ニコロ・フラッカロリ他「フェイクニュースが政党の投票に与える影響:イタリアにおける自然実験からの証拠」(2019年7月11日)

フェイクニュースへの曝露から因果効果を測定することは決して容易ではない。単純な相関関係だけでは、反エスタブリッシュメント政党を支持することへの影響を測定するのは不十分だからだ。実際、人はフェイクニュースに曝露して投票行動を変化させるのか、それともあらかじめ抱いていた政治信念から「誤情報のバブル」に流入するかを判別するのは難しい。

「フェイクニュース」が、ポピュリスト政党や反エスタブリッシュメント政党に有利になるように偏向していることは否定しがたい事実だ。政治色が強く誤情報がネット上で拡散し続けている状況において、フェイクニュースの拡散が最近の選挙結果に影響を与え、ポピュリスト政党の台頭の原因になっているのではないかと多くの人が疑問を抱くのも当然である。本稿は、イタリアで行われた自然実験の証拠を検証し、2018年の総選挙において、フェイクニュースが2018年の総選挙における政治的選好に、分かりづらい形で影響を与えた可能性について論じる。


この10年、公共機関や伝統的メディアによる情報源への信頼の低下は、並行して進んできた。ポピュリスト政党や反エスタブリッシュメント政党の選挙での成功は、情報消費におけるラディカルな変化を伴っている。実際、多くの研究者が、誤情報の消費と「反エスタブリッシュメント」言説への支持との間に関連を見出してきた。アメリカでは、Allcott & Gentzkow(2017)やGuess(2018)が論じているように、トランプ支持者は誤情報に晒され、それを信じる傾向が強かった。イタリアでは、経済紙『Il Sole 24 Ore』の最近のレポートでも同様の結果が再確認されている。 [1]Il Sole 24 Ore (2018), “Fake news: quando le bugie hanno le gambe lunghe”, 4 May. このレポートでは、いわゆるフェイクニュースを信じ・拡散する可能性は、〔ポピュリズム極左政党〕五つ星運動と〔ポピュリズム極右政党〕同盟の支持者の方が高いことが示されている、イタリアでは、フェイクニュースの消費がポピュリズムと結びついてだけではなく、誤情報の圧倒的多数の内容が明白に反エスタブリッシュメント的バイアスを示していることも、Gigliettoら(2018)が明らかにしている。

しかし、フェイクニュースへの曝露から因果効果を測定することは決して容易ではない。単純な相関関係だけでは、反エスタブリッシュメント政党を支持することへの影響を測定するのは不十分だからだ。実際、人はフェイクニュースに曝露して投票行動を変化させるのか、それともあらかじめ抱いていた政治信念から「誤情報のバブル」に流入するのかを判別するのは難しい。

こうした複雑な「逆の因果効果」問題を解きほぐすには、誤情報への曝露をランダムに割り当てる必要がある。理想的なランダム化実験が可能なら、同じ選挙で投票する個人を、無作為に2つの異なる(かつ隔離された)サブグループに分け、一方のグループには正規の情報源にだけにアクセスできるようにし、もう一方のグループをフェイクニュースに曝露させるという方法が取ることができる。

この点において、イタリアの状況は、理想的な準自然実験を提供してくれており、因果交絡因子なしにこの関係を研究することができる。我々は最近の論文(Cantarella et al. 2019)で、イタリアのトレンティーノ=アルト・アディジェ/南チロル自治州を分析対象とした。この地域はオーストリア国境に位置しており、相当規模のドイツ語を話す言語的少数派が居住しており、ある程度の言語的な分離を特徴としている。この地域には、イタリア語とドイツ語という2つのメディア市場が存在し、〔イタリア語・ドイツ語の〕バイリンガル主義は特に影響力を持って普及していない(Ebner 2016)。

研究アイデアとしたのは、〔トレンティーノ=アルト・アディジェ/南チロル自治州という〕2つの領域間での言語的差異を、誤情報への曝露おける変化度合いの外生要因として利用することである。まず我々は、事実として、この地域のドイツ語コミュニティは、経済的・人口統計的な条件面でイタリア語コミュニティと比較可能である一方で、イタリア政治に関するフェイクニュースへの曝露が制限されている特異なフィルターバブルに晒されていると想定する。この仮定は、フェイクニュース「拡散者」の動機についてのいくつかの考察によって正当化することができる。つまり、イタリア政治についての誤情報をドイツ語で拡散することは――このコミュニティの規模が小さいことをも踏まえると――選挙結果を影響を与えたい、あるいは広告収入を得たいと考えている拡散者にとって、割に合わない選択と考えるのが合理的だからだ。

