少し前のエントリーのコメント欄で、スティーヴン・クラーク(Steven Clarke)に入門レベルの経済学の教科書で何かお薦めがないか尋ねられた。私なりの考えを以下に述べさせてもらうとしよう。読者で何か言いたいことがあるようなら、コメントしてもらえたらと思う。
クラークは、サミュエルソンの『経済学』を読み始めているとのこと。いい選択だと思う。古典だし、そのまま読み続けるのは結構なことだと思う。
入門レベルの教科書で今一番売れているのは、グレゴリー・マンキュー(Greg Mankiw)の『Principles of Economics』(邦訳『マンキュー入門経済学(第3版) 』)だ。その売り上げは、アメリカの市場(入門レベルの教科書市場)の7割を占める勢いらしい。
イギリスの学部の(経済学入門の)講義でマンキューの以外で使われることが多い教科書は、ジョン・スローマン(John Sloman)の『Economics』、リプシー(Richard Lipsey)&クリスタル(Alec Chrystal)の『Economics』、デビッド・ベッグ(David Begg)の『Economics』だ。
プレストン・マカフィー(Preston McAfee)の『Introduction to Economic Analysis』は、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスで公開されている――すなわち、無料でダウンロードできる――。私は未読だが、かなり刺激的そうな感じだ。無料で読めるし、他と比べてみるためにチェックしてみる価値はありそうだ。
経済学の教科書が抱えている難点は、経済学者の間で間違いと了解されている内容がちょこちょこ盛り込まれていることだ。この点については、かの偉大なるジョン・サットン(John Sutton)が長らく不満を漏らしているし、スティーヴ・キーン(Steve Keen)が『Debunking Economics』(未邦訳「主流派経済学の嘘を暴く」)で真正面から取り上げている。そこで、教科書だけ読んで済ますのではなく、「ポップ経済学」本も何冊か手に取るようにするといいだろう。「ポップ経済学」本では、テクニカルな細かい話はすっ飛ばして、経済学者の実際の仕事ぶりが説明されている。「ポップ経済学」本の中での私のお気に入りと言えば、ティム・ハーフォード(Tim Harford)の『The Undercover Economist』(邦訳『まっとうな経済学』)だ。拙著の『Sex, Drugs and Economics』(pdf)も質の面では負けていない。何より無料で読める。内容的にちょっと古びてはいるけれど。『Freakonomics』(邦訳『ヤバい経済学』)は、そこまで好きじゃない。良書ではあるが、ベッカー(Gary Becker)流の経済学をあまりに極端なまでに推し進めてしまっている。ベッカー流の経済学では、犯罪、出産、結婚にまつわる決定が新しい靴を買うかどうかの決定と同列に並べて分析される。そうするおかげで得られる洞察もあるだろう。しかしながら、物事の全体像を捉え切れるかというと、そうはいかないのだ。
最後になるが、 Tutor2u社のジェフ・ライリー(Geoff Riley)が大学で経済学を学ぶ学生の視野を広げるのを主たる目的として実に見事な文献リストをまとめているので、それも参考にするといいだろう。
〔原文:“Economics Textbooks”(The Enlightened Economist, June 30, 2013)〕