とする)ゴールドエイカーについては、過去にこちらのエントリーで取り上げたことがある。あわせて参照されたい。

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1 訳注;骨関節炎で診察を受けにやって来る患者の数は、4月~5月および9月~11月にピークに達する。
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