図1:言語グループ別のトレンティーノ=アルト・アディジェ/南チロル自治州におけるポピュリスト政党のシェアと成長
注:各自治体の円のサイズは、2つの期間における平均有権者数を示している。ポピュリスト・スコアは事項で説明するテキストマイニング手法を用いて算出している。

ポピュリストのレトリックを測定するためのテキスト分析アプローチ

フェイクニュースへの曝露が、ポピュリスト政党への選挙支持に影響を与えるかどうかを把握するためには、客観的に定義できる「ポピュリスト」政党を識別する必要がある。

ポピュリズムは様々に解釈されているが、我々は共通する2つの特徴があると仮定した。「反エリート」アジェンダと、「感情を喚起させるコミュニケーションスタイル」の使用である。過去の2回のイタリア総選挙においてトレンティーノ=アルト・アディジェ/南チロル自治州で候補者を立てた政党とその指導者が2013年と2018年の選挙期間中にFacebookに公開した全投稿を我々は収集した。

その後、テキスト分析を用いて、反体制的な釣り言葉に関する23のキーワード(例えば 「カースト」 や 「恥」など)が各投稿内でどれだけの相対頻度で用いられているかを測定し、さらに感嘆符の数も計測した。得られたスコアとその時間的変化は図2に示している。これらのデータから、〔極左政党〕五つ星運動と〔極右政党〕同盟のソーシャルメディア上のコミュニケーションが顕著にポピュリスト的な性格を持つことだけでなく、その強度が時間とともに大きく変化してきたことも明らかになった。

図2:2013年および2018年の選挙運動期間中の政党・党首によるSNS投稿のテキスト分析スコア
注:左側の図はポピュリスト的語彙集合(populist text-bag)から得られたスコアを示し、右側の図は同じスコアをテキスト中の感嘆符の頻度で算出したものである。灰色で示された政党は、2回の選挙のうちいずれか一方にしか参加していない政党である。赤の破線は、その選挙ごとの平均値を示している。

言語的フィルターバブルと自然実験

さらに分析を複雑にしているのは、言語集団間で投票行動が異なるという点である。南チロル人民党――カトリック系の包括政党であり、我々の基準では特にポピュリスト的ではない――は、ドイツ語話者の間では一貫して最も支持を集める政党であることが実証されている。そのため、過去の選挙結果を統制しない場合、我々の推計は極端な上方バイアスに陥ることになる。この問題に対処するため、我々は差の差分析を用い、2013年と2018年の選挙における両言語集団間の投票行動の変化を統制した。

次に、トレンティーノ=アルト・アディジェ/南チロル自治州から、2013年と2018年の選挙結果、言語集団、インターネット接続状況、所得、人口統計に関する自治体レベルのデータを収集し、欠落変数バイアスを統制するために、ポピュリスト・スコアを自治体単位で集計した。さらに、Facebook Audience Insight Toolsから得られる公開情報を用いて、各自治体においてフェイクニュースを拡散する Facebookのページ(ファクトチェック系ブログ「Butac.it」と「Bufale.net」が作成した「ブラックリスト」として特定)に付けられた「いいね」の数の指標も構築した。

通常最小二乗法(OLS)による推計(論文の表3参照)では、2018年の選挙において、イタリア語話者集団の投票行動に正の統計的に有意な影響を与えていることが示された。先行するOLSモデル(表2)でも、ポピュリズム的選好と誤情報への曝露との間に同様の相関が確認されており、先行研究で指摘されてきた知見を裏付ける結果となった。第一段階回帰分析でも、フェイクニュースへの曝露の強度がイタリア語話者の自治体でより高かったことが確認された。しかしながら、操作変数法(IV)による推計では、2018年におけるフェイクニュース曝露係数は統計的にゼロと有意差がなく、フェイクニュースがポピュリスト政党の台頭に寄与したとは言えないことを示唆している

言語的フィルターバブルが明らかに投票に影響を与えていることを考えると、これらの結果は、一見すると直観に反するように思えるかもしれない。これらの数値を理解するためには、誤情報への曝露に関する局所平均処置効果(LATE)を見る必要がある。操作変数(IV)を用いた設定では、実質的に、誤情報に曝露していたイタリア語話者の有権者と、曝露していなかったドイツ語話者の有権者を比較していることになる。これは、図1が示唆しているように、ポピュリスト的選好が最も伸びたイタリア語話者の農村地域が、相対的には誤情報への曝露が低かった地域でもあったことを意味する。イタリア語話者集団に対する曝露の度合いが大きくなるほど、誤情報の実際の効果がより明確に現れる。また追加の検証として、2013年から2018年にかけてのブロードバンド接続の変化を用いて誤情報曝露を予測する代替的な操作変数を用いても、これらの推計結果は頑健であった。

フェイクニュースの真の役割

我々の研究結果は、2018年のポピュリスト政党の成功において、フェイクニュースの拡散が強い影響を与えたとする説を否定し、むしろ有権者が誤情報バブルに自己選択的に入り込むという仮説を支持している。つまり、有権者がフェイクニュースを消費するのは、ポピュリスト政党のプラットフォームを事前に選好しているからであり、フェイクニュースを消費するからポピュリスト政党を選好するようになるのではない。これは、個人がフェイクニュースに曝露するのは、誤情報バブルへの流入を自ら選択することに完全に規定されていることを意味している。つまり、投票行動とフェイクニュースの因果経路は一方向――個人が誤情報に曝露するのは、事前の政治的立ち位置によるものであることを示している。

これは、誤情報が拡散しても、危険性や問題性がないという意味ではなく、投票行動におけるポピュリスト的な転換の原因は別にあるということを示しているに過ぎない。研究者や政策立案者は、むしろ誤情報バブルにアクセスすることを誘導する社会経済的決定要因に着目しなければならない。言語グループやブロードバンド普及率を条件とした投票行動の差が未だ見られることは、SNS上の「エコーチェンバー」(Sunstein 2018がさらに発展させた概念)が最終的な選好決定に役割を果たした可能性を示唆している。この意味で、フェイクニュースはむしろ、有権者集団内部で共有されるナラティブの具現化であり、それは確証バイアスやSNSエコーチェンバーの個人最適化によってさらに強化されるのである

研究結果は分析した地域において妥当ではあるが、フェイクニュースの効果は他の地域では異なるかもしれない。それでも我々は、真実と認識されたフェイクニュースが持つ限界的効果は、事前の選好に合致する「真実の情報」が持つ効果よりも小さいと考えている。個人最適化されたフィルターバブルが存在する状況では、選好が事実を規定するのであって、その逆ではない。SNSは、利用者が信じたい情報を届けるという役割を果たしているに過ぎない。

参考文献
Allcott, H, and M Gentzkow (2017), “Social media and fake news in the 2016 election”, Journal of Economic Perspectives 31(2): 211–236.
Cantarella, M, F, Nicolò and R G Volpe (2019), “Does fake news affect voting behaviour?”, DEMB Working Paper Series 146.
Ebner, C V (2016), “The long way to bilingualism: The peculiar case of multilingual South Tyrol”, International Journal for 21st Century Education 3(2): 25.
Giglietto, F, L Iannelli, L Rossi, A Valeriani, N Righetti, F Carabini, G Marino, S Usai and E Zurovac (2018), “Mapping Italian news media political coverage in the lead-up of 2018 general election”, SSRN.
Guess, A, B Nyhan and J Reifler (2018), “Selective exposure to misinformation: Evidence from the consumption of fake news during the 2016 US presidential campaign”, European Research Council 9.
Sunstein, C R (2018), #Republic: Divided democracy in the age of social media, Princeton: Princeton University Press.

著者
ニコロ・フラッカロリ:ブラウン大学客員研究員、経済学者。
ロベルト・ヴォルペ:経済開発省政策アナリスト
ミケーレ・カンタレッラ:モデナ・レッジョ・エミリア大学経済学博士課程学生

[The effect of fake news on populist voting: Evidence from a natural experiment in Italy, VoxEU.org, / Nicolo Fraccaroli Roberto Volpe Michele Cantarella / 11 Jul 2019.]

References

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1 Il Sole 24 Ore (2018), “Fake news: quando le bugie hanno le gambe lunghe”, 4 May.
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